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2025.08.20
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防衛白書(令和7年版)を読む:キーワード解説
~統合作戦司令部、スタンド・オフ、自衛官の処遇改善、防衛装備移転、F-35B等~
石附 賢実
- 要旨
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- 日本は、島国であるがゆえに厳しい安全保障環境の実感に乏しくなりがちだ。防衛白書は昨今の日本を取り巻く安全保障環境を映す鏡である。よくニュースでも耳にするキーワードを補助線に、防衛白書の解説を試みたい。
- 「自衛官の処遇・勤務環境の改善」は、人口減少時代にあって定員割れの自衛官の厳しい募集環境への対応、「統合作戦司令部」の設置は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に対処するため領域横断の即応性が求められていることへの対応で、いずれも重要かつ喫緊の課題といえる。
- 登場する以下キーワードについて、防衛白書における記載ぶりを引用しつつ、筆者の視点で解説を加える。
(1) 統合作戦司令部(JJOC)
(2) 戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)
(3) 日米安全保障体制、日米安保条約
(4) 宇宙作戦団、SDA衛星
(5) サイバー防衛隊
(6) 自衛官の処遇・勤務環境の改善
(7) スタンド・オフ防衛能力、12式地対艦誘導弾能力向上型
(8) 統合防空ミサイル防衛能力(IAMD)
(9) 無人アセット防衛能力
(10) F-35B、いずも型護衛艦
(11) 防衛生産基盤強化法
(12) 防衛装備移転三原則、グローバル戦闘航空プログラム(GCAP) - 筆者は、外部環境の変化、すなわち「力の支配」が強まる現実に対処するため、防衛力の整備が必要との認識に立って論じている。大国が冷戦末期の米ソのように相互の軍備管理・削減と「法の支配」の回復に踏み出すなら、防衛費増額の必然性は後退しうる。大国とされる国の行動は真逆を向いているように見える。
- 防衛白書で強調された施策の進捗・現在地、外部環境の変化を確認しつつ、不断の見直しを重ねていかねばならない。我々の社会や民主主義を守る上で、防衛はその大前提となる。我々一人ひとりが自分事として向き合う必要がある。
- 目次
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- 1. はじめに
- 2. 令和7年版と6年版との比較
- 3. 令和7年版防衛白書のキーワード解説
- (1) 統合作戦司令部(JJOC、JSDF Joint Operations Command)
- (2) 戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)
- (3) 日米安全保障体制、日米安保条約
- (4) 宇宙作戦団、SDA衛星
- (5) サイバー防衛隊
- (6) 自衛官の処遇・勤務環境の改善
- (7) スタンド・オフ防衛能力、12式地対艦誘導弾能力向上型
- (8) 統合防空ミサイル防衛能力(IAMD、Integrated Air and Missile Defense)
- (9) 無人アセット防衛能力
- (10) F-35B、いずも型護衛艦
- (11) 防衛生産基盤強化法
- (12) 防衛装備移転三原則、グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)
- 4. おわりに-白書を起点に防衛のあり方を自分事化したい
1. はじめに
ウクライナでは、ロシアの侵略により市井の人々がある日突然、戦争の当事者となった。日本は、島国であるがゆえに厳しい安全保障環境の実感に乏しくなりがちだ。しかし海上封鎖、サイバーによる妨害、ミサイルなどによる威嚇といった事態が将来発生する可能性は、ゼロとは言い切れない。我々自身が当事者になりうるということを認識する必要がある。そして当事者とならないように、即ち我々の社会や民主主義を守るための重要なピースが防衛である。防衛白書は昨今の日本を取り巻く安全保障環境を映す鏡である。よくニュースでも耳にするキーワードを補助線に、防衛白書の解説を試みたい。
2. 令和7年版と6年版との比較
まず、防衛白書令和7年版について、令和6年版と比較して登場回数が増加したキーワード(資料1)、さらに全体構成について令和6年版との比較を概観する(資料2)。

資料1からは、項番1「自衛官」、3「人材」、5「勤務環境」、6「生涯設計」(注1)、7「処遇」、9「生活」といった、自衛官の処遇・勤務環境の改善に係るキーワードの増加が際立つ。また、3「サイバー」、8「統合作戦」、10「統合作戦司令部」、12「領空侵犯」、13「衛星」など、厳しさを増す安全保障環境とそれへの対応状況を彷彿させるキーワードの増加も目立つ。16「レバノン」は在レバノン邦人の輸送が行われたこと、27「メダル」は自衛隊からパリオリンピックに出場した選手が複数名存在したことによる。

