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デジタル田園都市ウェルビーイング実践編

~ウェルビーイングとDX(2)~

村上 隆晃

要旨
  • 当レポートでは「ウェルビーイングとDX」と題して、DXを活用してウェルビーイング増大を図る各種の取組みを紹介している。今回は前回に引き続き、政府のデジタル田園都市国家構想とウェルビーイング(以下、「Well-being」)との関係に焦点を当てて解説する。
  • 前回はデジタル田園都市国家構想において国民のWell-being向上を図る枠組みに焦点を当てて解説した。今回はいくつかの自治体のユースケースなども交え、具体的にどのような施策を展開することでWell-being向上が図られているのか解説する。
  • デジタル田園都市国家構想においてWell-beingを高めるプロセスは、①俯瞰、②因子の探し出し、③ストーリーの可視化、④ディスカッション、⑤施策の決定、⑥モニタリングのステップからなり、PDCAサイクルを回す形になっている。
  • 今回紹介する静岡県浜松市と福島県会津若松市は、LWC指標の活用で先行する「デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の採択」自治体であるとともに、プロセスの説明に利用する「LWC指標利活用ガイドブック」のユースケースに採用された自治体でもある。
  • デジタル田園都市国家構想におけるWell-being向上の取組みについては、今年度からデジタル田園都市国家構想推進交付金Type2/3採択自治体を中心として指標の活用が始まっている。今回紹介した事例はこのうちの2自治体の事例であるが、全体では27の採択事例があり、様々な取組みがなされている。
  • これらの自治体の2022年度の取組み結果は2023年3月末までには公表される予定であり、事業の進捗や地域住民のWell-being達成状況が注目される。DXの進展が効果的にWell-beingの増大につながる好循環事例が生まれ、他の自治体へ横展開されることを期待したい。
目次

1. デジタル田園都市においてWell-beingを高めるプロセス

当レポートでは「ウェルビーイングとDX」と題して、DXを活用してウェルビーイング増大を図る各種の取組みを紹介している。今回は前回に引き続き、政府のデジタル田園都市国家構想とウェルビーイング(以下、「Well-being」)との関係に焦点を当てて解説する。前回はデジタル田園都市国家構想において国民のWell-being向上を図る枠組みに焦点を当てて解説した。今回はいくつかの自治体の例なども交え、具体的にどのような施策を展開することでWell-being向上が図られているのか解説する。

前回も掲載した資料であるが、デジタル田園都市においてWell-beingを高めるプロセス(以下、「プロセス」)が示されているので、今回はそれに沿って説明していく(資料1)。

内容説明に入る前に、あらためてプロセス全体について概説する。

まず、①俯瞰のステップで、Liveable Well-being City指標(デジタル庁がWell-being向上を着実に推進していくため、地域住民のWell-beingを測定する指標(以下、LWC指標) )(注1)を用いて各地方自治体のWell-beingを高める因子について、それぞれの関係性を俯瞰する。②では、それぞれの自治体の特徴として、どの因子が特にWell-beingを高める要素として機能しているのかを特定する。③では抽出した因子の特徴や他の因子との関係性を踏まえて、どのような施策を展開すると、どういった経路を辿って住民のWell-beingが向上していくかについてのストーリーを可視化する。④ではストーリーを実現するための施策を体系化し、まちづくりの関係者(行政や地域住民、民間企業、大学、NPO etc.)とディスカッションし、検討を重ねる。⑤ではディスカッションの内容を踏まえて、Well-beingを高める施策やその効果を測るKPIを決定し、実践に移す。⑥ではKPIの目標達成度やWell-beingの向上度をモニタリングし、必要に応じて施策を改善する。こうしたプロセスを経ながら、住民のWell-being向上を目指して、PDCAサイクルを回してくことになる。

図表1
図表1

2. 事例にみるデジタル田園都市国家構想でWell-beingを高めるプロセス

2.では、前掲資料1に掲げたWell-beingを高めるプロセスに沿っていくつかの自治体の事例を交えながら見ていく。

今回紹介する静岡県浜松市と福島県会津若松市は、内閣官房が選定する「デジタル田園都市国家構想推進交付金(注2)デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の採択」自治体であるとともに、デジタル庁が提供する「LWC指標利活用ガイドブック」(各自治体がLWC指標について理解するとともに、指標を活用してWell-being向上を目指すためのノウハウを提供)のユースケースに採用された自治体でもある。

(1)心理的資本の概念

プロセスの最初のステップは、市民の幸福感を高めるLWC指標の因子がどうなっているか、また因子間の関係性がどうかといったことを俯瞰することから始まる。

浜松市の事例をみると、「自治会・町内会加盟率」「選挙投票率」「拡大家族世帯割合(注3)」等からなる「地域とのつながり」が高く、社会関係資本の厚みが浜松市の強みといえる(資料2)。自然資本に恵まれ、「環境共生」の意識が高く、活動も活発である。

