ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

デジタル田園都市国家構想はウェルビーイングを目指す

~ウェルビーイングとDX(1)~

村上 隆晃

要旨
  • 今年6月に岸田内閣の看板政策であり、「新しい資本主義」の柱の一つである「デジタル田園都市国家構想(以下、「構想」)」の基本方針(以下、「基本方針」)が公表された。
  • 基本方針では「各地方自治体が自ら目指すべき地域社会を構想し、国が主導して地方に張り巡らすデジタル・インフラを活用して地域の社会課題を成長のエンジンへと転換、新たな成長を目指す」という方向性が示されている。
  • 重要な点は、こうしたインフラ整備が地方に新たな成長(新サービスの創出による雇用増大や生活の利便性向上の実現)をもたらすことで、地域社会の持続可能性の向上や住民のウェルビーイング(以下、「Well-being」)増大を図ることにある。
  • デジタル庁では、構想を受けて地域のWell-being向上を着実に推進していくため、地域住民のWell-beingを測るLiveable Well-Being City指標(LWC指標)の活用を打ち出している。LWC指標は統計などの客観指標とアンケートで計測する主観指標を組み合わせて、市民の暮らしやすさとWell-beingを数値で見える化したものである。
  • これまで地方自治体が取り組むまちづくりでは、各事業が目指す目標や事業の進捗を測るKPIはそれぞれに設定されており、ともすると全体的な整合性に欠けることもあった。デジタル庁ではLWC指標を導入することで、Well-beingの向上という目標に整合的となるよう、各事業の取組みやKPIをすり合わせることが可能となり、事業間の連携もスムーズになるとしている。
  • LWC指標を利用する自治体では今年度から計測ツールやガイドブックを活用し、取組みを推進している。本年度中には対象自治体での測定結果を取りまとめて報告することが予定されており、分析結果を踏まえてLWC指標等の改善が図られる。
  • Well-beingの向上なくして地域の持続的な成長もない、逆もまたしかりである。田園都市国家構想を通じたデジタル基盤の充実は、地域のWell-beingと持続的な成長に裨益するよう、推進されるべきと考える。
目次

1. デジタル田園都市国家構想でもWell-being増大が焦点に

近年、国民一人ひとりが自分の人生を幸福で充実したものと感じるウェルビーイング(以下、「Well-being」)の概念について、関心が高まっている。こうした流れを受け、国としても国民のWell-being増大を政策目標とする動きが出てきている。例えば、政府のいわゆる「骨太方針」では2019~22年と政府の各種基本計画や政策にWell-beingに関するKPIを設定することが盛り込まれている。実際、文部科学省「教育振興基本計画」、内閣府「子供・若者育成支援推進大綱」、国土交通省「住生活基本計画」などにはWell-beingに関するKPIが既に設定されている(注1)。また、急速に進展するDX(デジタルトランスフォーメーション)により、官民様々なレイヤーで従来考えにくかった人々のWell-being向上を支援する興味深い取組みが出てきている。そこで当研究所では「ウェルビーイングとDX」と題して、DXを活用してWell-being増大を図る各種の取組みを紹介していく。今回は第一回として、政府のデジタル田園都市国家構想に焦点を当て、Well-beingとの関係について解説する。

今年6月に岸田内閣の看板政策であり、「新しい資本主義」の柱の一つである「デジタル田園都市国家構想(以下、「構想」)」の基本方針(以下、「基本方針」)が公表された。

基本方針で示された構想の基本的な考え方、コンセプトは「『全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会』を目指して」というものである(資料1)。デジタルを地方の社会課題解決の鍵とし、新しい価値を生み出す源泉として、官民が連携して地方におけるDXを進めることとしている。

基本方針では「国が構想で目指す中長期的な方向性を提示し、地方自治体の取組みを支援する。各地方自治体はミニ東京を目指すのではなく、自ら目指すべき地域社会を構想し、国が主導して地方に張り巡らすデジタル・インフラを活用して、地域の社会課題を成長のエンジンへと転換、新たな成長を目指す」という方向性が示されている。

重要な点は、こうしたインフラ整備が地方に新たな成長(新サービスの創出による雇用増大や生活の利便性向上の実現)をもたらすことで、地域社会の持続可能性の向上や住民のWell-being増大を図ることにある。

そこで、本稿では構想における取組み内容を概観するとともに、Well-beingとの関連に焦点を当てて解説する。

図表1
図表1

2. デジタル田園都市国家構想の取組み内容

「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」に向けて、構想の取組方針では、1. デジタルの力を活用した地方の社会課題解決、2. デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備、3. デジタル人材の育成・確保、4. 誰一人取り残されないための取組み、の4つが挙げられている(資料2-1、2-2)。

まず、一つ目の取組みであるデジタルの力を活用した地方の社会課題解決については、解決すべき社会課題の類型として、①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくる、の4つが示されている。また、⑤として、各地域の特色を活かした分野横断的な取組みを支援することが掲げられており、デジタル田園都市国家構想交付金やスマートシティ関連施策の活用が謳われている(資料2-1)。