資料2をみると、構成上の最も大きな変化は、第Ⅳ部「防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化」の新設である。次章キーワード解説にて、処遇改善等の背景として日本の人口減少下の厳しい募集環境などについて触れる。
巻頭特集はその年の重要課題が掲載されるが、「統合作戦司令部と統合作戦」が、「自衛隊員の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立」とともに示されている。「統合作戦司令部」の設置は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対処するため領域横断の即応性が求められるなかでの対応である。
3. 令和7年版防衛白書のキーワード解説
重要なキーワードについて、各キーワードの冒頭で令和7年版防衛白書からの引用を示した上で、筆者の解説を加える。
(1) 統合作戦司令部(JJOC、JSDF Joint Operations Command)
- 国家防衛戦略や防衛力整備計画において、各自衛隊の統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦を実現できる体制を構築するため、陸・海・空自の部隊の一元的な指揮を行いうる常設の統合司令部を創設することとされた。これを踏まえ、2025年3月に、常設の統合司令部として、統合作戦司令官を長とする「統合作戦司令部」を市ヶ谷に設置した。(P232)
統合作戦司令部は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、横断的かつ迅速な意思決定を行う指揮統制機能を強化することを目的とした「常設」の司令部となる。これまでは、必要に応じて陸・海・空の2つ以上の部隊からなる統合任務部隊を都度組織していた。中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル脅威の高まりといった「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」(内閣官房(2022)「国家安全保障戦略」序文)において、宇宙・サイバーを含む領域横断作戦の一元的指揮が求められていたなかで、今般の設置となった。加えて常設の司令部が、在日米軍との連携強化により日米共同対処能力、即応能力の向上を図るとされる。米国側も歩調を合わせて2025年3月から「在日米軍の統合軍司令部へのアップグレード」を開始している。
なお、従前の統合幕僚監部は引き続き存在する。統合幕僚監部は、防衛大臣の補佐として統合運用の企画・計画、評価等を担う。これに対し統合作戦司令部は、その方針・計画に基づき、平時から有事まで自衛隊各部隊を常設で一元指揮する。両者の役割分担や運用など、組織の実効性が求められていくことになる。
(2) 戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)
- 「国家安全保障戦略」:外交政策と防衛政策を中心とした国家安全保障の基本方針であり、2013年にわが国として初めて策定された。2022年には、わが国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している現状を受け、これまでの外交・防衛分野のみならず、経済、技術、情報も含む幅広い分野の安全保障政策に戦略的な指針を与えるものとして、新たな国家安全保障戦略が策定された。
- 「国家防衛戦略」:わが国の防衛目標やこれを達成するためのアプローチ・手段を示すものとして、2022年に国家防衛戦略が初めて策定された。これは、1976年以降6回策定されてきた、自衛隊の防衛力整備、維持および運用の基本的指針である防衛計画の大綱(防衛大綱)に代わるものである。
- 「防衛力整備計画」:国家防衛戦略に従い、防衛力の水準やそれに基づくおおむね10年後の自衛隊の体制、5か年の経費総額や主要装備品の整備数量を示した中長期的な計画として、2022年に初めて策定された。 (P198、一部省略)
これらの文書が2022年に策定・改定された背景には、ロシアのウクライナ侵略や中国の軍事的台頭、北朝鮮の核・ミサイル開発の加速といった深刻化する安全保障環境があった。特に、従来の防衛大綱に代わって「国家防衛戦略」が策定されたことは、単なる名称変更ではなく、前項で述べた通り日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面する中で、より包括的かつ戦略的なアプローチを取る必要性が出てきたことを意味する。また、「国家安全保障戦略」における防衛費のGDP2%目標や反撃能力導入への言及、「防衛力整備計画」に明示された5年間で43兆円の防衛投資は、日本の防衛戦略の大きな政策転換を象徴しているものである。
