- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 米国のモンロー主義回帰の「狙い」
- Global Trends
-
2026.02.19
国際秩序
世界経済
米中関係
安全保障
経済安全保障
トランプ政権
米国のモンロー主義回帰の「狙い」
~西半球の資源で米国の脱中国は達成可能だが、その価値の共有が必要~
嶌峰 義清
- 要旨
-
- 米国の経済安全保障面で、現在最大のリスクとなっているのは、資源面における中国依存であり、これを放置すれば経済面だけでなく、軍事面での優位性をも失いかねない。
- 現代のモンロー主義は、西半球の囲い込みで資源面のリスクを軽減しようとするものだ。
- 19世紀のモンロー主義には欧州から守るという大義名分があったが、それに代わるものを明示できなければ、世界は大国の論理に振り回される混沌が待ち受けることになるかもしれない。
米国にとって経済安全保障上最大のリスクである“中国依存”
トランプ米大統領がモンロー主義への回帰を打ち出す背景には、経済面でも軍事面でも中国との格差が小さくなっていることが挙げられる。
足元で、中国経済は不動産不況や若年層の高失業などの問題を抱えて低迷しており、人口減少傾向に入っていることから長期的な観点でも米中の経済規模は再び拡大傾向に入ったとみることもできる。軍事面でも、GDPに占める国防費の比率は米国が中国を大きく上回っている。しかし、国家の存続に不可欠な資源において、米国は中国に依存しきっている。
米国務省が2025年に更新した重要鉱物リストをみると(図表1)、中国が主要生産国である鉱物がズラリと並ぶ。またその多くはレアアースやレアメタルと称されるもので、供給国が限定的でサプライチェーンが限られた国に集中しているものが多く、且つ軍事用を含め最新の技術を用いた製品に使われているケースが多い。したがって、何らかの理由で中国からの供給に支障が生じた場合、これらの資源の入手が困難になり、経済面・軍事面での優位性に支障を来すリスクが高い。
これらの資源を外交上の切り札として中国政府が振りかざしていることは、2010年や足元の日中関係、2025年のトランプ関税を巡る米中の駆け引きなどから明白だ。中国政府は、レアアースなどの輸出規制について「デュアルユース(軍民両用品)製品・資源について、軍事転用されるものについてのみ規制する」旨表明しており、これはWTOでも認められている“真っ当な”政策だ。しかし、対中関係が緊張した場合にこうした規制の強化が打ち出されていることを勘案すれば、これらの資源を安定的に確保するには対中関係を良好に保つことが必須となる。それは例えば中国国内における人権問題や、台湾有事に際して“口をつぐむ”ことが求められているということだ。同時に、最新鋭の軍事用品に必要な資源を十分に確保できなくなれば、中国との軍事力の格差も縮小し、やがては性能が劣後する可能性もある。
米国にとって、最新兵器の性能が他国に劣後するという事態は、絶対に避けなければならない問題だろう。では、モンロー主義に回帰して西半球における米国の権益を確保することで、米国は資源面での対中依存状態から脱することができるのか。

西半球に拘る理由は資源:ベネズエラの例
中南米諸国は、主要貿易相手先が中国となっている国が目立つ(図表2・3)。特に南米諸国の輸入においては、中国からの輸入が米国よりも多い国が大半だ。中南米で最も経済規模が大きいブラジルは、輸出入とも中国のシェアが1位、米国は2位となっている。このほか、ペルー、チリも同様だ。


