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2025.04.15
国際秩序
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トランプ政権「力の支配」で変容するパワー・バランス概念
~ヤルタ2.0を想起、米中露でGDP45%、軍事費55%、核弾頭92%の現実~
石附 賢実
- 要旨
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2025年1月、米国で再びトランプ大統領が就任した。他国の主権を脅かす発言や行動を通して、ロシアなど権威主義的な国家とともに国際秩序を揺るがしている。米国が「法の支配」を無視したかのような「力の支配」を誇示する姿勢は、WTO協定違反の可能性が高い相互関税を含め、国内外で「法の支配」を弱体化させている。こうした情勢が及ぼすパワー・バランス概念の変容の可能性について考察する。
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従来、国際社会のパワー・バランスは「民主主義陣営 vs 権威主義陣営」というような枠組みで捉えられがちであったが、昨今の米国の振る舞いはこのような視点でみていくことの意義を失わせる可能性がある。
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本レポートでは、①米中露による「力の支配」を想起させる「ヤルタ2.0」、②ミドルパワー国たる日・欧がリーダーシップを発揮する、③ 欧州が「力」の一角を目指す、④中国が相対的に好ましい大国として台頭する可能性、のオプションを考察する。
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①については、米中露のGDPの世界シェアは45.1%、軍事費では55.4%と世界の過半、核弾頭数に至っては91.8%を占める。数字だけみれば協調して「力の支配」を規定する誘惑に駆られてもおかしくない3か国ともいえよう。現状、米中は敵対関係・競争関係にあるが、今後を占う上では、米中のリーダー間の関係性がどう変化していくのか、特に注視していく必要がある。②~④については本文を参照されたい。こうしたパワーの組み合わせは、あくまでも「可能性」であることを強調しておきたい。
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特に、「法の支配」を基盤とした秩序を維持するためには、ミドルパワー国が連携し、新興国との協調を通じて安定した国際秩序を形成する努力が不可欠である。米国がこうした価値観を共有する陣営にとどまるよう、日本や欧州をはじめとするミドルパワー国が連携し、積極的に働きかけていくことも求められる。その努力こそが、「力の支配」が台頭する世界において、「法の支配」を基盤とした秩序を維持し、安定した未来を切り拓く鍵となるであろう。
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- 目次
1.はじめに~「力の支配」と「法の支配」の狭間で揺れる国際秩序
2025年1月、米国で再びトランプ大統領が就任した。ウクライナ侵略3年を機に提出されたロシア非難の国連決議について、中国が棄権するなかで、米国はロシアや北朝鮮とともに反対票を投じた。トランプ大統領はグリーンランドやパナマ運河獲得の欲望を隠さないなど、他国の主権を脅かす発言や行動を繰り返している。問題は、米国が権威主義的な国とともに国際秩序を揺るがしている点にある。法の支配に従って選出された米国の大統領が、国際社会において「法の支配」を無視したかのような「力の支配」を誇示する姿勢は、WTO協定の最恵国待遇(注1)等に違反する可能性が高い相互関税の一方的な宣言を含め、国際社会の「法の支配」を弱体化させている。そして、最近では政権の強権的姿勢が先鋭化し、ホワイトハウス内で一部通信社が締め出され報道の自由が脅かされつつあるなど、米国内でも「法の支配」が揺らいでいるようにも見える。法の支配、力の支配については石附(2023)を参照されたい。
この先、「力」のある国が力を誇示し、弱い国を理不尽に従わせる、「力の支配」の世界となってしまうのだろうか。今のところ米中関係は競争・敵対関係にあるが、経済力・軍事力が突出した両国と、巨大な核戦力を持つロシア、即ち米中露が「力」で幅を利かせ、国際秩序を規定する世界となってしまうことは万が一にも避けたい。