一方で自然環境が豊かな反面「自然災害」に備える必要が高く、交通事故件数が多い点で「事故犯罪」指数の評価が低いなどの課題も存在している。

こうしたLWC指標の特徴を踏まえ、デジタル田園都市交付金の対象となった取組みとして防災や環境対策、交通事故対策などの事業を選んでいるものと考えられる。

図表2
図表2

(2)因子の探し出し

次に市民の幸福度を高める因子の探し出しのステップである。

この段階では、まず各自治体が実施している市民意識調査における「施策の重要度・満足度」等の設問について、関連するLWC指標の因子に紐づける。その上でそれぞれのLWC指標がWell-beingにとってどれほど重要かを分析するため、LWC指標の重要度と指標の水準を基にマッピングを行うことで、幸福度を高める因子を探し出す、ということである(資料3)。

会津若松市を事例に挙げると、完全失業率、創業率、納税者一人当たり課税所得などの雇用・所得に関する客観指数が相対的に低い水準となる一方、重要度は高いという結果になっている。この結果を受けて、市では食・農、観光等におけるデジタルソリューションの創出による産業育成が効果的と判断した。

図表3
図表3

(3)ストーリーの可視化

次に可視化された市民の幸福度を高める因子を念頭に置きながら、市民に近い自治体だからこそ持ち得るその地域独特の情報や文化も踏まえた上で、地域での取組みがどのように市民の幸福に繋がるかを表す仮説を立て、ストーリーとして可視化する。

会津若松市の事例では、食・農業と観光・決済に関する取組みから市民の幸福度向上に至るストーリーを可視化している(資料4)。

例えば、食・農業に関する取組みでは、地元の食文化への誇りの喚起に向けて農作物の生産者と飲食店等の需給マッチング・サービスを提供することで、地産地消を通じて地元経済に好循環が生まれる。地域に雇用機会が創出され、所得も向上、地元への愛着や一体感が生じ、市民のWell-beingが向上するというストーリーである。

観光・決済に関する取組みでは、市への観光ニーズを効果的に捉えてパッケージ化する観光DXが展開されている。観光DXの結果も踏まえ、例えば地元のお酒や料理が安価に楽しめるデジタルクーポンが利用できるなどのメリットを持つデジタル地域通貨を提供している。これが地元経済の好循環、地域の一体感を促進し、市民のWell-being向上に繋がるというストーリーである。

図表4
図表4

(4)ディスカッション

前節のように市民の幸福感向上に繋がるストーリーが可視化された施策について行政単独、民間企業と連携、市民との連携により実現する取組みに分け、そのストーリーを実現するために効果的な施策のあり方について対話を基に検討する(資料5)。

例えば、行政単独施策であれば、自治体庁内において政策企画部門に加え、関連する事業所管部門が連携し、「庁内横断的に検討」に取り組むことが挙げられている。

民間企業と連携する施策であれば、自治体から民間企業やNPO等に対して幸福の因子向上に効果的な取組みを「公募」することが挙げられている。また、民間企業や大学等で構成されるコンソーシアムとの「共創」も類型として挙げられている。

市民との連携施策であれば、地域市民と連携した「共創」や「市民対話」を通じた新しいアイデアの創出が挙げられている。

図表5
図表5

(5)施策の決定

こうしたプロセスを経て、取り組むべき施策が決定される。

まず、浜松市の取組みであるが、資料6にあるように「地域のWell-being向上」を最上位に掲げている。採択事例の説明資料では「多様な主体の競争による持続可能な『Well-beingスマートシティ』の実現」に向け、①都市を支えるデジタルインフラの整備、②データ連携基盤を活用したサービスの官民共創と地域実装、③市民が支えあい、Well-beingを向上できるまちづくりの推進を一体的に進める、とされている。

①のデジタルインフラの整備については、図の下にあるようにデータ連携基盤を構築・運用し、3D都市モデルやオープンデータ、民間保有データ、IoTセンサーデータを連携し、②で挙げるようなサービスの提供を可能とする。

②では図の中央左側にある浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームというエコシステムが構築されている。そして支援制度の創出によりHamamatsu ORI-Project(官民連携によるデータ連携基盤モデル創出事業)や様々な分野の民間サービスの地域実装を促進する。例えば、土砂災害対策としてののり面(道路や住宅の造成に伴って作られる人口斜面)等のモニタリング、水害対策としての冠水エリア予測、河川ごみの見える化・削減促進、AI笑顔検知と連動した寄付などである。また、官中心の取組みとして、中山間地域における林業者見守りサービスやAIを活用した交通事故対策の実施などの取組みも挙げられている。

③では、図の中央右側にある市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」(注4)を導入すると共にWell-being指標の調査・分析を行い、専用のダッシュボードで可視化を進める。

図表6
図表6

次に会津若松市の取組みであるが、今後3年をめどに図にある12分野においてデジタルサービスを実装し、市民生活の多様な場面での利便性向上や付加価値創出を行っていくとされている(資料7)。

