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ドイツ政界に激変の予兆

~緑の党が世論調査で逆転、政権奪取に近づく~

田中 理

要旨

秋の連邦議会選挙で第一党の座を争うキリスト教民主同盟(CDU)と緑の党が首相候補を発表した直後に行われた世論調査では、緑の党がCDUを逆転した。気候変動問題への関心の高まりも然ることながら、変化を求める有権者の声が緑の党の追い風となっている。ドイツの国政史上で初めて、緑の党が主導する政権が誕生する可能性が出てきた。

ドイツ連邦議会選挙で第一党の座を争う現与党・キリスト教民主同盟(CDU)と環境政党・緑の党(Grüne)が首相候補を発表後に行われた最新の世論調査の結果は、政権継続を目指すCDUにとって厳しいものとなった。両候補の詳細は4月20日付けレポート「ポスト・メルケルのもう1つの顔」と「ドイツ選挙戦が本格始動」を参照されたい。

調査会社Forsaが20日に行った調査では、20%台前半で推移していた緑の党の支持が28%に急伸した一方、20%台後半で支持下げ止まりの兆しがみえていたCDUの支持が23%に急落し、両党が逆転した(図表1)。CDUが失った支持は主に緑の党と中道リベラル政党・自由民主党(FDP)に流れ、二大政党の一角を占める中道左派政党・社会民主党(SPD)の支持の一部も緑の党に流れた。この調査を元に計算すると、緑の党とSPDの左派二党で連立政権を発足するのは過半数に届かないが、そこに過去に左派・右派双方の政権に加わったことがあるFDPや、旧東ドイツの政党の流れを汲む左派政党・左翼党(LINKE)を加えた三党による左派連立政権では過半数を上回る(図表2)。また、緑の党とCDUが二党で連立を組む場合も過半数を上回る。何れの場合もドイツの国政史上で初めて緑の党が主導する政権が誕生することになる。

支持率逆転は両党の首相候補への期待感の現れの差異を反映している。老練な政治家で、メルケル路線の踏襲者とされるラシェット候補に対して、40歳と若く、唯一の女性候補であるベアボック氏は政治刷新をアピールできる。気候変動問題への関心の高まりも然ることながら、16年に及んだメルケル施政と二大政党を核とした長年の政権運営に、変化を求める有権者の声が緑の党に対する追い風となっている。議員内閣制のドイツでは最大与党の首相候補が首相に就任するのが通例だが、どの候補が首相に相応しいかを尋ねた世論調査では、ベアボック氏が一段と支持を伸ばし、頭一つ抜け出している(図表3)。

両首相候補の発表後に行われた別の世論調査の結果は、ここまで衝撃的な内容ではなかった。調査会社INSAが20日に行った調査で、CDUは支持率を28%→27%に僅かに落とし、緑の党が21%→22%に伸ばしたが、逆転には至っていない。秋の連邦議会選挙までは5ヵ月余りあり、足元でワクチン接種が加速するなど政権への不満の一因となっていたコロナ危機対応に改善の兆しもみられる。緑の党がこのままの勢いで政権奪取に成功するのか、コロナ克服や経済活動再開でCDUが盛り返すのかは、今後の世論動向を見極める必要がある。選挙戦は始まったばかりだ。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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