さらに2024年度末までにデジタル実装に取り組む地方公共団体1000団体達成といった定量目標も併せて提示されている。

図表2
図表2

二つ目のデジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備については、①デジタルインフラの整備、②マイナンバーカードの普及推進・利活用拡大、③データ連携基盤の構築、④ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備、⑤エネルギーインフラのデジタル化等に取り組むことが重要とされている(資料2-2)。

三つ目のデジタル人材の育成・確保については、①デジタル人材育成プラットフォームの構築、②職業訓練のデジタル分野の重点化、③高等教育機関等におけるデジタル人材の育成、④デジタル人材の地域への還流促進の4つを重点領域として掲げ、デジタル推進人材について2026年度末までに230万人育成することを目標としている(資料2-2)。

四つ目の誰一人取り残されないための取組みについては、①デジタル推進委員の展開、②デジタル共生社会の実現、③経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正、④利用者視点でのサービスデザイン体制の確立、⑤「誰一人取り残されない」社会の実現に資する活動の周知・横展開を挙げている。まず、デジタルに不慣れな方をサポートするための「デジタル推進委員」を2022年度2万人以上展開する国民運動を開始し、今後さらに拡大していくとのことである(資料2-2)。

図表3
図表3

3. デジタル田園都市国家構想とWell-beingの関係

(1)構想が目指す目標はWell-beingと持続可能な地域社会

構想とWell-beingの関係について基本方針では、構想の実現によりWell-beingの増大等を通じて「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指すと触れていた。デジタル庁は構想の目指すべきものとして「『大都市の利便性』と『地域の豊かさ』を融合した『デジタル田園都市』を構築」し、「Well-being:心ゆたかな暮らし」と「Sustainability:持続可能な環境・社会・経済」を実現することを謳っている(資料3)。つまり、構想が目指す上位の目標の一つとして、Well-beingが位置づけられているということである。

図表4
図表4

(2)Well-being向上を推進するためのLWC指標

デジタル庁では、Well-being向上を着実に推進していくため、地域住民のWell-being指標として、Liveable Well-Being City指標(以下、LWC指標)の活用を打ち出している。LWC指標とは、統計などの客観指標とアンケートで計測する主観指標を組み合わせて、市民の暮らしやすさとWell-beingを数値で見える化したものである。

これまで地方自治体が取り組むまちづくりでは、各事業が目指す目標や事業の進捗を測るKPIはそれぞれに設定されており、ともすると全体的な整合性に欠けることもあった(資料4)。デジタル庁ではLWC指標を導入することで、Well-beingの向上という目標に整合的となるよう、各事業の取組みやKPIをすり合わせることが可能となり、事業間の連携もスムーズになるとしている。

図表5
図表5

LWC指標の目的は6つあるとされている(資料5)。まず、デジタル田園都市国家構想を受けた各自治体の取組みがデジタルやデータ活用といった技術的な側面に偏ることなく、その地域に住む人のWell-being向上という「人間中心主義」に向かうよう明確化することが挙げられている。そのためにLWC指標は「暮らしやすさ」や「Well-being」を多面的に数値化・可視化するものとして開発されている。また、この指標が自治体間のランキングではなく、それぞれの自治体が特徴、個性を活かしてまちづくりを行っていくことを目的としていることも明確に打ち出している。指標が根拠(エビデンス)のあるものとなるよう、WHO等の国際的な枠組みを援用しており、客観的な統計と主観的なアンケート調査の双方を活用したものとなっている。これらのデータを継続的に分析してくことで、各自治体が取り組むまちづくりに関する政策の効果について検証し、EBPM(注2)に役立てることが企図されている。

図表6
図表6

LWC指標は大きく分けて三層の構造からなっている(資料6)。一層目は主観的な幸福度指標である心の因子、二層目は活動実績指標である行動の因子、三層目は生活環境指標である環境の因子である。

一層目の心の因子は、地域生活のWell-beingという地域における市民の主観的な幸せを測る個人因子(注3)と、協調的幸福という「場」や「関係性」といった地域で循環する幸せを測る指標である協調因子(注4)からなる。

二層目の行動の因子は、アンケートやウェアラブル端末で日々の生活活動に対する満足度を測るActiveQol因子(注5)と、市民が実際に取った行動実績を測るセンシュアス・シティ(注6)等の因子からなる。

環境因子は客観的な統計データを基に、身体、社会、精神といったWell-beingの各側面に関わる地域の生活環境を測定する因子である(注7)。

図表7
図表7

(3)LWC指標を活用したWell-being向上の進め方

構想ではこのLWC指標を用いて、どのようにWell-beingの向上を進めていくことが想定されているのか、そのプロセスを確認する(資料7)。

図表8
図表8

まず、①俯瞰のステップで、LWC指標を用いて各地方自治体のWell-beingを高める因子について、上位に個人因子と協調因子があり、その下にそれらを支える行動因子、環境因子があるという全体の関係性を確認する(資料8)。さらに個人因子、協調因子、行動因子、環境因子、それぞれについて関係性があることを俯瞰する。