現状、日本、そして欧州の多くの国が米国と軍事同盟を結んでいる。米国に頼りながらも米国から「デリスキング」的に自立を志向する、そして、法の支配を信奉する・信奉せざるを得ない国々が連携して力の支配に対抗していく――日本を含むミドルパワー国には、このような難しい舵取りが求められていくことになる。中国が新興国を取り込む動きも加速されよう。また、現状一枚岩とはなっていないものの、欧州が米中に対抗しうる「力」を獲得すべく結束することも、オプションとしては排除されまい。本レポートではこうした国際情勢の変化が及ぼす、パワー・バランス概念の変容の可能性について考察する。
2.従来はパワー・バランスを「民主主義陣営vs権威主義陣営」でみていた
拙稿(2024)では、Freedom Houseの “Freedom in the World”調査の3つの自由度区分に基づいてGDPを積算し、パワー・バランスの推移をみていた。資料1は拙稿(2024)のグラフの直近年度のデータを報告書の2024年調査分にアップデートしたものである。一見、Free国≒民主主義陣営のパワーの後退は落ち着きを見せているように見えていた。同稿において、民主主義陣営のパワーを維持するには、Free国が経済成長することに加えて、各国において民主主義の度合いを維持・高めることが必要と指摘していたところであるが、昨今の国際情勢は、それどころではなくなってきている。特に米国の振る舞いは、ロシアとの融和や同盟国への恐喝といった、これまでの想定のはるか斜め上を行くものだ。もとより「民主主義陣営vs権威主義陣営」といった綺麗な色分けができる世界ではないが、国内については「自由」で「法の支配」が機能していたとされる米国が、国際秩序の最大の不安定要因となっているとすれば、資料1のように自由度別にパワー・バランスをみていく意義を失わせる可能性がある。なぜなら、国内の自由度の高い、法の支配が機能している国が、国際社会においても法の支配を重視する、という暗黙の価値観が崩れるからだ。さらには、そもそも米国が国内においても「法の支配」を軽視する方向に突き進むことがあるとすれば、米国自身の自由度評価も下落していくことになる。

3.今後のパワー・バランス概念の行方
(1) 米中露による「力の支配」を想起させる「ヤルタ2.0」
まず大前提として、現時点において、米中露で国際秩序を規定しようとするような具体的な協調行動がみられるわけではない。特に米中は敵対・競争関係にある。ただ、そのリスクを感じさせる概念としてヤルタ2.0(新ヤルタ会談)なるキーワードがささやかれはじめており、潜在的な利害調整の可能性について、全くの絵空事と断じづらい雰囲気はあるだろう。ヤルタ2.0とは、第二次世界大戦末期のヤルタ会談を念頭に、ウクライナの停戦交渉をはじめとした昨今の混迷した国際情勢のなかで、米中露といった大国が主導する新たな国際秩序の形成を示唆する言葉である。1945年のヤルタ会談では米英ソの三国が第二次世界大戦後の勢力圏について合意している。
ロシアはウクライナとの停戦に向けて、ウクライナや欧州諸国を停戦交渉から排除し、米露間で直接交渉を進めることを模索してきた。このようななかで、ヤルタ2.0という言葉は主にロシアのメディアで使われ始めたとされているが、米国は「アメリカ・ファースト」の外交路線のもと、他国の主権に干渉するとともに経済的威圧を辞さない姿勢を示しており、ヤルタ2.0の思想観と共鳴する部分が見られる。
この米中露といったプレーヤーが「力の支配」を志向する世界はどの程度の現実味があるものであろうか。まずは、この3か国が世界のなかでどの程度のパワーを持ち合わせているのかを概観したい。ここでは単純化し、GDP、軍事費、核弾頭数をみる(資料2)。

米中露のGDPの世界シェアは45.1%、軍事費では55.4%と世界の過半、核弾頭数に至っては91.8%を占める。中国の台頭により経済力・軍事費ともにこの3か国で世界の半分前後を占め、米露の圧倒的な核戦力も相まって、数字だけみれば協調して「力の支配」を規定する誘惑に駆られてもおかしくない3か国ともいえよう。これまでは、米国が「法の支配」の維持に「力」を投じてきたことで、東西冷戦時代から長きにわたりパワー・バランスが保たれてきた。バランサーとして極めて存在感が大きかった米国のリーダーが、ロシアと融和し「力の支配」に傾倒しつつあることの持つ意味は極めて大きい。現状、米中は敵対関係・競争関係にあるが、今後を占う上では米中のリーダー間の関係性がどう変化していくのか、特に注視していく必要がある。関税の報復合戦のさなか、トランプ大統領が習近平国家主席に対して秋波を送るなど、危険な兆候は既にみられている。
