1分でわかるトレンド解説 1分でわかるトレンド解説

日本の防衛と自衛隊:人口減少とトランプ政権の衝撃

~求められる自立、成長会計の視点から~

石附 賢実

要旨
  • 本シリーズでは、人口減少社会で起こりうる様々な課題について検討し、社会・経済の変化や新しい「幸せ」の在り方を模索している。安全保障は人々の「幸せ」の大前提であり、安全保障なくしてほかの議論は意味をなさないといっても過言ではない。
  • 日本は強力な軍事力を持つ核保有国に囲まれており、彼らに「機会」を与えないことが重要だ。さらに、2025年1月に就任した米トランプ大統領は、ロシアとの融和姿勢を示しているほか、同盟国の主権を脅かす発言を公然と繰り返している。米国が国際秩序における最大の不安定要因となっており、かかる状況下で日米同盟を守りつつも、自立した抑止力を整備することが求められている。
  • 冷徹なリアリズムに対処すべく、ある程度の経済規模を維持していくべきである。本稿では、「人口減少」「成長会計」を補助線に、防衛の在り方を考察する。
  • 経済成長を「資本」「労働」「全要素生産性」の成長会計3要素で考えると、労働量の減少は避けられず、資本や全要素生産性での対応が必要である。成長会計の考え方は、抑止力の在り方の検討にも参考になる。
  • 自衛隊の人員充足率の足元トレンドと、2050年にかけて募集対象人口が28%減少することを踏まえれば、現員維持は厳しい状況にある。人口減少社会だからこそ、貴重な人材の効果的な配置と人的被害の最小化が欠かせない。
  • 海洋国家の防御優位性を活かした「海と空の防衛強化」が重要だ。他方で、今後も陸に貴重な人材を張る必要があることは押さえておかねばならない。よって、海と空における徹底的な省人化・機械化への投資、イノベーションを追求する必要がある。成長会計において、労働量減少局面で資本と全要素生産性を活かす発想に近しい。また、省人化・機械化は人的損耗の縮減にも繋がる。
  • 有事の際、自衛隊は防衛任務に専念せざるを得ず、災害派遣対応に十分な人員を割くことが困難となる。災害発生が侵略国の「機会」となりうる状況だ。緊急消防援助隊として消防組織の広域化が進められてきているところであり、今後もその強化が求められる。自衛隊の在り方と「防災庁構想」との連動も求められる。
目次

1. はじめに~安全保障なくして「幸せ」なし

本シリーズでは、人口減少社会で起こりうる様々な課題について検討し、社会・経済の変化や新しい「幸せ」の在り方を模索している。安全保障は人々の「幸せ」の大前提であり、安全保障なくしてほかの議論は意味をなさないといっても過言ではない。社会保障、雇用、教育など、いずれも人口減少下で対処しなければならない喫緊の課題だが、平和があって初めて議論できるテーマである。昨今の国際情勢は、国内が戦場となった場合の悲惨さを映像でまざまざと見せつけている。何の罪もない市井の人々が、ウクライナのブチャで、あるいはパレスチナのガザで、またこれらに限らず殺戮の犠牲となっている。日本は島国であり、また年月の経過とともに戦争の記憶が薄れつつあるなかで意識しづらい方も多いと思うが、現実として安全保障は人々の生活そのものに影響する、身近な問題のはずである。 そして、日本は強力な軍事力を持つ核保有国に囲まれていることも忘れてはならない(資料1、注1)。中国は公表値ベースで日本の6倍近い軍事費を投じている(注2)。

図表
図表

軍事力には言うまでもなく人を傷つけねじ伏せる力があり、コントロールが必要だ。民主主義国家ではシビリアン・コントロールの重要性が叫ばれる所以である(注3)。しかしながら、特に民意に裏付けされていない権威主義的な国家のリーダーの判断は読みづらく、彼らに「機会」を与えないことが重要である。企業のリスク管理の世界では、不正のトライアングル(Fraud Triangle)と称して不正が生じる背景を「正当化」「動機」「機会」の3つに整理している(資料2)。これは、独裁者の侵略行為も綺麗に当てはまる。例えば、ロシアはウクライナ侵略前の大統領執筆の論文において「歴史的一体性」などの言葉で「正当化」を試みているし、政治的イベント(任期末までに何かを成し遂げようとする等)や国内世論は為政者の「動機」となりうる。我々ができることは「機会」を抑えこむことであり、そのためには一定程度の抑止力=軍事力が必要だ。

