- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ECBは様子見継続
- 要旨
-
- ECBは4会合連続で利下げを見送った。先行きの不確実性の高さに鑑み、利下げ再開の可能性を残しつつも、景気回復や中期的な物価安定に自信を深め、景気見通しを上方修正した。新たに発表した2028年の見通しは、成長率が潜在成長並みに収斂し、物価が2%で安定する姿を描く。筆者は2026年に利上げの地ならしを開始し、2027年に実際の利上げを開始すると予想する。
欧州中央銀行(ECB)は12月18日に終わった理事会で、4会合連続で政策金利を据え置いた。下限の政策金利(預金ファシリティ金利)は現在2.0%と、ECBが考える中立金利の水準(1.75~2.25%)の中央値にある(図表1)。前回金融政策を討議した10月の理事会や、前回スタッフ見通しを発表した9月の理事会以降、景気指標は全般に上向いている。金利の据え置きや声明文の文言の決定は全会一致によるもので、理事会内の討議で利上げや利下げの必要性を訴えたメンバーはいなかった。声明文の文言(データに基づいて理事会毎に判断する)、ラガルド総裁の発言トーン(我々は良い状況にあるが、この状況は変わり得る)、新たなスタッフ見通しの予測値(中期的に2%の物価目標を達成)は、何れも景気回復や中期的な物価安定の達成に自信を深めつつも、先行きの不確実性の高さを踏まえ、追加利下げの余地を残し、早期の利上げ観測の浮上を封印する内容となった。筆者は今後もECBが政策金利を据え置き、財政拡大の効果を確認したうえで、利上げに向けた地ならしを開始し、実際の利上げ開始は2027年にずれ込むと考える。財政拡大の効果が予想を上回る場合やウクライナ停戦が実現する場合、利上げ開始時期が2026年中に早まる。今回の理事会の主なポイントは以下の通り。

【フォワード・ガイダンス】
声明文では「データに基づいて、理事会毎に適切な金融政策スタンスを決定する。政策金利の決定は、インフレ見通しとそれを取り巻くリスクに関する評価、今後発表される経済・金融データ、基調的なインフレの動き、金融政策の伝達の強さを考慮して行われる。事前に特定の政策金利の経路を約束することはない。インフレ率を中期的な目標に向かって持続的に安定させ、金融政策の伝達が円滑に機能するように、その責務の範囲内であらゆる手段を調整する準備がある」との従来の政策指針(フォワード・ガイダンス)を維持した。
【景気のリスク判断】
ECBは前回理事会の声明文で、景気の下振れリスクと上振れリスクの双方に言及したが、最近のパレスチナ自治区ガザでの停戦合意、米国と中国との貿易協議の前進、今夏の米国とEUとの貿易合意などを受け、下振れリスクの幾つかが和らいでいると指摘していた。今回の声明文では、不安定な国際環境、世界的な金融市場の心理悪化、地政学的な緊張が景気を下振れさせるリスクと、防衛費やインフラ関連の財政拡大、生産性向上、心理改善が景気を上振れさせるリスクを両論併記するのにとどめ、リスク判断がどちらに傾いているか明確に示さなかった。上振れと下振れのリスクがより均衡化してきたことを示唆すると受け止めることができよう。
【総裁の発言トーン】
ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、過去数回の金利据え置き時に使った「我々は良い状況にある」との文言を用いて様子見姿勢を続けることを説明したが、同時に「この状況が静的であることを意味しない」と付け加えることで、今後の状況次第で利下げにも利上げにも動く可能性があることを示唆した。また、AI普及などの構造変化が経済の回復力を高めているのではないかとの記者の問題提起に対して、「民間投資が予想以上に伸びており、何らかの変化が起きている可能性がある。こうした事象が持続的なものかどうか、次回2月の理事会までにもう少し分析を深める」と答えた。
【スタッフ見通し】
新たなスタッフ見通しでは、2025~27年の各年の成長率が上方修正され(2025年:+1.2%→+1.4%、2026年:+1.0%→+1.2%、2027年:+1.3%→+1.4%)、新たに発表された2028年の予測値は+1.4%と潜在成長率並みに収斂する(図表2・3)。物価見通しは、2026年が+1.7%→+1.9%に上方修正されたが、これは足元の賃金上昇率が予想を上振れし、サービス物価が高止まりすることを反映したものであると説明した。但し、賃金トラッカーや各種サーベイ調査が示唆する通り、先行きの賃金上昇率については鈍化に向かうとの見方を維持している。逆に2027年の物価見通しは+1.9%→+1.8%に下方修正されたが、これは新たな排出量取引制度(ETS2)の運用開始が当初予定の2027年から2028年にずれ込む可能性が高まったことを反映したもの。排出量取引分の価格転嫁が、物価を押し上げることが想定されている。新たに発表された2028年の物価見通しは+2.0%と中期的な物価安定に収斂し、四半期毎では2028年1~3月期に前年比+2.0%に達した後、4~6月期以降は同+2.1%と僅かに2%を上回ることが予想されている(図表4・5)。




【後継総裁人事】
記者会見では2027年10月末に退任するラガルド総裁の後継人事に関する質問も数多く出た。総裁・副総裁・4名の理事で構成される6名の役員会メンバーのうち4名が向こう2年の間に交代する(図表6)。役員会人事は加盟国政府に決定権があり、出身国が重複しないよう国別バランスに配慮して選ばれる。来年5月に任期満了を迎えるデギンドス副総裁(スペイン出身)の後継人事が、その後の総裁人事を占ううえで重要となってこよう。
記者会見では、後継総裁候補としてオランダ中銀のクノット前総裁やドイツ出身のシュナーベル理事の名前が記者から挙がったが、ラガルド総裁は「何れも素晴らしい総裁候補である」としたうえで、自身が判断を下す立場にないことや、他にも多くの素晴らしい候補がいると付け加えた。シュナーベル理事は最近のインタビューで、ラガルド総裁の後継候補への立候補に意欲を示した。現職理事が総裁に就任できるかを巡っては、2代目総裁選出時のノワイエ副総裁(当時)、4代目総裁選出時のクーレ理事(当時)の時に候補となったが、総裁就任が見送られた。ラガルド総裁はこの点についても言及し、「当時の司法関係者の判断では現職理事の総裁就任はできないとのものだったが、何が可能で何が不可能か、その条件を確かめるために、この問題を改めて検討する必要がある」と発言し、シュナーベル理事の総裁就任の可能性を否定しなかった。学者出身のシュナーベル理事は理事会内の政策議論をリードする論客で、タカ派として知られる。過去4人のECB総裁の出身国は、オランダ(ドイセンベルク氏)、フランス(トリシェ氏)、イタリア(ドラギ氏)、フランス(ラガルド氏)で、域内最大の経済国ドイツ出身者はいない。金融政策の転換点でドイツ出身のタカ派総裁が誕生するか否かに注目が集まる。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