この背景には、①米国製品(完成品・中間財を含む)に比べ、中国の方が価格競争力は高いこと、②中国が提唱した一帯一路に参加している国が多いこと、が挙げられる。
特に②の一帯一路については、単に署名(参加)にとどまる国もあれば、インフラ整備や資金供給などを受け入れて中国との関係が深まる国まで、参加国間にも濃淡がある。ただし、経済的な関係が深まるほど、政治的な関係も深まりやすくなる傾向がある。特に、強権的で独裁的な政府であれば、民主主義を標榜する米国とは距離を置き、政治システムには口を出さない中国の一帯一路による経済的な支援は魅力的だ。その代表的な国の一つがベネズエラだ。
ベネズエラは、南米大陸北部に位置し、米国との距離も近い。また、世界最大の原油埋蔵量を誇る同国は、安定的な資源供給先でもあり、その権益を確保することは経済安全保障上極めて重要な意味を持つ。
チャベス政権下(1999~2013年)で国有化されたベネズエラの石油産業は、資金難などにより設備が劣化、これにつれて有数の原油産出国だった同国の原油生産量は減少傾向を辿り、これが財政悪化を深めるという悪循環に陥っていた。こうした中、ベネズエラは中国などによる融資と技術面での支援で復活を試みた。ベネズエラは融資への返済を原油で支払う仕組みが定着し、融資した中国には原油が、ベネズエラは老朽化した原油設備の更新のための資金と技術が得られる形となり、両国関係は一層深まりをみせた。
これを“危機”と感じ取った米国が執った政策が、年初の同国への空爆とマドゥロ大統領の拘束である。米政府はベネズエラの原油権益の確保を主張しており、これがベネズエラ介入の狙いだったことは明らかだ。ベネズエラの原油確保は、世界最大の原油生産国でありながら、原油埋蔵量は多くはない米国にとっては大きな意味を持つ。また、ベネズエラから中国への原油の輸出を抑えることも可能となる(図表4・5)。


ベネズエラ側にとっても、米国の下での原油開発には利点がある。前述したように、ベネズエラはここ十数年中国に原油開発を頼っていたものの、中国側の技術力が十分ではなく、原油生産量の回復は限定的なものにとどまっていた。これに対し、米国にはベネズエラ産の原油のような超重質油の精製技術、設備は十分にあるとされており、米石油会社の下であれば原油生産量の拡大に弾みがつく可能性がある。
マドゥロ大統領を拘束して以降、米国はベネズエラ産原油の精製や輸出のための許可を国内企業に出しており、原油権益の確保は着々と進んでいる。一方、マドゥロ大統領の後を継いだロドリゲス大統領代行との関係も築いているとの報道もある。順当に行けば、米国は世界最大の原油の確保と、ベネズエラと中国との関係にくさびを打つことに成功しそうだ。
西半球に拘る理由は資源:西半球で満たせるもの、足りないもの
それでは、ベネズエラのように米国が中南米諸国、及び領有を求めているグリーンランドの資源権益を確保できる場合、米国の“資源リスク”に伴う経済安全保障はどの程度改善するのか。
南米最大の経済大国であるブラジルは、資源も豊富に有している。有名なのは鉄鉱石(生産・埋蔵量とも世界第2位)だが、レアアースについても中国に次ぐ世界第2位の埋蔵量があるとされている。また、鉄鋼の高強度化(自動車用鋼材・建材・造船などに使用)、ニッケル基超合金(ジェットエンジン部材など)、超伝導材料(MRIなど)に使用されるニオブについては生産量、埋蔵量とも世界第1位だ。
このほか、チリやペルーはAIの進展に絡む電力需要の増大につれて需要が急増している銅の世界最大の生産、埋蔵を誇るほか、蓄電のため世界的に需要が拡大しているリチウムも豊富だ(図表6)。

一方、北米をみると、カナダはカリ、ウラン、ダイヤモンド、ニッケル、硫黄など、メキシコは銀、蛍石、ビスマス、鉛、亜鉛などの生産量が世界でも上位に入る。さらに、米国がデンマークに対して領有移譲を求めているグリーンランドには、レアアースが豊富にあると期待されている。
このように、グリーンランドを含めた西半球には多くの資源があり、その権益を確保することができれば、米国の資源にまつわる経済安全保障のリスクは相当程度軽減される可能性がある。
一方で、それでも不足する可能性が高いものもある。【図表7】は、米国が重要鉱物リストに挙げたもののうち、米州大陸及びグリーンランド、同盟関係の強い豪州で採掘可能な資源の権益を米国が確保したとしても、米国の需要を十分には満たせない可能性があるものについてまとめたリストである。