3か国のなかでは、ロシアの軍事優先のいびつさが際立つ。経済力ではEUに遠く及ばないものの、軍事費では日本や英国を凌駕し、核弾頭数は米国とともに圧倒的な数量を持つ。また、権威主義的な体制から国民の動員が比較的容易に可能で、ウクライナ侵略においても人的損耗を厭わない消耗戦を仕掛けている。ロシアは、大国として振る舞い続ける欲望を満たすためにも、経済力に見合わない高いレベルの軍事予算と核弾頭数の維持に注力し続けるものと思われる。
(2) ミドルパワー国たる日・欧がリーダーシップを取る
日本をはじめとしたミドルパワー国は、ヤルタ2.0が想起される世界で生き残っていくためにどうすればよいのだろうか。力で米中露に太刀打ちできないのであれば、ミドルパワー国同士で連携し、「法の支配」を重視するグループを形成し、新興国を含むその他の国々とともに力を結集して歩んでいくナラティブが想定される。資料2におけるミドルパワー国は、米国以外の主要先進国陣営のイメージである。ノルウェーやニュージーランドなど必ずしも経済規模が大きくない国も含めているが、軍事連携の可能性や、西側高所得国といった属性で選定した。例えば、インドは人口・経済規模が大きいものの、ここでは後述する新興国との親和性が高いと判断した。
ミドルパワー陣営は経済力シェアにおいて31.3%と存在感を示すものの、軍事費シェアは24.1%と経済力に比して見劣りする。核弾頭は英仏が保有しているのみで、その数も米露と比べれば圧倒的に少ない。これまで核抑止力を含めて安全保障の多くを米国に頼ってきた実態は否めないであろう。
パワー・バランスを考える上では、GDPで24.0%、軍事費で20.6%のシェアを持つ「その他」の国々とともに歩めるかどうかが大きなポイントとなる。その他に含まれる中露以外の新興国(グローバル・サウス)の多くは自国の国益に沿った外交を展開しており、どの陣営につくといった旗色は鮮明にしない傾向にある。しかし、力で大国に対抗できないのはミドルパワー国と同じ、もしくはそれ以上であり、主権国家として大国からの独立性を保つためには、法の支配の重要性が従前と比べて増している点を指摘したい。そして日本は、第二次世界大戦後の一貫した「法の支配」に寄り添った行動とその信頼感を活かし、新興国とともに歩むミドルパワー国のリーダー格になりうる存在だろう。
(3) 欧州が「力」の一角を目指す
EUのGDPシェアは17.6%と中国と同水準、軍事費シェアも13.1%とこちらも同水準である。この数字だけみればEUの力はかなり大きく、「力」の一角を占める潜在力を持つ(資料3)。実際、トランプ政権の誕生を受けて欧州では大きなムーブメントがおきている。トランプ政権はNATOへの関与縮小を示唆し、ウクライナへの軍事支援を一時停止するなど、欧州の安全保障に深刻な影響を与えている。バンス副大統領はミュンヘン安全保障会議で、「敵はロシアでも中国でもなく欧州内部からの価値観の後退」だと非難し、欧州首脳陣を驚かせた。これらに対抗する形で、欧州委員会は「ReArm Europe」計画を発表し、今後4年間で8,000億ユーロ以上の防衛予算増加を目指すこととした。ドイツでは憲法上の債務制限(新規借入額のGDP比制限)の適用対象を緩和し防衛費増加を容易とし、フランスや英国も同様に防衛費増加を進めている。これらの動きは、米国への依存から脱却し、自立的な安全保障体制を構築する試みといえる。ただ、欧州全体が完全に結束しているわけではなく、例えばハンガリーのオルバン首相はEUの防衛政策やウクライナ支援に対して異議を唱えている。さらに、核抑止力や軍事技術面では依然として米国への依存が強く、完全な自立には時間がかかるであろう。それでも、「ReArm Europe」計画や各国独自の防衛への投資は、欧州全体として新たな安全保障体制を構築する方向性を示したものだ。「力」の一角として台頭するシナリオが現実味を帯びるか、今後の動向が注目される。そして、欧州が強化する「力」は、「法の支配」を重視する欧州の伝統や価値観を背景に、その維持と強化に振り向けられることを期待したいところである。

(4) 中国が相対的に好ましい大国として台頭する可能性~中国中心の世界
トランプ政権が2025年4月に発動した相互関税政策によって、多くの新興国は厳しい状況に直面している。例えば、ベトナムは米国から46%もの高関税を課されるとされた(2025年4月14日現在、他国とともに猶予期間中)。このような状況下で、中国は新興国に対して「より信頼できるパートナー」としての立場を強調し、米国の保護主義的政策に対抗する形で影響力を拡大させる可能性がある。つい数か月前まで、米国がこれまでの常識をはるかに超越した相互関税を導入し、中国が自由貿易の旗手を標ぼうする世界を誰が想像できたであろうか。