②因子の探し出しのステップでは、それぞれの市の特徴として、どの因子が特にWell-beingを高める要素として機能しているのかを特定する(次ページ資料8下段)。

図表9
図表9

③、④では抽出した因子の特徴や他の因子との関係性を踏まえて、どのような政策を展開すると、どのような経路を辿って住民のWell-beingが向上していくかについてのストーリーを可視化する。その上で、ストーリーを実現するための施策を体系化し、まちづくりの関係者(地域住民や民間企業、大学、NPO、行政etc.)とディスカッションし、検討を重ねる(資料9)。

図表10
図表10

⑤ではディスカッションの内容を踏まえて、Well-beingを高める施策やその効果を測るKPIを決定し、実践に移す。⑥ではKPIの目標達成度やWell-beingの向上度をモニタリングし、必要に応じて施策を改善する(資料10)。こうしたプロセスを経ながら、住民のWell-being向上を目指して、PDCAサイクルを回してくことになる。

図表11
図表11

4. おわりに~Well-beingの向上なくして地域の持続的な成長もなし

ここまで見てきたLWC指標については、今年度からデジタル田園都市国家構想推進交付金(デジ田交付金)Type2/3採択自治体を中心として指標の活用が始まっている(資料11)(注8)。LWC指標を利用する自治体では指標を計測するツールやガイドブックを活用し、取組みを推進している。2022年度中には対象自治体での測定結果を取りまとめて報告することが予定されており、分析結果を踏まえてLWC指標等の改善が図られる。また、Well-beingの増大につながるような好事例があれば活用自治体の拡大が期待されるところである。

Well-beingの向上なくして地域の持続的な成長もない、逆もまたしかりである。田園都市国家構想を通じたデジタル基盤の充実は、地域のWell-beingと持続的な成長に裨益するよう推進されるべきと考える。

図表12
図表12

以 上

【注釈】

  1. 内閣府(2021年9月)「関係府省庁におけるWell-being関連の基本計画等のKPI、取組・予算(概要)」P2を参照。
  2. EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、「証拠に基づく政策立案」と訳され、政策の立案に当たって、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすることを指す。
  3. 地域生活のWell-being因子は、慶應義塾大学 前野隆司教授らが開発した指標であり、以下の10因子で構成される(デジタル庁・一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「LWC指標利活用ガイドブック」(2022年7⽉)P12より抜粋)。

図表13
図表13

  1. 協調的幸福因子は京都大学 内田由紀子教授らが開発した評価指標であり、以下の6因子で構成される(注3前掲書、P14より抜粋)。

図表14
図表14

  1. ActiveQoL因子は日立東大ラボが開発した日々の生活活動に基づく評価指標であり、インスタント版では直近1か月に行った以下に示す10種類の生活活動(行動因子)に対する主観的な満足度をアンケートにより計測(注3前掲書、P16より抜粋)。また、各行動因子について、活動に対する嗜好、身体的・心理的負荷、理想と現実の過ごし方のギャップを補足指標として計測。また、アンケートに代えてウェアラブルデバイス等による計測結果を活用するスタンダート版も開発中。

図表15
図表15

  1. センシュアス・シティ+寛容性因子はLIFULL HOME’S総研 島原万丈所長が開発した指標であり、以下の7因子から構成される(注3前掲書、P18より抜粋)。

図表16
図表16

  1. 暮らしやすさの客観指標は、身体・社会・精神の健康に関する客観的な統計指標であり、以下の22因子からなる(注3前掲書、P20より抜粋)。例えば、身体分野の医療・健康因子としては、市民の健康度を測る観点から健康寿命や一人当たり医療費、特定健診受診率などの統計と、医療機関へのアクセスの良さを測る観点から医療施設の徒歩圏人口カバー率、平均人口密度などの統計が選ばれている。

図表17
図表17

  1. デジタル田園都市国家構想推進交付金は、デジタルを活用して地域の課題解決や魅力向上に向けた意欲ある地域の取組みを国が支援する交付金を指す。本交付金にはデジタル実装タイプと地方創生テレワークタイプの2つの種類がある。デジタル実装タイプは、他の地域で確立された優良モデルを活用するType1事業と、他地域のモデルケースとなり得るType2/3事業がある。Type2/3事業については、2022年6月に27団体(都道府県7団体、市町村20団体)、国費49.1億円の事業が採択されている。

【参考文献】

  • デジタル庁「『デジタル⽥園都市国家構想』持続可能な新産業の創出へ」『第6回デジタル⽥園都市国家構想実現会議(2022年4⽉4⽇)』
  • デジタル庁「『デジタル⽥園都市国家構想』持続可能な新産業の創出へ」『第7回デジタル⽥園都市国家構想実現会議(2022年4⽉27⽇)』
  • デジタル庁・一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「LWC指標利活用ガイドブック」(2022年7⽉)
  • 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「デジタル田園都市国家構想基本方針について」(2022年6⽉)
  • 内閣府政策統括官(経済社会システム担当)参事官(総括担当)「関係府省庁におけるWell-being関連の基本計画等のKPI、取組・予算(概要)」(2021年9月)

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 マクロ環境調査G 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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