(3) 日米安全保障体制、日米安保条約
- 日米安保条約第5条の規定に基づき、わが国に対する武力攻撃があった場合、日米両国が共同して対処するとともに、同第6条の規定に基づき、米軍に対してわが国の施設・区域を提供することとしている。この米国の日本防衛義務により、仮にどこかの国がわが国に対して武力攻撃を企図したとしても、自衛隊のみならず、米国の有する強大な軍事力とも直接対決する事態を覚悟しなければならなくなる。この結果、相手国は侵略を行えば耐えがたい損害を被ることを明白に認識し、わが国に対する侵略を思いとどまることになる。すなわち、侵略は抑止されることになる。わが国としては、このような米国の軍事力による抑止力をわが国の安全保障のために有効に機能させることで、わが国自身の防衛体制とあいまって隙のない態勢を構築し、わが国の平和と安全を確保していく考えである。(P317)
この引用箇所は日米安全保障体制の「拡大抑止」(注2)の理論的基盤を示している点で重要な意味を持つ。特に注目すべきは、日米安保条約が相互防衛条約ではなく、米国の圧倒的な軍事力を日本の安全保障のために援用する非対称同盟として機能している構造が説明されていることである。現在の安全保障環境は非常に厳しく、中国による核弾頭約600発の保有(推計、SIPRI(2025)P11)、北朝鮮の核兵器小型化・弾頭化の実現可能性、ロシアの戦術核使用の威嚇といった複合的な核脅威に直面する中、拡大抑止の信頼性がこれまで以上に問われていくことになる。なお、拡大抑止は「核の傘」に限定されるものではなく、通常戦力とともに効果が発揮されるものとされる。
(4) 宇宙作戦団、SDA衛星
- 空自においては、宇宙領域の体制整備として、航空宇宙自衛隊(仮称)への改編も見据え、宇宙作戦能力の強化に取り組んでいる。この一環として、2025年度には、SDA(Space Domain Awareness)衛星(2026年度打ち上げ予定)の運用体制の構築をはじめ、宇宙領域の状況把握に関する能力を強化するため、現在の宇宙作戦群を廃止し、宇宙作戦団(仮称)を新編することとしている。(P220)
2020年の20人規模の宇宙作戦隊発足からその後の宇宙作戦群の編成、そして2025年の670人体制とされる宇宙作戦団への発展は、中国・ロシア・北朝鮮の対衛星攻撃能力の向上や、宇宙デブリの急激な増加という脅威に対応した組織進化とされる。特に重要なのは、2026年打ち上げ予定のSDA衛星により、従来の宇宙状況把握(SSA、Space Situational Awareness)から宇宙領域把握(SDA)への能力拡張を図る点にある(注3)。また、「航空宇宙自衛隊」への改編を見据えた組織改革は、米宇宙軍との連携強化と相まって、日本の宇宙防衛能力の実質的な向上を実現していくためのものである。宇宙を「戦闘領域」と位置づける国際的潮流の中で、日本が受動的な宇宙利用国から、能動的に宇宙安全保障に関わっていくという防衛戦略の転換を図る重要な一歩となっていくのか、注目される。
(5) サイバー防衛隊
- 2022年、陸・海・空自の共同の部隊として自衛隊サイバー防衛隊を新編し、サイバー攻撃への対処のほか、陸・海・空自のサイバー専門部隊に対する訓練支援や、防衛省・自衛隊の共通のネットワークである防衛情報通信基盤DII(Defense Information Infrastructure)の管理・運用などを行っている。また、自衛隊サイバー防衛隊をはじめ、陸・海・空自のサイバー専門部隊の体制を拡充しているほか、サイバー要員の育成を推進している。2023年には防衛省整備計画局情報通信課を改編し、サイバー整備課と大臣官房参事官を新設するなど、サイバー政策の企画立案機能も強化した。(P279)
自衛隊サイバー防衛隊の2022年新編は、日本の防衛政策における陸・海・空・宇宙に続く「第五の戦闘領域」としてのサイバー空間への本格対応を象徴する組織改革である。特に重要とされるのは、上記DIIの一元的管理運用機能の確立である。2016年に発生した防衛省へのサイバー攻撃事案なども教訓として、オープン系・クローズ系ネットワークの適切な分離管理と統合的なセキュリティ監視体制の構築の実現を目指しているとされる。また、2027年度までにサイバー専門部隊を4,000人規模に拡充し、サイバー関連業務に従事する隊員への教育を行い、これらを含めて総計2万人のサイバー要員体制構築という野心的目標を立てている。
(6) 自衛官の処遇・勤務環境の改善
- 防衛力の抜本的強化を真に実現するためには、優れた自衛官を安定的に確保し続ける必要がある。(中略)令和の時代にふさわしい処遇を確立する必要がある。この状況を踏まえ、過去に例のない30を超える手当などの新設・金額の引上げを含めた、任務や勤務環境の特殊性を踏まえた給与面の処遇改善(中略)などの在り方の検討といった施策を講ずることとしている。
