ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

男女賃金格差解消には「OBN文化」からの脱却

~脱・オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)文化のカギはDE&I~

白石 香織

要旨
  • 日本における男女賃金格差が縮まらない。2022年時点で、男性の賃金を100とした場合、女性は75.7%であり、これはOECDやG7で最下位グループに位置する。こうした格差解消のため、2022年7月、政府は301人以上を常時雇用する企業等を対象に男女の賃金差異の公表を義務付けた。
  • 男女賃金格差は、労働市場におけるマクロとミクロの要因が織りなして形成されている。マクロの観点では、賃金が相対的に低い産業や非正規雇用における女性比率が高い就業構造上の要因が挙げられ、ミクロの要因としては、企業での「役職(管理職比率)」、「勤続年数」、「労働時間」が挙げられる(ミクロの3要因)。
  • ミクロの3要因は、男性中心にモーレツに働いた戦後から高度成長時代の名残とも言える。こうした男性中心の組織で培われてきた企業や社会における独特の文化を、本稿では「オールド・ボーイズ・ネットワーク文化(OBN文化)」と呼ぶことにする。このOBN文化を改めて吟味し、脱却への道筋を立てることが格差解消につながると考える。
  • OBN文化は、女性の活躍を阻む3つの壁を作り出している。①昇進・昇給しづらい“女性枠”、②出産前後にハードルが上がる管理職昇進、③「仕事も家庭も」の新・性別分業、である。こうした様々な壁に直面してきた女性達は、そもそも企業において能力を発揮できる環境になかったと言える。
  • OBN文化からの脱却には、能力と意思のある女性には「ゲタをはかせ」、活躍できる場を提供することが求められる。それには、欧米で広まる「DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)」を参考に、女性固有の状況や特性に寄り添った公平性施策を推進することが有効であろう。公平性施策は、①キャリア支援、②環境整備、③相互理解の3つに分けられ、事例として女性のみ20代で中核業務を担わせる「キャリアの早回し」制度やフェムテックサービスの導入等がある。
  • OBN文化からの脱却は、女性だけでなく、人口減少社会において高齢者や外国人等、多様な人材が活躍できる土壌となる。男女賃金格差解消にとどまらず、日本経済再生に裨益し、人的資本経営にも資するものと言えよう。
目次

1.男女賃金格差の現状

日本における男女賃金格差が縮まらない。厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2022年)」によると、男性の賃金を100とした場合、女性の賃金は75.7%と、24.3%ポイントの賃金格差が生じている。この格差をOECD加盟国と比較するとOECD平均11.9%を大きく上回り、G7の中でも最下位に位置する(資料1)。

資料1
資料1

こうした賃金格差を解消すべく、2022年7月、政府は301人以上を常時雇用する企業などを対象に男女の賃金差異についての公表を義務付けた。当該企業は、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3区分で、男性の平均賃金に対する女性の平均賃金の割合の公表が求められる。3月決算の企業は、2023年6月末までの開示に向けて、現在準備を進めているところであろう。

男女賃金格差は、日本の労働市場におけるマクロとミクロの要因が織りなしながら、形成されている。マクロの視点から見ると、賃金が相対的に低い傾向にある非正規雇用や産業(医療、福祉、宿泊・飲食サービス業等)における女性比率が高いという就業構造上の要因がある。さらに、ミクロの視点で見てみると、例えば男女ともに産業別賃金が最も低い宿泊・飲食サービス業において、男女の賃金は約75.3万円(年収)開いており(注1)、他の産業でも同様の傾向にある。このようにミクロとマクロ要因は絡み合っており、このミクロの格差要因は、「役職(管理職比率)」、「勤続年数」、「労働時間」といった人事制度や運用に起因すると指摘されている。 本稿では、ミクロの観点から企業における男女賃金格差の3要因(ミクロの3要因とする)について言及し、その解消には「OBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)文化」からの脱却が必要であることを述べる。その上で、欧米で先行するDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)を参考に、公平性施策の推進が重要となる点について考察していく。

2.男女賃金格差の要因は、OBN文化

企業における男女賃金格差には様々な要因がある。厚生労働省が行った男女賃金格差の要因分析(2022年)では、主な要因として「役職(管理職比率)」、「勤続年数」、「労働時間」の3つを挙げている(資料2)。