図表
図表

人口減少下で、「全体として相対的な経済力は低下しても、一人当たりGDPが伸びれば幸せを追求できるのではないか」という考え方は共感できるし、もはや人口減少に伴う諸課題の解決に向けてナローパスしか残されていない現下の局面においては、唯一ともいえる選択肢のように思える。一方で、軍事力はGDP比で語られることからも分かる通り(注4)経済力によって支えられており、「多少貧しくなろうとも、幸せならよい」では対抗しきれない世界でもある。我々は、国際社会の「相対」、すなわちバランス・オブ・パワーのなかに生きている。冷徹なリアリズム(注5)に対処していくためにも、ある程度の経済規模を維持していくオプションを捨ててはならない。

さらに、2025年1月に就任した米トランプ大統領は、ロシアとの融和姿勢を示しているほか、同盟国の主権を脅かす発言を公然と繰り返すなど、これまでは考えられなかったような事態が発生している。米国が国際秩序における最大の不安定要因となっており、このような状況下において、日米同盟を守りつつも自立した抑止力を整備することが求められる。

なお、本稿では軍事の話は専門家に譲り必要最低限にとどめる。あくまでも「人口減少」、そしてこの後説明する「成長会計」を補助線に考察を展開する。

2. 人口減少の防衛へのインパクト~成長会計の視点から

まず、経済成長の要因を分析する「成長会計」の考え方を紹介する。成長会計では経済成長を3つの要素、(1)資本投入、(2)労働投入、(3)全要素生産性(イノベーション等)に分解する。日本においては「労働」の量の減少は避けがたく、資本や全要素生産性での対応が必要となる。DXや自動化、イノベーションなどに資する施策がまずもって重要であり、労働の量を補う必要がある。ある程度の経済規模を維持していくことが軍事的パワーを維持する上で重要なことは前述の通りである。そして、この成長会計の考え方は、経済成長のみならず抑止力(防衛)の在り方にも当てはめることができる。

図表
図表

まずは成長会計の「労働投入」に当たる自衛隊の人員をみてみよう。2023年度採用の充足率は自衛官候補生(任期制)で30%、一般曹候補生(基幹隊員)で69%と既に厳しい状況になっている(注6)。そこで、2024年12月に関係閣僚会議で取りまとめられた「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」(注7)に記載されている処遇改善や生活・勤務環境の改善を力強く推進していく必要がある。年収向上に向けて、令和10年度に自衛官の俸給表の改定を実施する方針のほか、一部施策は令和7年度予算案に計上されている。

しかし、現実は厳しい。資料4は自衛隊の定員・現員の推移と、募集対象年齢となる18歳以上33歳未満(18-32歳)の人口推計である。募集対象は2018年に「27歳未満」から「33歳未満」に引き上げられた。定員は2015年以降24万7,154人で変わっていない一方で、現員はここ10年ではピークとなった2020年の23万2,509人以降は減少トレンドにあり、2023年は22万3,511人となっている。かような実績のトレンドと、2050年にかけて募集対象人口(18-32歳)が約28%も減少する見通しを踏まえれば、この先現員を維持していくことはかなり厳しいと言わざるを得ない。先ほど紹介した基本方針における対応策は正攻法ではあるが、民間企業も採用強化に動いており、同様の施策やアルムナイ・ネットワーク(注8)の拡充に取り組んでいる中、採用の競合状況はより厳しくなっていくものと想像される。

図表
図表

3.人口減少にトランプ政権下の国際秩序の変容が重くのしかかる

先に述べた通り、2025年1月のトランプ大統領の就任により、国際秩序は新たな不安定化の局面を迎えている。特に同盟国に対する姿勢の変化は顕著であり、NATO加盟国に対するGDP比5%の防衛費支出要求や、グリーンランド・パナマ運河獲得に向けた野心を公然と表明するなど、これまでの同盟関係に大きな亀裂を生じさせている。この状況下で、各国は米国との同盟関係の維持に努めながらも自国の防衛力強化と自立が迫られている状況だ。日本は例外とは言い切れないだろう。

かつては欧州発で中国に対して使用されてきた「デリスキング」(注9)という概念が、皮肉にも米国に対して適用される事態となっている。人口減少下の日本にとって、この新たな国際環境は追加的な課題や負担をもたらす。限られた人的資源のなかで、自衛隊の人員確保と同時に、高度な技術力を持つ防衛産業の育成、サイバーセキュリティの強化など、多面的な対応が求められる。先述した成長会計の観点からも、労働力の減少を補う資本投入とイノベーションが一層重要となる。

