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ここが知りたい『お金の安心感と豊かな人生の選択肢をもたらすファイナンシャル・ウェルビーイング』

村上 隆晃

目次

ウェルビーイングの注目度は上昇中

最近ウェルビーイングという言葉を日本でも目にする機会が増えている。ウェルビーイングとは「幸せで満ち足りた状態」を指す。「ウェルビーイング経営」のように、従業員のウェルビーイング向上を追求する企業経営の観点から取り上げられることも多い。

ウェルビーイングの浸透度合いを確認するため、資料1は「SDGs」や「ウェルビーイング」のキーワードを含む記事数を時系列でプロットしたものである。SDGsは記事がほぼゼロだった2015年を起点に、ウェルビーイングは2019年を起点に比較している。ウェルビーイング記事数はSDGsを追いかける形で増加しており、2023年は11月までで約11,000件と2019年のSDGsと同等の勢いを示している。

国民のSDGs認知率は記事数増加とともに上昇し、2022年には8割以上となっている。ウェルビーイングも記事数増加の傾向から見て、今後数年でSDGs同様、国民の多くが認知する状況になると考えられる。

図表1
図表1

最近日本でも注目度が高まるファイナンシャル・ウェルビーイング

ここまで見たようにウェルビーイングが注目を集める流れであるが、中でも最近欧米で注目度が高まっているのが、ファイナンシャル・ウェルビーイングである。

例えば、イギリスでは2020年に「ファイナンシャル・ウェルビーイングを達成するための国家戦略2020〜2030年」を発表し、国家戦略として国民のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に取組んでいる。

日本でも金融庁が「2023事務年度金融行政方針」で言及するなど徐々に関心が高まっている。

そもそもファイナンシャル・ウェルビーイングとは何か

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、文字通りに訳せば「金銭的に満ち足りた状態」となるが、これは単にお金がたくさんあることを意味するわけではない。お金に関する心理的な満足感や安心感が占める要素が大きい。

アメリカの金融消費者保護局(Consumer Financial Protection Bureau、以下「CFPB」)が2015年に公表した報告書の定義によると、「現在および将来の金銭的な債務を十分に支払うことができ、将来の自身の経済面に安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態」を指す。

ファイナンシャル・ウェルビーイングはよりシンプルにいうと、経済的な安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態を指す。つまり、お金に関する不安から解放され、充実した人生を送るための考え方といえる。

CFPBによるとファイナンシャル・ウェルビーイングには資料2のような4つの要素があるとされている。横軸に「現在」と「将来」という時点による区分、縦軸に「経済的な備え」という守りの要素と「選択の自由」という前向きな要素による区分となっている。「現在」の「経済的な備え」でいうと、月々や日々の家計をコントロールすること、「将来」に向けては、不意に襲い掛かる経済的なショック(たとえば、自分や家族の病気・ケガに伴う入院や収入の途絶など)を吸収する能力があることがキーとなる。一方、「選択の自由」については、「現在」の人生を楽しむための経済的な自由度が確保されていること、「将来」の経済的な目標を達成するための軌道に乗っていると実感できることが挙げられる。この4つが主観的にできていると感じるほど、ファイナンシャル・ウェルビーイングが向上する、ということである。

図表2
図表2

ファイナンシャル・ウェルビーイングを上げるには

では、このファイナンシャル・ウェルビーイングはどうやって高めることができるのだろうか。

まず、第一にお金の管理方法や使い方が重要である。多くの人は、「お金をためる」ということに焦点を当てがちだが、実は「どのように使うか」も重要である。たとえば、自分の趣味や健康に投資することは、長期的に見て心の豊かさや生活の質を向上させることにつながる。また、不測の事態に備えるための貯蓄や保障の準備も、安心感をもたらす重要な要素である。

次に、金融リテラシー、すなわちお金に関する知識や理解も重要である。これは単に節約や投資に留まらず、お金というものが持つ本質や、経済全体の中での動き方を理解することも含まれる。つまり、金融リテラシーが高まることで、資産形成や家計管理が上手くいきやすくなり、それが結果としてファイナンシャル・ウェルビーイングの向上につながる。

最後に最も重要なことは、個々人のライフスタイルや価値観を振り返り、将来の夢や目標を描くライフデザインを行ったうえで、それに基づいたお金の使い方を考えることである。何をもって幸福とするかは人それぞれ異なるので、自分にとって何が大切かを見極めることが、ファイナンシャル・ウェルビーイングを向上するための第一歩と言えるだろう。

ファイナンシャル・ウェルビーイング向上の社会的効用

ファイナンシャル・ウェルビーイングは個人だけでなく社会全体にも影響を及ぼす。個々人がファイナンシャル・ウェルビーイングを高めることで、社会全体の経済的な安定性や成長性が向上する可能性がある。また、国や地方自治体、企業がファイナンシャル・ウェルビーイング向上の取り組みをサポートすることで、より多くの人々がこの幸福感を実感できると考えられる。

実際、日本でも政府が資産所得倍増プランを打ち出して、金融経済教育の充実やライフプランの提供促進が柱の一つとして挙げられている。個々人のファイナンシャル・ウェルビーイング向上を国が後押しする状況になっており、個人としても2024年1月にスタートした新NISAを含め国の支援をうまく活用することで自身のウェルビーイング向上を図る良い機会といえる。

お金は生活を豊かにするための手段の一つに過ぎない。それをどのように活用し、心の豊かさや生活の満足度を高めるかが、ファイナンシャル・ウェルビーイングの本質と考えられる。

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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