情報機器の普及で手書きは減少するか

北村 安樹子

目次

1.情報機器の普及は言葉の使い方にどう影響するか

パソコンやスマートフォンなどの情報機器の普及は、言葉をめぐる私たちの意識や行動にどのような影響をもたらしていくのだろうか。

文化庁が行った調査によると、情報機器の普及で言葉や言葉の使い方が影響を受けると思う人は9割を超える(図表1左)。その影響として最も多く挙げられたのは「手で字を書くことが減る」(89.4%)で、「漢字を手で正確に書く力が衰える」(89.0%)が僅差でこれに続いている(図表1右)。情報機器の普及で言葉が受ける影響には多様な側面があるが、「手で書くこと」をめぐる機会の減少と漢字を書く力の衰えという2つの変化を挙げた人が特に多くなっている。

図表1
図表1

年齢別にみた場合、これら2項目に加え、「人に直接会いに行って話すことが減る」「長い文章を読むことが減る」などで、シニア世代の割合は高い(図表2)。情報機器が普及する前の時代を知り、その影響による変化を実際に経験してきた人が多いことも、これらの点をあげる人の多さに関連しているのだろう。

図表2
図表2

2.情報機器が普及しても、気軽にならない文章作成

一方、情報機器の普及が言葉や言葉の使い方に与える影響として、「パソコンやスマートフォンなどで、気軽に文章を作成するようになる」を挙げた人は若い世代でやや多いものの、どの年代でも2割前後にとどまっている。作成する文章の種類や目的にもよるが、入力や予測変換、テンプレートなど情報機器のさまざまな機能を利用しても、文章を作成すること自体を気軽に行うようになるとは感じない人が多いようだ。

また、情報機器の操作に不慣れだったり、文章作成を支援する機能を知らない人がシニア世代を中心に多くいることも、情報機器を使えば気軽に文章を作成するようになるとイメージする人が少ない一因ではないだろうか。このような場合を含めて、手書きの方に気軽さや安心感をもっているケースもあると思われる。

3.情報機器の普及で手書きは減少するか

情報機器の普及によって、手で字を書く機会が減り、正確に書く力が衰えると感じる人が9割近くを占めるが、筆者は、手で書くことをめぐる変化に関心をもつ人の多さがその背景にあると考えている。たとえば、知識を身につけたり、考えをまとめたりするときなどに手で書くことの重要性を感じること、情報機器が使えない状況で手書きが必要になることは今もあるだろう。また、手書きがもつ個性や味わいなどに価値や稀少性を感じることもあるのではないか。手で書く機会が減り、正確に書く力が衰えると感じている人のなかには、情報機器の普及で、これらの利点がどう変わるのかに関心をもつ人が多いのではないだろうか。手で字を書く機会は減っても、手書きの良さが失われることはないと考える人は、筆者も含め多いと思われる。

また、前述のとおり、情報機器の普及で気軽に文章を作成するようになると感じる人が少ない現状には、文章作成自体にかかわる抵抗感とともに、機器利用に対する意識の違いも関連していると思われる。情報機器の利用に抵抗感をもつ人にとっては、機器を利用すれば文章作成がしやすくなるというイメージをもちにくいのだろう。手書きがもつ価値が失われることはないだろうが、情報機器のさらなる普及や進化が、機器を利用した文章作成へのイメージを変え、利用への抵抗感を和らげることもあるのではないだろうか。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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