ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

生活期リハビリで生活機能の維持・向上を

~壮年期療養者のQOLを保ち続けるために~

後藤 博

目次

1. 生活機能を維持・向上するリハビリテーションの重要性

厚生労働省の令和2年度介護保険事業状況報告(年報)によると、「特定疾病」が原因で介護が必要と認定された40~64歳までの人(介護保険第2号被保険者)は約13万人となっている。身体機能が徐々に低下し、生活習慣病など健康が気になり始めるこの時期は、職場での責任が重くなるほか、家庭での役割も重なり、ストレスも強まる時期である。このような現役の壮年期に重い傷病を患い、看護や介護を要するようになった人には、社会復帰を見据えた回復のためのリハビリテーション(以下 リハビリ)が特に必要とされる(注1)。

リハビリは、人が生きていくため「生活機能」の回復・維持・向上を図るものである(注2)。ここでいう「生活機能」とは、人が生きていくための機能全体を「国際生活機能分類」という枠組みの中で捉えたもので、身体的・精神的働きである「心身機能」、日常の生活動作や家事など生活行為全般である「活動」、家庭や社会生活で役割を果たす「参加」の3つの要素からなっている(注3)。

厚生労働省の手引き(注4)においても、リハビリによる3つの要素へのアプローチによって「生活機能」の維持・向上を図るという考え方が示されている(図表1)。

図表1
図表1

2. 生活期リハビリは介護保険サービスが基本に

リハビリは、急性期・回復期・生活期の3段階から構成される。急性期・回復期のリハビリは、公的医療保険でカバーされるもので、疾患別に標準的算定日数が設けられている。

算定日数を超えるリハビリは生活期に位置付けられる。以前は生活期のリハビリも医療保険と介護保険の併用ができていたが、2019年3月末に介護保険のみの取扱いに移行した。この制度変更によって、急性期と回復期のリハビリは医療保険から給付され、生活期のリハビリは、「医療保険によるリハビリの継続が必要」と医師が判断した場合等の対応を除いて、主に介護保険から給付されるという機能分化が強まった。

そもそも、リハビリの各期では主な目的が異なる。急性期においては、早期離床や廃用症候群(注5)の防止を目的とし、回復期においては、自宅での生活に戻ることを目指した心身機能回復・ADL(日常生活動作)の向上が目的となる(注6)。一方、生活期では、心身の機能やADLの維持・向上を図りながら、生活機能の維持やQOLの改善が目的とされる。

医療保険でのリハビリでは、外来(通院)・入院など病院で行う「治療・訓練による機能回復」が主な目的となるが、介護保険でのリハビリは「日常生活全般を捉えた生活機能の維持」を主な目的としている。この生活期のリハビリは、急性期・回復期における医療保険のリハビリを終了した後の受け皿となり、「生活を支える」機能を担う。訪問リハビリと通所リハビリが具体的なサービスとなっている。

しかし、生活期リハビリにおける医的介入への患者ニーズは依然高く、必要な人が本来得られるはずの機会を失わないようにするという課題がある。たとえば、医療保険のリハビリが1対1であるのに対し、介護保険の通所リハビリは集団指導となっていることもあり、効果的な機器活用については相対的に装備が充実している医療機関における医療保険でのリハビリが有利である。医療保険と介護保険の併用は基本的にできず、介護保険の利用が優先されるため、患者が保険利用を辞退することもある。また、保険外リハビリは費用が高く、利用者保護の観点からも整備が求められている。

生活期リハビリの課題は、いかに自分の状態、生活に応じた適切なサービスを選択できるかにある。介護保険のサービスは多岐に亘るが、その中でリハビリを提供する事業所は主に病院や診療所、介護老人保健施設、介護医療院の4つである(図表2)。このうち病院と診療所は、医療保険によるリハビリも扱う。このため、どちらの保険からサービスを受けるのが望ましいのか、症状、希望、家族の生活状態を変化に応じて専門職にしっかり伝え相談し、判断する必要がある。