資料2
資料2

この「ミクロの3要因」は、日本型雇用が抱える課題を端的に表している。それは、女性の「役職(管理職比率)」比率の伸び悩み、M字カーブやL字カーブ(注2)が表す女性が「勤続年数」を重ねることが難しい実態、そして企業での長い「労働時間」である。これは、女性は家を守り、男性は「企業戦士」「モーレツ社員」として企業に仕えた、戦後から高度成長時代の働き方の名残とも言える。

配偶者が家庭を支える男性が主な構成員であることを前提に、企業や社会で形成されるこうした慣習を、本稿では「オールド・ボーイズ・ネットワーク文化(以下、OBN文化)」と呼ぶことにする。オールド・ボーイズ・ネットワーク(Old Boys’ Network, OBN)は、イギリスにおいて上流階級の男子が通うパブリックスクールの卒業生(OB, Old Boys)が持つ社会的・経済的な強いつながり(Network)を起源とする。近年では、男性中心の組織で生まれる独特な文化や暗黙のルール等を指す世界共通の考え方となっている。

日本においては、「長期間所属することで得られるコネや人脈」や「喫煙室や飲み会、ゴルフ等でのコミュニケーション」等で重要な方針等が決まることがOBNの影響として指摘されてきた。また2022年には「OBN」として流行語大賞にもノミネートされた。本稿では、男性が組織で働くことを前提とした、企業および社会に根付く文化や慣習を「OBN文化」と定義したい。

女性の社会進出が進むにつれ、政府や企業による働き方改革や女性活躍推進施策の推進により同文化の影は薄まりつつある。しかし、縮まらない日本の賃金格差の要因をみると、いまだに企業や社会において、OBN文化が根付いていることを推察できる。各企業におけるOBN文化を改めて吟味し、そこから脱却する道筋を立てることが男女賃金格差解消につながると考える。

3.OBN文化がもたらす3つの壁

本章では、企業や社会に残るOBN文化が、女性が働くうえで主に3つの壁をもたらしていることを指摘していく。なお、この3つの壁には第2章で述べた「ミクロの3要因(役職(管理職比率)、勤続年数、労働時間)が主要な要素として含まれている。

①昇進・昇給しづらい“女性枠”

OBN文化を持つ企業には、主に女性が歩むことを前提に、昇進・昇給がしづらい“女性枠”とも言えるコースが存在する。そもそも、日本型雇用制度は男性を中心に「3つの無限定性」、つまり時間、勤務地、職務内容の制限なく働くことで支えられてきた。これらは第2章における「ミクロの3要因」の1つである長い「労働時間」を筆頭に、転居を伴う転勤や2~3年ごとの異動等、女性が出産、育児、介護しながら仕事を継続しづらい職場慣行を生み出してきたと言えよう。一方で、1980年頃から企業は、「一般職」「限定総合職」「総合職」等の職種を新設し採用する「コース別雇用管理制度」を導入した。

厚生労働省「令和3年度雇用均等調査」では、大企業の57.4%がコース別雇用管理制度を採用している。男女別の割合を見てみると、一般職に就く女性は全体の43.2%、限定総合職は13.5%と正社員女性の約6割は“女性枠”で働いている(資料3)。こういった職種は、総合職と比べて一般的に給与水準が低く、制度として昇進、昇給に重きを置いていない傾向にある。つまり、子育てや介護を担う女性も働けるよう企業の働き方を見直すのではなく、結果として女性を対象としたコース別雇用管理制度を入口に導入したこと自体が、賃金格差につながっていると言える。

資料3
資料3

一方で、一般職や限定総合職といった職種を廃止し、総合職との一本化を進める動きも出てきている。例えば、コース別雇用管理制度を積極的に導入してきた銀行・保険業では、同調査によれば、導入割合が2017年の23.8%から2021年には16.2%と減少している。男女賃金格差の公表義務化はこの動きに拍車をかける可能性もあるだろう。

②出産前後にハードルが上がる管理職昇進

第2章における「ミクロの3要因」では「役職(管理職比率)」が賃金格差の第一の要因として位置づけられていた。現に、厚生労働省「雇用均等基本調査(2021年)」によると、課長相当以上の管理職に占める女性の割合は12.3%であり、2009年の10.2%から若干の伸びにとどまっている(資料4)。