(中略)組織文化の改革、営舎内居室の個室化、艦艇乗組員の生活・勤務環境の改善、宿舎環境の改善、通信環境の整備の推進、公共交通機関が少ない基地・駐屯地などへのアクセス改善に取り組んでいく。(中略)育児・介護との両立に不安を抱くことなく、任務に専念できる環境の整備や女性活躍のための環境整備、(中略)被服・糧食および健康管理体制の充実にも取り組んでいく。(P428)
人口減少時代に突入した日本は、労働力人口の減少という構造的な制約の下、民間企業でも若手人材の確保に苦慮しており、自衛隊も例外ではない(石附(2025a))。現状約2万人もの自衛隊の定員割れについて、その動向を反転させるのは容易ではない。さらに自衛隊はその任務の性質上、シニア層の活用にも限界がある。こうした中、「30を超える手当新設・引き上げ」といった処遇改善策は、若年層の就業選択において競争力を持つための必要条件である。営舎個室化や育児・介護支援策の充実も、ワークライフバランスを重視する多くのZ世代の志向を踏まえれば同様に必要条件であろう。有事の際に招集される予備自衛官についても年齢要件の緩和などに取り組んでいる。民間企業もこれまで以上に人材確保に向けた様々な施策を講じており、人材獲得競争は厳しさを増していく。今後、自衛隊の定員割れの動向によっては、追加施策や一層の少人化に向けた投資など人材戦略・防衛戦略の修正が求められていくことになる。
(7) スタンド・オフ防衛能力、12式地対艦誘導弾能力向上型
- スタンド・オフ防衛能力とは、侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対して、その脅威圏の外から対処する能力である。長射程化され、迎撃を回避できる高い残存性をもつスタンド・オフ・ミサイルなどにより、脅威圏の外から攻撃することで、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国に対する攻撃を効果的に阻止することができる。また、スタンド・オフ防衛能力は反撃能力にも活用されるものである。(中略)2023年度から量産に着手した12(ヒトニ)式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の部隊配備を1年前倒し、2025年度から配備を開始するとともに、発射プラットフォーム(車両、艦艇、航空機など、ミサイルの発射母体となる装備品)の多様化のため、艦艇発射型と航空機発射型の開発を進めていく。(P267)
スタンド・オフ防衛能力は、自衛隊が敵艦艇や上陸部隊の脅威圏外から打撃を加えられる能力であり、その中核の一つを成すのが12式地対艦誘導弾(12SSM)の能力向上型である。従来の12SSMは約200kmの射程を有し、公海上の海域阻止線を島嶼周辺に設定していたが、報道ベースでは1,000km内外を目指す能力向上型を開発中とされる(注4)。これにより、射程域は敵のミサイル基地や指揮統制施設を直接狙える範囲に拡大し、従来と比べて日本から遠い海域での阻止線設定と敵発射拠点への反撃を一体的に果たせるようになるとされる。
(8) 統合防空ミサイル防衛能力(IAMD、Integrated Air and Missile Defense)
- 周囲を海で囲まれているわが国は、空から侵攻する航空機やミサイルなどの脅威(経空脅威)への対応が極めて重要である。近年、(中略)経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。このため、これらの経空脅威に対する探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて、レーダーなどの各種センサーやシューター(迎撃ミサイルとその発射母体となる装備品)を一元的かつ最適に運用できる体制を確立することで、ミサイル防衛能力を強化していく。(中略)統合防空ミサイル防衛として、わが国に対するミサイル攻撃を、質・量ともに強化したミサイル防衛網により迎撃しつつ、スタンド・オフ防衛能力などを活用した反撃能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛とあわせてミサイル攻撃そのものを抑止していく。(P268-269)
日本は周囲を海で囲まれているため、空から侵攻する航空機やミサイルなどの経空脅威への対応が防衛戦略の重要課題となる。近年、周辺国では極超音速滑空弾や高機動SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を実戦配備段階に移行させている。これらの兵器はマッハ5を超えるような極超音速で飛翔するものや、従来の放物線状の弾道軌道とは異なる変則的な軌道を取るものなど予測・追尾しにくいものが多く、局地的な個別防御では対応が困難である。このため、自衛隊ではイージス艦、ペトリオットPAC-3改良型など複数の迎撃システム(注5)を、高性能レーダーや早期警戒衛星など多種のセンサーと結ぶネットワークに統合し、リアルタイムで最適な迎撃方法を選定・運用する「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」体制の構築を急いでいるとされる。さらに、ミサイルが発射される前段階から相手の攻撃意思決定を思いとどまらせるには、スタンド・オフ防衛能力による反撃能力をIAMD網に連携させ、発射拠点や指揮統制施設を抑止・攻撃できる「拒否戦略」を実現し、相手に認識させることが重要とされる。こうした多層的かつ攻防一体の防衛網により、従来の迎撃網を突破し得る高度なミサイル脅威に対しても、抑止・対処する態勢を確立することを企図している。
