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ビジネスモデルキャンバスAIの衝撃

~AI を使ってビジネスの変革を考えてみた~

柏村 祐

目次

1.ビジネスモデルキャンバスの特徴

ビジネスモデルキャンバスは、戦略的な視点と起業家的な視点を融合させたフレームワークであり、企業のビジネスモデルを9つの構成要素に基づいて視覚的に描き出すものである。その9つの構成要素は、顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、主要活動、主要リソース、主要パートナーシップ、およびコスト構造となっている。

ビジネスモデルキャンバスの開発者であるアレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールの目的は、企業が既存のビジネスモデルを改善し、新規事業を創出する際に利用できる具体的なフレームワークを提供することにあった(注1)。このツールの利点は、ビジネスモデルの複雑な要素を簡潔に、一目で理解できる形式にまとめ、経営者や起業家がビジネスモデルを総合的に把握しやすくする点にある。また、チーム間のコミュニケーションを促進し、アイデアの共有やイノベーションを容易にする効果がある。さらに、ビジネスモデルの定期的な見直しにより、市場や技術の変化に迅速に対応することが可能となる。

ビジネス環境は絶えず変化しており、その変化に適応するためには企業に新たな戦略的アプローチが求められる。この文脈においてビジネスモデルキャンバスは、企業が自社のビジネスモデルを総合的に理解し、変化する市場に柔軟に対応する戦略を立てる上で有効なツールとして位置づけられる。

従来のビジネスモデルキャンバスの作成には、9つの構成要素の洗い出しやビジュアル化といった工程があり、時間がかかっていた。しかし、最近のAIの進化により、ビジネスモデルキャンバスAIを活用することで、たたき台を迅速に作成できるようになった。

本稿では、ビジネスモデルキャンバスAIの実態とその可能性について考察する。

2.ビジネスモデルキャンバスAIの実態

以下では、ビジネスモデルキャンバスAIが実際にどのように機能するかをみていく。そのために、既存ビジネスとしてシンクタンク業、新規ビジネスとして高齢者向け飲食店をテーマとして取り上げる。

まず、既存ビジネスであるシンクタンクについては、現状のコスト構造をどのように変革するかという課題がある。そこで現状のシンクタンクにおけるビジネスモデルを明らかにするために、AIに「シンクタンクのビジネスモデルキャンバスを作成してください」と指示したところ、AIはシンクタンクのビジネスモデルを構成する9つの要素について、それぞれの概要を作成した。

そして、それをビジネスモデルキャンバスAIに読み込ませ、生成を指示したところ、図表1の通りビジネスモデルキャンバスが生成された。

シンクタンクは研究開発、市場分析、政策提言などの知識集約型サービスを提供しており、その運営には人件費や研究費といったコストが発生する。ビジネスモデルキャンバスを用いれば、どのような顧客に、どのような価値を提供して収益を確保するか、そしてそのコスト構造を分析し、どの部分に無駄があるのか、あるいは最適化の余地があるのかを体系的に検討することができる。

図表1
図表1

次に、新規ビジネスである高齢者向け飲食店を事例として取り上げる。高齢者向け飲食店については、どのような価値提案が顧客を惹きつけるかという課題がある。そこでビジネスモデルを明らかにするために、AIに「高齢者向け飲食店のビジネスモデルキャンバスを作成してください」と指示したところ、AIは高齢者向け飲食店のビジネスモデルを構成する9つの要素についてそれぞれ概要を作成した。

そして、作成された高齢者向け飲食店に関する9つの構成要素の概要をビジネスモデルキャンバスAIに読み込ませ、生成を指示したところ、図表2の通りビジネスモデルキャンバスが生成された。

このビジネスモデルキャンバスを用いれば、顧客との関係構築、提供する食事の種類、利用されるチャネルなどビジネスを構成する要素を体系的に検討し、コスト効率の良い運営を目指すことができる。特に、高齢者に対しては健康的で栄養バランスの取れた食事を提供することが価値提案の核となるため、原材料の調達方法や調理プロセスの効率化など、コスト構造の改善に繋がる要素は多岐にわたる。また、地域社会との連携を深めることで、主要パートナーシップを構築し、宣伝費用の削減や顧客基盤の拡大に寄与することも考えられる。

図表2
図表2

以上のように、ビジネスモデルキャンバスを活用することで、ターゲット顧客・提供価値を設定し、必要なリソース・活動・チャンネルなど具体的なビジネスモデルを体系的に構築することができ、さらにコスト構造の問題点を明確にしたうえで、その改善策を見つけ出すことも可能となる。すなわち、AIが生成したビジネスモデルキャンバスを用いることで、経営陣やチームメンバーが共通の理解をもち、より戦略的な意思決定を行うための基盤を築くことができるといえるだろう。

3.ビジネスモデルキャンバスAIの可能性

AI技術の発展により、ビジネスモデルの自動生成だけでなく、市場分析、競合分析、リスク評価など、企業運営に必要な多岐にわたる分析が、より高速かつ高精度で行えるようになりつつある。ビジネスモデルキャンバスAIは、従来のビジネスプランニングプロセスを大幅に効率化し、企業が新しいビジネスチャンスを迅速に掴む手段を提供する。さらに、この技術は、経営層だけでなく、フロントラインの従業員やスタートアップの起業家にとっても、戦略的思考と意思決定を支援する強力なツールとなる。

ビジネスモデルキャンバスAIの利点は、そのスピードとアクセシビリティにもある。AIを活用することで、ビジネスモデルの試案を短時間で作成し、様々なシナリオを試すことが可能だ。これにより、企業は革新的なアイデアを素早く評価し、市場への投入までの時間も短縮できる。また、ビジネスモデルキャンバスAIは、経営資源の最適化にも貢献する。AIによる分析を通じて、企業は不必要なコストを削減し、リソースをより価値の高い活動に集中させることができるようになる。

しかしながら、ビジネスモデルキャンバスAIの活用には、いくつかの課題もある。たとえば、AIによる分析の精度は、使用されるデータの量と質に大きく依存する。不正確または偏ったデータが分析に用いられた場合、誤ったビジネスモデルが提案されるリスクがある。そのため、AIの提案を鵜呑みにするのではなく、人間の専門知識と経験による検証が欠かせない。

将来的には、ビジネスモデルキャンバスAIの機能と精度がさらに向上し、企業が直面する複雑な課題に対してより具体的で実用的なソリューションを提供できるようになることが期待される。また、AI技術が普及していくことで、より多くの企業や起業家がこの革新的なツールを活用できるようになり、ビジネスモデルのイノベーションと企業の成長が加速するだろう。ビジネスモデルキャンバスAIは、企業が新しい価値を創出し、持続可能な成功を達成するための重要な鍵となり得るのだ。


【注釈】

  1. アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュール『ビジネスモデル・ジェネレーション: ビジネスモデル設計書 ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック』翔泳社 2012年

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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