先に述べたように、中露以外の新興国(グローバル・サウス)の多くは自国の国益に沿った外交を展開しており、どの陣営につくといった旗色は鮮明にしない傾向にある。しかしながら、トランプ関税に対処すべく経済的利益を優先して中国との取引や協力関係を大幅に強化していくことになるとすれば、世界の重心がより中国に寄っていくこととなる。米国の混迷がさらに極まってミドルパワー国までが中国に惹きつけられるような事態となれば、重心が寄るどころか中国中心に国際秩序が形成されることとなり、世界のパワー・バランスは一変する。
2025年4月14日現在、先に述べた相互関税について、米国に対して報復措置を取らなかった国に対しては90日の猶予が与えられ、報復措置を講じた中国に対しては税率が145%まで引き上げられた。中国と徹底的に対峙する米国の姿勢が鮮明となり、今後、中国側がどう対応していくのか、その他の国々の米中それぞれとの距離感はどのように変化していくのかなど、様々な要素が絡み合い、米中の力関係の行方は予断を許さない。
4.まとめ~日本をはじめとしたミドルパワーの果たすべき役割は大きい
ここまで、パワー・バランス概念の変容について様々な可能性を検討してきたが、あくまでも「可能性」であることを強調しておきたい。「力の支配」の足音が聞こえてくるなかで、パワーの組み合わせや方向性はこれまでになく予見しづらくなっている。米国の昨今の行動は、数か月前までは予見できなかったし、数か月先はおろか明日を見通すことすら難しい。米国の予見可能性の大幅な低下とともに国際秩序が揺れ動くなかで、日本をはじめとするミドルパワー国の果たすべき役割はますます重要性を増している。
特に、「法の支配」を基盤とした秩序を維持するためには、ミドルパワー国が連携し、新興国との協調を通じて安定した国際秩序を形成する努力が不可欠である。日本は第二次世界大戦後、「法の支配」に寄り添った一貫した行動とその信頼感を活かし、他のミドルパワー国とともにリーダーシップを発揮していくべきだろう。自由や法の支配といった価値観は、国際秩序の安定や米国を含む世界各国の繁栄の基盤であり、その重要性は揺るぎないものである。米国がこうした価値観を共有する陣営にとどまるよう、日本や欧州をはじめとするミドルパワー国が連携し、積極的に働きかけていくことも求められる。その努力こそが、「力の支配」が台頭する世界において、「法の支配」を基盤とした秩序を維持し、安定した未来を切り拓く鍵となるであろう。
なお、日本における防衛の自立の必要性については石附(2025a)を、国家リーダーの選択の重要性については石附(2025b)を参照されたい。
【注釈】
- 最恵国待遇(MFN:Most Favored Nation)とは、通商協定等において、一国が他国に対して、第三国に提供している最も有利な待遇と同等の条件を保障する原則であり、差別のない公正な貿易を促進するものである。世界貿易機関(WTO)の基本原則の一つとなっている。
【参考文献】
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石附賢実(2023)「【1分解説】法の支配とは?」
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石附賢実(2024)「不正選挙と暴力の代償~岐路に立つ民主主義、Freedom House年次報告からパワー・バランスを紐解く~」
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石附賢実(2025a)「日本の防衛と自衛隊:人口減少とトランプ政権の衝撃~求められる自立、成長会計の視点から~」
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石附賢実(2025b)「時評~パワハラと戦争、そして民主主義」
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IMF (2024) “World Economic Outlook Database Oct 2024”
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Stockholm International Peace Research Institute (2024a) “Military Expenditure Database 2024”
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Stockholm International Peace Research Institute (2024b) “SIPRI Yearbook 2024”
石附 賢実
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