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レポート採点AIの可能性

~AIは教員の負担軽減と学習効果向上につながるのか~

柏村 祐

目次

1.学生のレポート課題の採点作業は多くて大変

学校教育の場でレポート課題を出す意義は、学生の思考能力、問題解決能力、表現力など、多面的なスキルを評価し、促進することにある。テストと異なり、レポートは深い思考、論理的な構成、そして自らの言葉での表現が求められる。そのため、学生にとって、単に知識を覚えるだけではなく、それをどのように活用し、展開できるかを示す機会になる。そしてレポート作成のプロセスを通じて、学生は自らの学習を振り返り、深化させることができる。このように、レポート課題は学生の自立した学習能力や論理的思考力を育成する重要な手段だといえる。

教員が学生のレポートを評価し、フィードバックする作業は、学生の理解度やスキルの向上を支援するのに欠かせないが、一方で時間がかかり労力を要するものでもある。この作業では、学生一人ひとりの思考過程や論理展開を深く読み解き、個々の理解度や表現力を適切に評価することが求められる。また、学生の成長に繋がるよう、具体的かつ建設的にフィードバックしなければならない。クラスの学生数が多い場合、この評価作業の負担はさらに大きくなり、質の高いフィードバックを提供することが難しくなることもある。そのため、教育現場ではこのような負担を軽減し、教員がより効果的に学生の学習を支援できる方法が求められている。

そのようななか、より効率的に学生の学習を支援できる方法として、AI技術の活用が期待されている。AIの活用により、教員は採点作業から解放され、より質の高いフィードバックの提供、授業準備、個別指導に時間を割けるようになる可能性がある。

本稿では、レポート採点をAIが行うことの実態と可能性について考察し、教育現場での利用がどのように教員の作業負担を軽減し、学生の学習支援を強化できるかを探る。

2.レポート採点AIの実態について

まず、レポート採点AIが実際にどのように動作し、どの程度の能力を有しているのかを検証する。筆者が直近で執筆した2つのレポートを実験対象とし、これらをレポート採点AIに読み込ませた結果をもとに、その実態を確認した。

まず、2024年2月16日にウェブで公開した拙稿「ビジネスモデルキャンバスAIの衝撃」(注1)について、AIに内容をチェックし点数を付けるよう指示したところ、AIは当該レポートの総評を簡潔に記述し、評価ポイントとして「内容の独創性と関連性」、「情報の正確性と深さ」、「読みやすさと構成」、「実用性と影響」を挙げ、100点満点中90点という評価を出力した(図表1)。

図表 1
図表 1

また、90点の内訳を詳しく知りたいとの依頼に対し、AIは上記の各項目について詳細な配点結果を提供した(図表2)。

図表 2
図表 2

次に、2024年1月26日にウェブで公開した拙稿「AIがもたらす労働市場の変容と政策課題」(注2)について同様の手順でAIに評価を依頼したところ、AIは当該レポートの総評を簡潔に記述し、「主題と構成」、「情報の正確性と引用」、「議論の深さ」、「表現の読みやすさ」を評価ポイントとして挙げ、100点満点中85点という評価を出力し、改善すべき点を3つ指摘した(図表3)。

図表 3
図表 3

さらに、85点の内訳と改善点についての詳細をAIに確認したところ、具体的な配点結果と改善を行うことでより高い評価が得られる可能性についての回答を得た(図表4)。

図表 4
図表 4

この実験を通じて、レポート採点AIは単に点数をつけるだけではなく、評価の根拠を具体的にフィードバックすることが可能であることが確認された。このようなAIの利用は、教員が個々のレポートに対してより具体的かつ建設的なフィードバックを提供する上で非常に有効である。また、AIによる採点とフィードバックは、教員が見落とすかもしれない細かな点まで考慮しており、採点の公平性と正確性を向上させている。

このように、レポート採点AIは教員の評価作業を大いに支援する可能性があるが、一方で、AIの採点結果に完全に依存せず、教員の専門的な判断を組み合わせることが重要といえる。AIはまだ複雑な思考過程や創造性、論理的な展開を完全に理解し評価するまでには至っておらず、学生の個性や文化的背景に基づく表現を適切に評価することも難しいためである。したがって、現時点では、AIを活用しつつも最終的な評価は教員が責任を持って行うべきだろう。

3.レポート採点AIの可能性

レポート採点AIの導入は、教育現場における評価プロセスの透明性と公平性を向上させることができる。特に、レポート課題における「評価」の明確化は、AIを利用する上での大きなメリットである。テストの採点では〇×で評価することが一般的であり、レポートの場合には、成績評価を明確にしないと評価点を漠然とつけることになりがちである。この問題を解決するには、レポートの評価基準や評価指標を事前に学生に提示することが重要である。これにより、学生はどのような観点を満たしていれば高い評価を得られるのかを事前に理解することができ、教員は評価基準ごとに評価点をつけることが可能になる。このプロセスにAIを活用することで、評価の一貫性と客観性を保ちつつ、効率化を図ることができる。さらに、教員が模範レポートをAIに評価させ、その結果をもとに評価基準をAIに作成させるような利用法も考えられる。これにより、学生に評価基準をより具体的に事前に提示し、学習への指針とすることができる。教員はAIによる評価基準の作成を通じて、自身の評価基準を再考し、より公平で透明性の高い評価を行うことができるようになるだろう。

レポート採点AIの利点には、教員の業務負担の軽減も含まれる。特に、レポートの採点とフィードバック提供に要する時間の削減により、教員が学生との対話や授業の質の向上により多くの時間を費やせるようになる。

教育現場におけるAI技術への期待は高く、AIが学生のレポートを公平かつ一貫性のある基準で評価し、具体的な改善点を提示できることに価値があると考えられる。さらに、AIを利用することで、学生1人ひとりによりパーソナライズされたフィードバックを提供できる可能性がある。

しかしながら、前述の通り、AIを活用する場合でも、教員自身による最終的なチェックと補足が不可欠である。AIによる採点が学生の学びに真に貢献するためには、技術の限界を理解し、それを教育の現場で適切に活用する知恵が求められる。

以上のように、レポート採点AIは教育現場での活用が期待される画期的な技術であり、教員の作業負担を軽減し、学生の学習プロセスを支援する大きな可能性を秘めている。ただその導入と活用には、技術的な限界の理解と教育的な目的に沿った運用が重要である。AI技術の発展とともに、これらの課題を乗り越え、教育の質の向上に貢献することが期待される。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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