これを見ると、やはりレアアースやレアメタルについては西半球だけでは不足する公算が大きい。上表で深刻度が「高」となっている鉱物について見ると、「テルビウム」「ジスプロシウム」のレアアースは重希土類に分類され、中国の生産シェアが圧倒的に高い。「ロジウム」は白金族貴金属で南アフリカやロシアに偏在する。「レニウム」は主にチリの銅鉱山から副産物として回収されるが、絶対量が少ない。「ゲルマニウム」は60%以上、「ガリウム」は95%以上を中国の生産が占めている。この中で、「ロジウム」以外は軍事用途にも重要な役割を持つ鉱物で、生産国側が安全保障上の脅威と見なす場合は、軍事用品に使用される場合は輸出を抑制することが可能だ。
レアアースについてはグリーンランドに豊富に存在するとの見方があるものの、これまでに行われてきた試掘は限定的で、実際にどの元素がどの程度存在するのかははっきりとは分かっていない。一方、南鳥島近海の海底においては試掘に成功したばかりで内容の分析結果はまだ公表されていないが、先に行われたサンプル採取においては重希土類が豊富に存在する可能性が高いとの結果が得られている。採掘コストについては中国産のものには適わないとの見方が多く、本格的な採掘体制が整うまではまだ時間もかかるものの、米国との共同研究体制方針が打ち出されており、米政府にとってはレアアースの「保険」となる。
とはいえ、現状では米国が西半球、及び豪州や日本といった「同盟国」間での資源サプライチェーンを構築したとしても、中国への依存が100%近い資源は残る。ただし、上記に挙げた鉱物で言えば、「ゲルマニウム」は亜鉛精錬や石炭灰からの副産物、「ガリウム」はボーキサイト(アルミ原料)や亜鉛精錬の副産物として生産されることから、副産物の元となる工程(亜鉛精錬やアルミ精錬)をサプライチェーン内に組み込むことで解決は可能だ。
モンロー主義成功の可否は西半球のメリットの説明
米国のモンロー主義への回帰は、資源面における対中依存度の引き下げがポイントとなる。時間はかかるものの、西半球と同盟国でサプライチェーンを構築することができれば、かなりの程度対中依存度を引き下げることができる可能性はある。
もっとも、経済面で中国は重要な存在であることには変わりは無い。経済安全保障面でのリスクよりも、貿易相手国としてのメリットが大きければ、米国の“囲い込み”に付き合う必要は無い。中南米諸国においては、中国との関係を強化することによる政治的なメリットを感じている国も多い。
これに対し、トランプ大統領の対応は独善的な価値観で強権的な言動が目立つ。これに対する反発や、米国の姿勢こそリスクと感じる国は、むしろ中国との関係を強化することでそのリスクを軽減しようとする。例えば、カナダは1月、カーニー首相がカナダ首相としては8年ぶりに訪中し、首脳会談を経て「新たな戦略的パートナーシップ」を打ち出し、経済関係の強化を図っている。一方で、中国政府も、米国の動きを逆手にとって、米国(や日本)以外の国に秋波を送るような姿勢をみせ、経済関係の強化を謳った外交政策を積極化している。
19世紀初頭のモンロー主義は、中南米諸国が宗主国であった欧州列強から独立していく流れのなかで、欧州から西半球を守るという大義名分も立ちやすい環境だった。これに対し、現代のモンロー(ドンロー)主義は西半球を何から守り、どんなメリットをもたらすのかという点の説明が必要だ。独善的な米国の価値観の押しつけでは、世界は強国の論理に支配される混沌に陥りかねない。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