前段のWell-being向上プロセスとも関わるところで、【食・農業】と【観光】の分野を事例として取り上げる。

まず、【食・農業】の分野では生産者(農家)と実需者(旅館、飲食店)をマッチングするサービスと地域デジタル通貨による事業者間決済サービスを提供することで、地域営農者の所得向上を図り、地産地消の促進を目指している。

【観光】の分野では、地域観光事業者や観光コンテンツの予約・支払いに関して、地域デジタル通貨決済サービスを提供することで、支払いの簡易化など観光客にとっての利便性や、手数料低減など事業者の負担軽減を図っている。さらに視察や出張などの目的に合わせた観光DXによるコンテンツのパッケージ化サービスを提供することで、関係人口の増加や地域内経済循環の促進を目指している。

図表7
図表7

(6)モニタリング

次に各自治体でデジタル田園都市国家構想の関係者と、モニタリング会議を設置するなどモニタリングの方法を定める(資料8)。モニタリング会議では、年1回など定期的に各施策の進捗状況とWell-beingの引き上げ効果を定量的に検証する。

検証の内容であるが、まだ実例が無いため、ここではイメージとして考えられる事例を設定して説明する。例えば、ある市において観光DXを通じて、地域の経済振興を図るという施策に取り組むと決めたものとする。この施策のWell-beingに対する効果を検証するため、施策と関連するLWC指標(資料9参照)三層目の「⑤暮らしやすさ」指標のうち、人口当たり飲食店数などの客観統計で算出される「買物・飲食」因子を選んで短期の目標を設定する。その上位にある二層目の「④センシュアス・シティ」指標からは、地域住民が地産地消型食生活や観光の切り札となる食文化があると感じた経験についてアンケートで測定する「食文化が豊か」因子を選んで中期的な目標を設定する。さらに一層目の「①地域生活のWell-being」から地域住民が地域の文化・芸術などが盛んで誇らしく感じる感覚をアンケートで測定する「ダイナミズムと誇り」を選んで、長期的な目標を設定するといったことが考えられる。年1回のモニタリング会議では観光DX施策の進捗状況を確認するとともに、Well-being達成状況を管理するため、短期、中期、長期で設定したLWC指標の目標達成状況を検証することとなる。

検証結果を踏まえ、改善に向けた検討を行い、次の期の計画を検討というPDCAサイクルを回していくことになる。

図表8
図表8

図表9
図表9

3. おわりに~Well-being向上とDX進展の好循環は進むか

ここまで見てきたデジタル田園都市国家構想におけるWell-being向上の取組みについては、今年度からデジタル田園都市国家構想推進交付金Type2/3採択自治体を中心として指標の活用が始まっている。

今回紹介した事例はこのうちの2自治体の事例であるが、全体では27の採択事例があり、様々な取組みがなされている(資料10)。

これらの自治体の2022年度の取組み結果は2023年3月末までには公表される予定であり、事業の進捗や地域住民のWell-being達成状況が注目される。DXの進展が効果的にWell-beingの増大につながる好循環事例が生まれ、他の自治体へ横展開されることを期待したい。

図表10
図表10

以 上

【注釈】

  1. 詳細については、村上(2022年11月)「デジタル田園都市国家構想はウェルビーイングを目指す ~ウェルビーイングとDX(1)~」P6~10、12~14を参照。
  2. デジタル田園都市国家構想推進交付金は、デジタルを活用して地域の課題解決や魅力向上に向けた意欲ある地域の取組みを国が支援する交付金を指す。本交付金にはデジタル実装タイプと地方創生テレワークタイプの2つの種類がある。デジタル実装タイプは、他の地域で確立された優良モデルを活用するType1事業と、他地域のモデルケースとなり得るType2/3事業がある。Type2/3事業については、2022年6月に27団体(都道府県7団体、市町村20団体)、国費49.1億円の事業が採択されている。
  3. 拡大家族世帯とは、親と結婚した子供の家族など複数の核家族が同居する世帯を指す。
  4. Decidimはスペインで開発されたオープンソースのデジタルプラットフォームであり、市民が自治体の計画立案プロセスに参加し、議論や意思決定に関わる場を提供する。(一社)Code for Japanにより2020年から日本に展開している。

【参考文献】

  • デジタル庁「『デジタル⽥園都市国家構想』持続可能な新産業の創出へ」『第6回デジタル⽥園都市国家構想実現会議(2022年4⽉4⽇)』
  • デジタル庁「『デジタル⽥園都市国家構想』持続可能な新産業の創出へ」『第7回デジタル⽥園都市国家構想実現会議(2022年4⽉27⽇)』
  • デジタル庁・一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「LWC指標ガイドブック」(2022年7⽉)
  • 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の採択事例」(2022年10⽉5⽇更新)
  • 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「デジタル田園都市国家構想基本方針について」(2022年6⽉)
  • 内閣府政策統括官(経済社会システム担当)参事官(総括担当)「関係府省庁におけるWell-being関連の基本計画等のKPI、取組・予算(概要)」(2021年9月)
  • 村上隆晃「デジタル田園都市国家構想はウェルビーイングを目指す~ウェルビーイングとDX(1)~」(2022)

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 マクロ環境調査G 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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