資料4
資料4

なぜ、女性は昇進しづらいのか。ここでの女性は管理職以上を目指す一般職および限定総合職も含める。これを調べていくと、OBN文化を持つ企業には、特に出産前後に管理職へ昇進しづらい壁があることがわかる。少し古い調査だが、厚生労働省「平成25年度雇用均等基本調査」において、女性の管理職が少ないあるいは全くいない理由として、「現時点では、知識や必要な経験、判断力等を有する女性がいないため」とした企業割合が58.3%、次いで「女性が希望しないため」が21.0%であった。山口(2017)は、男女におけるこうした格差は、元来男女に平均的能力差等ないことを考えると、企業が女性雇用者を人材育成してこなかった結果だと指摘する(注3)。つまり、女性に対して昇進に必要な能力向上や評価の機会が与えられていないことが要因と言える。その理由は2つ考えられる。 1つは管理職昇進に向けて動き出すタイミングが女性の出産・育児の時期に重なる点である。日本では課長昇進(38.6歳)や部長昇進(44.0歳)の時期が他国よりも遅い傾向にある(資料5)。女性の第1子の平均出産年齢が30.9歳(2021年)であることから、管理職に向けた選考が本格化する30代に、女性は出産・育児、場合によっては不妊治療に追われ、能力向上や評価の機会を逃している可能性がある。

資料5
資料5

管理職昇進に向けた能力向上と評価の機会を逃しているもう1つの要因は、OBN文化ならではともいえる、女性の取得が暗黙の前提となっている出産・子育てとの両立支援である。2000年頃から企業や政府は「育児休業制度」や「短時間勤務制度」等をはじめとする両立支援策を拡充してきた。育児・介護休業法では、育児休業は原則子が1歳に到達するまで取得可能で、保育所入所状況次第で1歳6か月まで延長(再延長で2歳まで)できる。短時間勤務については、子が3歳に到達する日までと定められている。中には、企業が自主的にその期間を延長しているケースもあり、2021年時点で52.7%の企業は3歳~小学校卒業以降も利用可能としている。

2021年、ユニセフが発表する「先進国の子育て支援の現状」育児休業部門で、日本は世界1位を獲得した。ただ、世界一の両立支援制度であっても、その利用が女性に偏っていることにこそ本質的な問題がある。すなわち、男性育児休業取得率は14%(2022年)かつ育休期間1か月未満の取得者が64.7%と大半を占める。また、短時間勤務を「現在活用している」と答えた男性正社員は5.2%(2020年)(注4)と、こちらも低水準である。

こうした偏った状況で、女性が育児休業を1年、短時間勤務を3年間取得したとする。すると、1人出産するごとにフルタイム勤務できない期間が、単純計算で約4年生じる。この4年のキャリア的ブランクを埋める人事制度を導入している日本企業は少ないだろう。こうして、管理職昇進に向けての能力向上と評価のタイミングが出産・育児に重なり、その後の両立支援も昇進の壁となり、賃金格差につながると推測できるのである。

③「仕事も家庭も」の新・性別分業

かつては「男性は仕事、女性は家庭」が当たり前とされてきた。女性の社会進出が進んだ今、女性は「仕事も家庭も」という新しい性別分業が生まれつつある。資料6は、女性の「社会進出」が進む一方、男性の「家事進出」が進まない状況を示している。

資料6
資料6

15~64歳の女性の就業率(折れ線グラフ)を見ると、2001年の57%から71%と、この20年間で約14%ポイント上昇している。これは、企業や政府中心に推し進められてきた女性活躍推進施策の成果であろう。

一方で、6歳未満の子供をもつ夫と妻の1日の家事時間(棒グラフ)は、2021年には夫が1日1.54時間のところ、妻は7.28時間と明確な差が存在している。さらに、この20年間で妻の家事育児時間は7.2~7.4時間の間でほぼ変化していない。つまり、女性は働くようになったが、家事時間は減らず、「仕事も家庭も」という新しい性別分業ができつつあると言える。

浜田(2022)は、(両立支援)制度の利用者は女性という実態により、女性がキャリアを降りることが夫婦間で当たり前のように進むと、男性の家事育児時間は増えないと指摘する(注5)。つまり、女性が「仕事も家庭も」担う新しい性別分業によりOBN文化が温存される仕組みにもなっているとも言えよう。さらには、こうした役割が負担となり、出産を機に非正規社員へ転換するいわゆるL字カーブにもつながっているとも考えられる。第2章での「ミクロの3要因」にあった女性が「勤続年数」を重ねられない状況には、こうした性別分業の影響も大きいと考えられる。

一方で、夫の家事時間は低水準ながらも、育児時間中心に増え、2001年比で約3倍伸びていることは朗報である。2023年3月に、政府は男性の育児休業取得率を2025年度に50%、30 年度に85%とする野心的な目標を発表した。このような積極的な取り組みが、「仕事も家庭も」という新しい性別分業に歯止めをかけ、今後、社会におけるOBN文化脱却への突破口となることを期待している。