図表2
図表2

3. 自分らしい生活のためのリハビリテーション選択に向けて

医療保険・介護保険のリハビリを活用するうえでは、提供サービスの目的・内容を踏まえ、自分にあった組合せを選択することが大切である。

そのためには、相談できる専門職(地域包括支援センター相談員、ケアマネジャー、かかりつけ医等)とのつながりを確保したうえで、利用可能なリハビリに目を向けることが重要だ。

サービスの利用環境としては、居住地域によってサービスが一律ではないことに留意する必要がある。たとえば、リハビリに従事する人員、利用回数などには地域差があり(注7)、必ずしも利用したいサービスを受けられるとは限らない。また、要支援者の通所介護は、市区町村が運営主体の「介護予防・日常生活支援総合事業」に位置づけられていることもあり、サービスの地域格差が生じている。そのような状況を認識したうえで、今後自分がどうしていきたいか、何を選択するのか、十分に検討することが大切だ。さらに今後、技術進化による先端リハビリ・遠隔診療など、新たなサービスが創出される可能性もあり、変化に応じた選択が望まれる。

さらに、通所型あるいは訪問型サービスがメインとなる生活期リハビリについては、地域社会への参加にも目を向けたリハビリが実践されるべきだ。地域における役割を持って自分らしく暮らすための目標設定と達成、アウトカムがこれまで以上にリハビリ実践者と提供者に求められる。そのような観点から、ケアプランの作成を担うケアマネジャーに対する期待は大きい。

利用者としては、自分のニーズに合った施設(サービス)を決定するプロセスにおいて、情報活用は不可欠だ。リハビリの選択肢の把握、情報提供システムの活用等(注8)、情報利用にも支援を求めることを含めて積極的に取り組みたい。生活期に至っても状態の変化によっては急性期の医療が必要になることもある。したがって医療と介護のどちらかに固定することなく、必要に応じてサービスを選択できるよう関係者との連携を図っておくことも大切であろう(図表3)。

社会復帰を見据えた回復のための病気療養期のリハビリは、高年期はもとより、生活を支える立場の人が多い現役の壮年期でも重要である。自分に適した生活期リハビリの選択は、患者本人と家族の今後の生活に影響する大切なものであり、QOLの維持・向上に向けて自ら主体的に選択するという意味では、これも重要なライフデザインのひとつといえるのではないだろうか。

図表3
図表3

【注釈】

  1. 厚生労働省 第7回介護給付費分科会(2015.3)では「リハビリテーションにおける医療と介護の連携に関する調査研究(結果概要)が示された。通所リハビリの継続理由を尋ねたところ、利用者本人回答によればリハビリ継続理由は、「身体機能を治したい」が最多で78.8%であった。
  2. 「リハビリテーションは能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。」古笛恵子『事例解説 リハビリ事故における 注意義務と責任』新日本法規(2012.4)
  3. 国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)は、人間の生活機能と障害の分類法として、2001年5月、世界保健機関(WHO)総会において採択された。この特徴は、これまでのWHO国際障害分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、「ICF」は生活機能というプラス面からみるように視点を転換し、さらに環境因子等の観点を加えたことである。https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
  4. 厚生労働省「介護保険事業(支援)計画における要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制の構築に関する手引き」(2020.8)
  5. 廃用症候群は治療等のため、長期間にわたって安静状態を継続することや活動性低下による、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状などをいう。
  6. ADL (Activities of Daily Living)は日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のこと。
  7. 厚生労働省「要介護者等に対するリハビリテーション サービス提供体制に関する検討会報告書」(2020.7)
  8. 厚生労働省は、Webサイト 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」を公開している。https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/

【参考文献】

  • 厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」(2022.9)
  • 厚生労働省老健局老人保健課「介護保険事業(支援)計画における要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制の構築に関する手引き」(2020.8)
  • 厚生労働省「要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制に関する検討会報告書」(2020.7)
  • 厚生労働省 第7回介護給付費分科会「リハビリテーションにおける医療と介護の連携に関する調査研究(結果概要)(2015.3)

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 社会福祉、保健・介護福祉

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