(9) 無人アセット防衛能力
- 無人アセット(装備品)は、有人の装備品と比べて安価であることが多く、また、危険な環境下や長時間連続で運用することができる。さらに、AIと組み合わせて運用することにより、無人アセットを同時に、かつ大量に運用できるほか、運用する要員の養成も容易であるといった特性がある。こうした特性を踏まえ、これまで有人の装備品が担っていた業務の効率化や、無人アセットによって新たに可能となるオペレーションに無人アセットを活用することで、任務に従事する隊員の危険や負担をできる限り減らしつつ、陸上、水上、水中、空中において、非対称的な優勢を確保することができることから、無人アセットを幅広い任務に効果的に活用していく。(P272)
人口減少時代に入った日本では、「人の数」で防衛力を支えるのが難しくなっている。そこで、陸上、水上、水中、空中に関わらず、無人機、無人車両、ドローンといった「無人アセット」が重要になる。さらにAIが「敵を自動で見つける」「最適な航路を瞬時に判断する」といった知能的な働きを担うことも加わり、少ない要員で多数の無人アセットを同時に管理できるようになる。これらを大量に運用し、有人の航空機や艦艇と組み合わせることで、広い海や空域をカバーしつつ、隊員の身を守りながら効率よく監視・攻撃ができるようになる。人手不足を補いながら高い防衛力を維持する、人口減少下の防衛の効果的な選択肢の一つである。ウクライナ戦争が示す通り、無人アセットの活用は世界的な潮流にもなりつつある。
(10) F-35B、いずも型護衛艦
- 相手の電子妨害の効果を低減または無効化しつつ作戦を遂行するため、電子防護能力に優れたF-35A戦闘機の取得を推進するとともに、同じく電子防護能力に優れ、短距離離陸・垂直着陸が可能なF-35B戦闘機を取得する。
- (本文とは別に、掲載写真のキャプションとして)空自で導入予定のF-35Bを艦上運用するため、護衛艦「かが」は、米海軍と米海兵隊の支援を得てF-35Bによる艦上運用試験を米国で行った。(P283-284)
F-35B戦闘機は短距離離陸・垂直着陸が可能で、「かが」を含むいずも型・ヘリコプター搭載護衛艦(以下、いずも型護衛艦)での運用が想定されている。「かが」で実施された米軍のF-35Bの艦上運用試験(2024年10月~11月、米国サンディエゴ沖)は、いずも型護衛艦の「艦上航空運用能力の獲得」(いわゆる空母化)に向けた技術的データの収集と日米相互運用性向上を狙ったものであろう。今回の防衛白書では、F-35Bといずも型護衛艦との関係について、写真のキャプションや艦上運用試験時の隊員の声としてのみの掲載で、本文パートには明示されていない。隊員の声や写真を通じて間接的に触れられたこの試験は、日本が艦上航空運用能力の獲得を進めて島嶼防衛強化を図るという、防衛政策の転換と意思の表れといえる。なお、白書発行後の2025年8月にはフィリピン近海での日米英豪など6か国の共同訓練において、英海軍のF-35Bが「かが」に着艦した(注6)。
(11) 防衛生産基盤強化法
- わが国の防衛産業は装備品等のライフサイクルの各段階(研究、開発、生産、維持・整備、補給、用途廃止など)を担っており、装備品等と防衛産業は一体不可分である。防衛産業が高度な装備品等を生産し、高い可動率を確保できる能力を維持・強化していくために必要な施策を講じるため、防衛生産基盤強化法が2023年に施行された。この法律において、防衛大臣は、基本方針を定めることとされており、同年10月にこれを公表した。(P464)
防衛産業は、研究開発から生産、整備、廃棄に至るまで、装備品のライフサイクルを支える国家の防衛戦略の基盤となる。特に、近年の装備品は先端技術を多数搭載しており、その開発・生産・整備には国内サプライチェーンの厚みと高度化が不可欠である。2023年の防衛生産基盤強化法の施行によって策定された基本方針には、①国内基盤重視、②サプライチェーン強靱化、③製造工程効率化・競争力強化、④国際協力と装備移転の推進――といった内容が盛り込まれた(防衛装備庁(2023))。近年、サプライヤーの撤退や生産ライン縮小が相次ぎ、供給網の脆弱性が顕在化している(注7)。これらの枠組みによって防衛産業の空洞化を防ぎ、防衛装備の可動率の改善や国内技術力の長期的な維持・向上が実現するかどうか、注目される。
(12) 防衛装備移転三原則、グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)