4.DE&IはOBN文化脱却の特効薬となるか

女性の活躍推進は、時に「女性優遇」「男性差別」「ゲタをはかせる」と批判されることがある。しかし、こう考えてみてはどうか。企業において昇進・昇給しづらい“女性枠”を歩み、出産・育児を経ると昇進が遠のくうえ、「仕事も家庭も」という新しい性別分業を担った女性は、そもそも能力を発揮できる環境になかった。こうして考えると、出産、育児、介護等でキャリア的ブランクが生じているものの、能力と意思のある女性には「ゲタをはかせ」、活躍できる場を提供することが必要なのではないか。後述するように、これは日本の経済再生に向けたカギにもなる。

この「ゲタをはかせる」考え方は、欧米で広まる「DE&I」に通じるところがある。DE&Iは「Diversity, Equity & Inclusion」の略で、「多様性(Diversity)」と「包括性(Inclusion)」を推進する「D&I」に、「公平性(Equity)」が加わったコンセプトである。アメリカでは、女性や非白人、LGBT等のマイノリティに対しての差別や不平等が社会問題化している。「個々の状況や特性」を考慮にいれずに、「機会の平等(Equality)」を提供するだけでは、社会的な差別や不平等は解決されないため、多くの企業が「公平性(Equity)」に注目している。

ここで平等(Equality)と公平性(Equity)の違いを分かりやすく説明する資料7のイラストを見てほしい。

資料7
資料7

左側(Equality)では、野球の試合を見るため、幼児、子ども、大人にそれぞれ同じ高さの台が用意されている。そのため、一番右の幼児は背が届かず野球の観戦ができていない。一方、イラスト右側(Equity)では、それぞれの背に合わせた台が用意されたことで、3人で野球観戦ができている。これこそが「公平性(Equity)」の実現である。

これを日本における女性の状況に当てはめると、以下のことが言える。これまで政府や企業は女性への機会の「平等(Equality)」を確保するために、女性活躍推進施策等、様々な施策を展開してきた。しかし、管理職登用の時期が出産・育児に重なる点や、充実した両立支援を主に女性が取得することが昇進の妨げになっている点等は考慮してこなかった。OBN文化からの脱却には、こうした女性固有の状況や特性に配慮した「公平性(Equity)」施策の推進が有効だと考える。

5.公平性施策の具体例

では、公平性施策はどのようなものが考えられるだろうか。実際の事例を踏まえて考察してみたい。資料8は先進企業における公平性施策を①キャリア支援、②環境整備、③相互理解の3つのカテゴリーでまとめたものである。

資料8
資料8

まず①キャリア支援として、北九州市役所では「キャリアの早回し」制度を実施し、通常、庶務業務を積んでから中核業務に移る育成プランを、女性だけ20代で中核業務を担わせている。また、あるIT企業では、管理職昇進打診に際し、男性に1回声をかける時、女性には3回声をかける運営体制を取っている。

次に、②環境整備としては、テレワークやスーパーフレックス、越境リモート勤務の導入や、転居を伴う転勤を廃止する動きも出ている。ある家具メーカーでは、転勤を伴わない制度を導入し、利用者の給与等の待遇や昇進への影響はないと言う。加えて、転勤を希望する社員には手当を増やし、希望者の偏りを防ぐ努力もしている。 さらに、③相互理解として、妊活、更年期、月経等の女性特有の悩みのサポートを行うフェムテック(注6)を導入する企業もある。また、上司と育児中の部下が立場を逆にして「育休復帰後の働き方」について面談を行うユニークな取り組みもある。

こうした公平性施策の推進によって、出産、育児、介護等でキャリア的ブランクを抱えた、能力と意思のある女性に対して必要な「ゲタ」をはかせることができる。このようにして初めて、女性は、第4章のイラストで言う「野球観戦」を男性と同様にできるようになるのである。各社に必要な公平性施策を考え実施していくことこそが、これまで述べてきた「ミクロの3要因」や「OBN文化がもたらす3つの壁」に風穴を開け、結果的には男女賃金格差縮小につながっていくと考える。また、女性への公平性施策を実施することによって、今後労働力として必要となる外国人や高齢者といった男性正社員以外の、多様な人材が活躍できる文化の醸成にもつながるだろう。

