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ドイツ選挙戦が本格始動

上位2党の首相候補が出揃った

田中 理

要旨

秋の連邦議会選挙で政権継続を目指すキリスト教民主同盟(CDU)は、1月に同党党首に就任したラシェット氏を首相候補に選出した。政治経験が豊富でメルケル路線の踏襲者とされる同氏に対して、第一党の座を争う緑の党は閣僚経験のないベアボック共同党首を首相候補に選出した。中道穏健派のラシェット氏は保守層に不人気で、得意とする中道票では若さや新鮮さをアピールするベアボック氏が立ちはだかる。今後の党勢立て直しや6月の州議会選挙に注目する。

秋の連邦議会選挙が近づくドイツでは、世論調査で二番手につける緑の党に続き(詳細は20日付けレポート「ポスト・メルケルのもう1つの顔」を参照されたい)、逃げ切りを図る与党・キリスト教民主同盟(CDU)が20日未明、7時間以上に及んだ党幹部の協議とその後の無記名投票で首相候補を選出した。46の党幹部票のうち、今年1月にCDUの新党首に選出されたラシェット氏(ノルトライン=ヴェストファーレン州首相)が31票を集めた。先週、首相候補に正式に名乗りを上げた姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー党首(バイエルン州首相)は9票にとどまり、既に投票結果を受け入れることを表明している。だが、ラシェット氏を党の顔として選挙戦を戦うことに不安を覚える党関係者も少なくない。同氏の党首就任後、ワクチン接種の遅れやマスク調達を巡る同党所属議員のスキャンダル発覚もあり、CDUの支持が急落している。誰が首相候補に相応しいかを尋ねる世論調査では、カリスマ性やリーダーシップが高く評価されるゼーダー氏が最多の支持を獲得する一方、手堅いが凡庸な印象が拭えないラシェット氏の支持は低迷する。今回の投票では棄権票が6票に及び、姉妹政党の候補との一騎打ちにもかかわらず、ラシェット氏は自党の幹部会での投票でも満場一致の支持を受けることができなかった。

これで連邦議会選挙で第一党の座を争う二党の首相候補が出揃った。中道穏健派のラシェット氏がCDUの首相候補となったことで、保守層への訴求力が高いゼーダー氏が首相候補となった場合と比べ、右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)に失った有権者を取り戻すことは難しくなる。ラシェット氏が得意とする中道票を巡っては、緑の党が首相候補に選出したベアボック氏が立ちはだかる。最大州の州首相を務め、メルケル路線の踏襲者とされるラシェット氏は、政治経験ではベアボック氏を圧倒する。ベアボック氏は閣僚経験のなさを逆にアピール材料とし、変化を求める有権者の取り込みを目指す。40歳という若さや唯一の女性候補である点もラシェット氏とは対照的だ。秋の連邦議会選前に予定される唯一の選挙は6月6日のザクセン・アンハルト州議会選挙となる(年内の残り3州の議会選挙は連邦議会選挙と同日に予定)。旧東ドイツの同州はAfDが多くの支持を集める。2016年の前回選挙では、AfDが24.3%の票を獲得し、29.8%のCDUに迫った。6月の同州議会選をどう戦うかが、ラシェット氏にとっての試金石となろう。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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