- 防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討するため、自民党と公明党は与党ワーキングチーム(WT)において議論を行った。2023年12月、与党WTの提言を踏まえ、防衛装備移転三原則と運用指針が改正された。さらに、与党間での協議を経て、2024年3月、閣議決定および運用指針の一部改正により、厳格な仕組みを設けつつ、わが国が英国およびイタリアと共同開発を行っているグローバル戦闘航空プログラム(GCAP、 Global Combat Air Programme)の完成品について、わが国からパートナー国以外の国に移転を認めうることとなった。(P478)
防衛装備移転三原則と運用指針の改正についての解説は石附(2023)参照。
GCAPは、日本・英国・イタリアが共同で開発を進める次世代ステルス戦闘機プロジェクトである。2024年3月の運用指針一部改正では、この完成機について「パートナー以外の第三国」への移転を新たに可能とした。その際の要件として、①移転対象をGCAP完成機に限定、②相手国が国連憲章を順守する旨の相互協定締結、③実戦地域への直接供与禁止――の三つの限定を設定し、さらに個別案件ごとに閣議で最終判断を行う仕組みを導入した。この仕組みの後押しで完成機の移転が進めば、防衛産業の国内サプライチェーン強靭化にも寄与する。
なお、防衛白書発行後の事案として、2025年8月に豪州が「もがみ型護衛艦」(注8)の導入を決定した。これは、GCAPの特例とは別で、2023年改正の既存条項「国際共同開発・生産」の位置づけで、パートナー国への完成品移転が認められるものである。実際、政府は2024年11月の発表(注9)で、豪州が日本案を選定した場合は共同開発・生産を実施し、完成品を豪州へ移転するとした。初期3隻は日本建造、以後は豪州建造との報道もある(注10)。
4. おわりに-白書を起点に防衛のあり方を自分事化したい
「統合防空ミサイル防衛能力」、「スタンド・オフ防衛能力」、「無人アセット防衛能力」、「サイバー防衛隊」、「宇宙作戦団」といった要素は、単なる能力やアセットの存在にとどまっていては意味がなく、「どう組み合わせて守るか」が重要となる。そこで、自衛隊の各組織を束ねる常設の「統合作戦司令部」を設け、指揮系統を一元化した。さらに、防衛装備移転ルールの見直しなど防衛産業の維持発展に資する枠組み作りを進めている。GCAPやもがみ型護衛艦の豪州への輸出は、完成品の海外移転の試金石となる。そして今回の白書のもう一つの大きな柱は、人口減少下で人材確保が難しいなかでの人への投資である。処遇のみならず、住環境の改善、育児・介護支援といった勤務環境にも踏み込んだ。
筆者は、本解説に際して、外部環境の変化、すなわち「力の支配」が強まる現実に対処するため、防衛力の整備が必要との認識に立って論じている。大国が冷戦末期の米ソのように相互の軍備管理・削減と「法の支配」の回復に踏み出すなら、防衛費増額の必然性は後退しうる(注11)。ここでは詳細に触れないが、大国とされる国の行動は真逆を向いているように見える(石附(2025b))。
防衛白書で強調された各部隊・アセットの能力強化と統合運用、人への投資、そして防衛産業の維持・発展の必要性――「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」の下で防衛力を維持・強化するためには、これら施策の進捗・現在地、外部環境の変化を確認しつつ、不断の見直しを重ねていかねばならない。冒頭述べた通り、我々の社会や民主主義を守る上で、防衛はその大前提となる。我々一人ひとりが自分事として向き合う必要がある。
【注釈】
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自衛隊における生涯設計の課題については以下の記述がある。「若年定年制で多くの自衛官が56歳で退職する中、退職後の生活に不安を感じさせないことが自衛官の確保にとっても重要な課題であり、若年で退職する自衛官の退職後の収入を確保し、引き上げていくとともに、安心して任務に精励することができるよう、充実した生涯設計の確立が必要である。このため、再就職支援の拡充、定年引上げ、若年定年退職者給付金の給付水準の引上げや退職自衛官の部外力としての活用をあわせて検討していく。」(防衛省(2025)P29)
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拡大抑止とは、「ある国が有する抑止力をその同盟国などにも提供することであり、日本は米国から核を含む拡大抑止の提供を受けている。」(防衛省(2025)P323)
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宇宙状況把握(SSA、Space Situational Awareness)は、地球周回上の衛星や宇宙ごみ、軌道・宇宙天気を常時観測・追跡し、衝突回避や安全な衛星運用に必要な情報を把握する活動である。主眼は「どこに何があるか」「どう動くか」を正確に知ることである。宇宙領域把握(SDA、Space Domain Awareness)は、SSAを含むより広い概念で、相手の宇宙活動の意図・能力を読み解き、脅威の評価と意思決定につなげる活動である。