4. 人口減少社会だからこそ「海洋国家の防御優位性」と「人的損耗の縮減」を前面に

ここで、「人口減少」と「成長会計」を補助線に、自衛隊の在り方に関するナラティブを描いてみたい。人口減少社会だからこそ、貴重な人材の効果的な配置と人的被害の最小化が欠かせない。キーワードは、「海洋国家の防御優位性」と「人的損耗の縮減」である。

(1)海洋国家の防御優位性

まず「海洋国家の防御優位性」について、海に囲まれていることをどのように評価するのかがポイントとなる。そもそも陸続きであったとしても攻撃する側は防衛する側の3倍の人員が必要との経験則も存在する(注10)。さらに、日本の周りには広大な海が広がっていることに鑑みれば、海と空の防衛強化を図ることで上陸を防げる可能性は高まると考えられる。つまり、限られた人員のなかで、防御側であること、海に囲まれていることを戦略に活かすべきであろう。一方で、広範囲にわたる島嶼防衛の難しさや、狭い国土ゆえの縦深性の乏しさ(注11)などの課題も抱えている。

(2)人的損耗の縮減

次に「人的損耗の縮減」である。これには2つの側面があり、1つは人口減少のなかで今まで以上に「貴重な人材を失ってはならない」ということと、もう1つはそのような基本方針を示すことによる、自衛隊員募集に係る募集対象層への心理的効果である。昨今の国際情勢においては、人的被害を厭わずに戦闘を継続する侵略者の恐ろしさと、国内で戦闘が行われることの悲惨さを目の当たりにしている。東西冷戦終結後にしばらく継続した平和な時代と、現下の国際情勢との間では、募集対象層の心理的なハードルに差があることは想像に難くない。

(3)2つのキーワード実現のための基本方針を持つこと

この2つのキーワードを実現するために、「海と空の防衛強化によって上陸を許さない態勢づくり」(注12)と、「徹底した省人化・機械化等により人的損耗を最小限に抑える」(注13)ことの重要性を強調したい。

前提条件として、陸を実効的に支配するには有人の部隊が必要で、実際に侵略を許した場合の最後の砦にもなることから、陸に貴重な人材を充てる必要があることは押さえておかねばならない。現状においても定員の60.8%に当たる15万245人が陸上自衛隊である(2023年)。その上で、海と空の防衛強化を徹底するとすれば、対艦・対空防御、スタンド・オフ能力の強化などについて、少ない人員で最大の効果を得る方法を探ることとなる(注14)。

この際、成長会計において労働量減少局面で資本や全要素生産性を活かす発想に近しいが、徹底した省人化・機械化への投資、効果的な防衛に資するイノベーションを起こしていく必要があるだろう。

こうした基本方針を政府として明確化することは、入隊候補者の「有事の際に巻き込まれるリスク」をある程度払拭することにも役立つ。払拭できるほどの態勢が整うとすれば、それは上陸しづらい印象を相手国にも与えることにもなる。つまり抑止力の強化と表裏一体である。

5. 災害派遣と自衛隊~防災庁構想との連動を

最後に、今後顕在化する可能性がある課題として、自衛隊の災害派遣について私見を述べる。地震や気候変動によって増加傾向にある豪雨などにおける自衛隊の活躍については誰しもが認めるところである。他方で、有事の際、自衛隊は本来の防衛任務に専念せざるを得ないことは自明であり、災害対応に十分な人員を割くことが困難となる。これは、平時において自衛隊の災害派遣への依存度が高い日本社会にとって、深刻な脆弱性を露呈させる可能性がある。例えば、日本での大地震発生が、先ほど述べたFraud Triangleの視点における侵略国の「機会」になりうる、ということである。

現在、緊急消防援助隊として、消防組織の広域化は進められてきているところである(注15)。2024年1月に発生した能登半島地震においても、自衛隊と比べてマスコミへの露出は多くなかった印象があるものの初動対応を含めて評価する向きは多い。実際、21都府県、2,000名規模の部隊が展開した。

他方で、政府では「防災庁」構想を進めることとしている(注16)。防災への対応を国家レベルで強化していく、司令塔機能を強化していくことについて異論は少ないと思われる。厳しい安全保障環境の下で自衛隊の負担を減らすべく、緊急消防援助隊を中心とした既存の体制を活かしつつ、司令塔機能、機動性、即応性をさらに強化・追求していくのが現実解であろう。先に述べた有事の際の自衛隊派遣の制約および人口減少を踏まえた自衛隊の在り方と、「防災庁構想」との連動した検討が求められる。