6.脱・OBN文化は人的資本経営に資する

アメリカの多様性提唱者ヴェルナ・マイヤーズ氏は、Diversity & Inclusionをこう例える。“Diversity is being invited to the party. Inclusion is being asked to dance(ダイバーシティは女性がパーティに招待されること、インクルージョンはそのパーティでダンスに誘われること)”つまり、パーティ(企業)に女性を招待するだけでなく、一緒に踊ろうと誘うことが重要だと説く。D&Iの次のステップとして日本企業が展開すべき公平性施策は、OBN文化のもとでダンスをしたくてもできてこなかった女性に、「ダンスのレッスン」をし、「女性サイズのダンスシューズを与える」といったところだろうか。

公平性施策の推進により、これまで活用しきれてこなかった女性という人的資本を活用することは、人口減少下で日本が持続的に成長していく突破口となるだろう。また、それは女性だけでなく、それ以外の重要な労働力となりうる外国人や高齢者という人的資本の活用につながる大きなチャンスともなりうる。国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計(2023年)」によると、50年後に日本の人口は現在の約1億2600万人から8700万人と3割縮小し、生産年齢人口(15-64歳)は4535万人と約4割減少する。一方、65歳以上の高齢者は3367万人(総人口の38.7%)となり、外国人は939万人で人口の1割を占める社会が到来しようとしている。

このように公平性施策推進によるOBN文化からの脱却は、女性が活躍できる環境を整備するだけでなく、今後日本の人口で多くを占める多様な人材が活躍する土壌を形成することができる。つまり、男女賃金格差縮小にとどまらず、日本経済再生の一つの柱ともなりうるということである。まさに、人口減少社会に備えた未来への投資であり、人材の能力を最大限引き出すことで企業価値を高める「人的資本経営」に資するものだと言えよう。

以 上

【注釈】

1)「令和4年度賃金構造基本統計調査」によると、宿泊業・サービス飲食業における男女の平均賃金は257.4万円で産業別で最も低い。その中で男性の平均賃金は291.4万円で女性は216.1万円と、約75.3万円の賃金格差が生じている。

2)L字カーブとは、女性の正規雇用比率を年齢階層別に示したとき、20代後半をピークに低下し、グラフにするとアルファベットのLのように見える現象のこと。

3)山口(2017)では、「ホワイトカラー正社員の管理職割合における男女格差の決定要因」の章において、「元来男女に平均的能力差などないことを考えると、男女の学歴差の影響以外に客観的根拠があるならば、それは企業が女性雇用者を人材育成してこなかった結果と考えられる」としている。

4)日本能率協会総合研究所「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」(労働者調査)(令和2年度厚生労働省委託事業)の調査結果。

5)浜田(2022)では(両立支援)「制度の利用者は女性という実態が定着するほど、男性は働き方を変えずに済む。共働きが増えれば夫婦間で家事育児の分担の見直しが進むべきところ、女性が育休や時短勤務を取得すると同時に『キャリアを降りる』ことが夫婦間で当たり前のように進むと、男性の家事育児時間は増えない」としている。ここでの「キャリアを降りる」というのは、管理職昇進を含めたキャリアアップを一時的にでも諦めることを指していると推察する。

6)女性のライフステージにおける「生理・月経」「妊活・妊よう性」「妊娠期・産後」「プレ更年期・更年期」等の課題を解決できる製品やサービスを指す。

【参考文献】

  • 大沢真知子「女性はなぜ活躍できないのか」(2015年2月) 厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」(2022年7月)
  • 厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」(2023年3月)
  • 厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」(2022年7月)、「平成25年度雇用均等基本調査」(2014年8月)
  • 白石香織「SDGsの羅針盤『DE&Iとは?~公平性(Equity)実現が人材戦略のカギ~』」(2023年2月)
  • 総務省「労働力調査(基本集計)2022年」(2023年1月)
  • 総務省「令和3年社会生活基本調査」(2022年8月)
  • 内閣府「男女共同参画白書令和2年版」(2020年7月)
  • 内閣府「プライム市場時代の新しい企業組織の創出に向けて」(2021年8月)
  • 日本能率協会総合研究所「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」(労働者調査)(令和2年度厚生労働省委託事業)(2021年3月)
  • 浜田敬子「男性中心企業の終焉」(2022年10月)
  • 山口一男「働き方の男女不平等 理論と実証分析」(2017年5月)
  • @DIME「知ってる?今年の新語・流行語にノミネートされた 『OBN』の意味」(2022年11月)

白石 香織


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。