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12SSM能力向上型の射程距離は公表されていないが、「約1,000km」(朝日新聞)・「900~1,500km」(毎日新聞)などと報道されている。
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イージス艦は、強力なレーダーと計算システムで空や海の脅威を同時に見張り、飛来するミサイルや航空機を迎撃する防空用の護衛艦である。「イージス」の名称はギリシャ神話の「盾」に由来する。日本は既存のイージス艦に加えて地上配備型のイージス・アショアを検討していたが、周辺地域の安全上の懸念等から2020年に断念し、代替として同等機能を持つイージス・システム搭載艦の整備に切り替えた。ペトリオットPAC-3改良型は、従来のペトリオットから迎撃できる距離と高さ・機動力を高めて、着弾前の弾道ミサイルや巡航ミサイル、航空機に対応する地対空ミサイルである。
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経団連(2025)「足もとでは、防衛予算増額による受注の積み上げが予想される一方、防衛産業から撤退する事業者もあり、サプライチェーンの完結性に綻びが生じつつある。このため、国内における防衛装備品の供給能力は限界に近づいている状況にある。」
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もがみ型護衛艦は、自動化などによる省人化と多任務対応を特徴とする海上自衛隊の新世代護衛艦である。
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1985年のレーガン=ゴルバチョフ・ジュネーブ会談共同声明は「核戦争は勝てず、決して戦ってはならない」と確認し、その後の管理・削減の規範意識を明確化した。 これを受けて1987年のINF条約は中距離射程500~5,500kmの地上発射弾道・巡航ミサイルと発射機を全面禁止し、最終的に計2,692基を廃棄、現地査察を含む厳格な検証体制を導入した(同条約は2019年に失効)。戦略核では、1991年のSTART I(1994年発効、2009年失効)が大幅削減と詳細なデータ交換・査察を制度化した。現行の枠組みである新START(2010年署名・2011年発効)は配備戦略核弾頭1,550、配備運搬手段700等の上限を課し、2021年に2026年2月5日まで延長されたが、ロシアは2023年に履行「停止」を表明し、通知・査察は事実上停滞している。
【参考文献】
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防衛省(2025)「防衛白書 令和7年版日本の防衛」、同(2024)同令和6年版
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防衛装備庁(2023)「装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針」
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内閣官房(2022)「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」
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経団連(2025)「わが国の防衛装備移転のあり方に関する提言」
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SIPRI(2025)“SIPRI Year Book 2025”
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石附 賢実(2023)「【1分解説】防衛装備移転三原則とは?」
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石附 賢実(2025a)「日本の防衛と自衛隊:人口減少とトランプ政権の衝撃~求められる自立、成長会計の視点から~」
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石附 賢実(2025b)「トランプ政権『力の支配』で変容するパワー・バランス概念~ヤルタ2.0を想起、米中露でGDP45%、軍事費55%、核弾頭92%の現実~」
石附 賢実
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