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ソーセージ戦争は一時休戦

~EUルールの適用免除期間を3ヶ月延長へ~

田中 理

要旨

英国とEUは、北アイルランド住民間の緊張激化に配慮し、北アイルランドへのEUの食品安全基準や動植物検疫ルールの適用免除期間を3ヶ月延長することで近く合意する見通し。英国が一方的に離脱の取り決めを破棄し、EU側が英国からの輸入品に報復関税を課す英EU間の貿易戦争はひとまず回避される。だが、北アイルランド議定書の運営見直しを巡る両者の溝は深く、延長後の期限を迎える9月末に向けて、英EU間の緊張が再燃する可能性が高い。

6月17日付けレポート「英EU間に貿易戦争の影」では、北アイルランド議定書の運営見直しを巡る英EU間の協議難航で、英国が北アイルランドでのEUの食品安全基準や動植物検疫ルールの適用免除期間を一方的に延長したり、議定書を一方的に破棄する場合、EU側が英国からの輸入品に報復関税を課す恐れがあることを指摘した。免除期間が終了する6月末が迫るなか、英国は3ヶ月の免除期間延長を要請し、EUがこれを受け入れる方針を固めたと23日付けの英テレグラフ紙が伝えている。これにより、双方が報復関税を課す英EU間の貿易戦争はひとまず回避される。

英EU間の離脱取り決めで、移行期間終了後の北アイルランドには引き続き、EUの厳しい食品安全基準や動植物検疫ルールが適用される。英国がまだEU加盟国であった時点で取得した基準の適合証明や免許は、離脱後の北アイルランドでは無効となるため、北アイルランドで食品の販売や加工を行う業者や北アイルランド向けに食品を出荷する英国本土の業者は、改めて各種の証明や免許を取得しなければならない。また、英国本土から北アイルランドに出荷する際には、規制適合検査や動植物検疫が必要となり、通関業者の手配や事務手続きのコストが嵩む。そのため、移行期間終了後の北アイルランドで食料品不足が発生している。英国本土から北アイルランド向けに冷蔵肉の出荷が難しくなることから、英メディアはこれを「ソーセージ戦争」と呼んでいる。

英EUともに北アイルランド住民間の緊張再燃に配慮した模様で、英国が免除期間中に食品安全基準を変更しないことを条件に、来週中にも正式に免除期間の延長で合意するとみられる。両者はその間に北アイルランド議定書の運営見直しの協議を進めるが、英国側が同等性評価を要求しているのに対し、EU側は将来にわたってEUルールの受け入れを求めており、両者の溝は深い。来年5月の北アイルランド議会選挙が今年秋に前倒しされる観測も浮上するなか(詳しくは23日付けレポート「北アイルランド政局の混乱が続く」を参照されたい)、党勢回復を目指す北アイルランドのユニオニスト政党は、英国政府に対して議定書見直しでの一定の成果を要求している。延長後の免除期間が終了する9月末に向けて、改めて英EU間の緊張が高まる展開が予想される。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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