以 上

  【注釈】
  1. 日本周辺国の陸上兵力、艦艇、作戦機、核保有数。

図表
図表

  1. 例えば、米国防省によれば2021年の中国の防衛支出は公表予算よりも1.1倍から2倍多いとされるなど、中国の軍事費は公表値より多いとの指摘がみられる。 米国防省“Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2021”(Nov 2021)(P142)

  2. シビリアン・コントロールについては以下参照。
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/265366.html

  3. NATOでは経済力に対する応分の貢献、「GDP比2%」をガイドラインとしており、日本もこの水準を念頭に防衛費の増額を計画している。2023年時点でSIPRI基準では1.20%となっている。NATOホームページ上のトピックス“Funding NATO”では、NATO加盟国において、米国と米国以外のGDPはほぼ半々(51:49)にも関わらず、後者の防衛費は半分よりもずっと少ない(69:31)という、このアンバランスを指摘している。そして「2%」のガイドラインについて、アンバランスの改善を通じて「同盟国の軍事的即応性(readiness)を確保すること」を企図するとともに、「NATOの共通防衛努力に貢献する国の政治的意思(political will)を示すもの」と説明している。

  4. リアリズムとリベラリズムは多方面で使われる用語であるが、国際政治の世界においても頻繁に引用される2つの考え方である。リアリズムは、国際関係を国家間の力の競争として捉え、国家の安全保障と国益を最優先し、力のバランスや軍事力が重要とされる。一方、リベラリズムは国際協力の可能性を強調し、国際法や国際機関を通じて平和を促進すると主張する。
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/340636.html

  5. 自衛官候補生と一般曹候補生の採用状況(2014-2023年度)

図表
図表

  1. 防衛省HP参照(https://www.mod.go.jp/j/profile/treatment/pdf/policy.pdf

  2. アルムナイ・ネットワークとは、その企業の元従業員で形成されるコミュニティを指す。アルムナイ(Alumni)は卒業生・同窓生と訳され、人事領域では定年退職者以外の離職者やOB・OGを意味する。
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/253637.html

  3. デリスキングについては石附賢実(2023)「【1分解説】デリスキングとは?」参照。

  4. 古くから「攻者三倍の法則」と呼ばれるが、兵力数のみならず火力数にも影響されることや、地形や気候などの状況によっても当てはまりの度合いは変わってくる。高橋杉雄(2023)においても防御側の優位性として同法則を引用している。

  5. 縦深性とは、国土の広さや奥行きが防御能力にどれだけ寄与するかを示す概念。縦深性が高い国は、前線での抵抗のみならず後方にも防御拠点を設けることで反撃の機会が得られる。日本の国土は縦深性に乏しく、まずは上陸させないことが重要。

  6. 例えば、高橋杉雄(2023)においては、日本の「セオリー・オブ・ビクトリー」として、「敵国の航空優勢獲得を阻止する」こと、「海上制圧と上陸作戦の阻止」の重要性を指摘している。

  7. 実際、防衛省(2022)においても「人口減少と少子高齢化を踏まえ、無人化・省人化・最適化を徹底していく」との方針が示されている。

  8. 防衛省(2022)において、以下の通り記載されている。「我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるようにする必要がある。このため、『スタンド・オフ防衛能力』と『統合防空ミサイル防衛能力』を強化する。また、万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、これらの能力に加え、有人アセット、さらに無人アセットを駆使するとともに、水中・海上・空中といった領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢を確保できるようにする必要がある。」 スタンド・オフとは「一般的には『離れている』といった意味」(防衛白書令和5年版)。スタンド・オフ能力は敵の射程圏外から攻撃する能力のことを指す。

  9. 消防庁HPより。
    https://www.fdma.go.jp/mission/prepare/rescue/items/2-2_kinshoutai.pdf

図表
図表

  1. 政府は2024年11月1日に「防災庁設置準備室」を立ち上げた。2026年度中の発足を目指すこととされている。

【参考文献】




※ 本レポートは2024年12月5日発行「人口減少時代における防衛、幸せを飲み込むリアリズム~人口減少と成長会計を補助線に、『海洋国家の防御優位性』を活かし『人的損耗の縮減』を目指せ~」を「人口減少時代の未来設計図シリーズ」向けにアップデートしたものです。

石附 賢実


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。