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ウクライナ寄付プラットフォーム「U24」の衝撃

~なぜ1か月で約79億円の寄付が集まるのか~

柏村 祐

目次

1.ウクライナの新たな寄付プラットフォーム

2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は長期化しており、ウクライナ政府は世界中に軍事支援、財政支援を呼び掛けている。筆者は以前、侵攻開始直後に始まった暗号資産によるウクライナへの寄付の方法を紹介した(注1、注2)。それらの寄付では、寄付金の利用目的を寄付者が選択することはできず、寄付金の活用実績を知ることもできなかった。

今回新たに寄付プラットフォーム「U24」が、ウクライナア政府によって立ち上げられた。このプラットフォームでは、寄付者が望む寄付項目を選択でき、また、寄付金の活用実績も可視化されている。本稿では、この寄付プラットフォーム「U24」を概説する。

2.「U24」の概要

ウクライナの寄付プラットフォーム「U24」の状況は、公式ウェブサイトで確認することができる。2022年5月5日に立ち上げられた「U24」は、開設して約1か月後の6月18日時点で、約5,860万ドル(約79億円)の寄付金を集めている。

「U24」のトップページに掲載されている紹介動画において、ウクライナのゼレンスキー大統領は、以下のように寄付を呼び掛けている。「すべての寄付が勝利のために重要です。守るための寄付、救うための寄付、再建するための寄付。」(図表1)。

図表 1 メッセージを伝えるゼレンスキー大統領
図表 1 メッセージを伝えるゼレンスキー大統領

たった1か月で5,860万ドルもの寄付を集めたウクライナ寄付プラットフォーム「U24」の特徴は、「選択できる寄付項目」、「多様な送金方法」、「寄付金利用状況の公開」の3点にある。

「選択できる寄付項目」とは、寄付者が寄付したい項目を選択できることを意味する。「U24」では、防衛と地雷除去、医療援助、ウクライナの再建の3つから寄付内容を選択できる。寄付内容を選択した後、寄付者自身の状況に応じ、クレジットカード、銀行振込、暗号資産、PayPalから送金方法を選ぶことができる(図表2)。たとえば銀行振込の場合、利用できる通貨は、ウクライナグリブナ、米ドル、ユーロ、英ポンド、オーストラリアドル、カナダドル、ポーランドズウォティと幅広い(図表2)。また、利用できる暗号資産は数百に上る。このように、ウクライナ寄付プラットフォーム「U24」は、いつでも世界のどこからでもオンラインで寄付できる環境を整備している。「多様な送金方法」を通じて集められた寄付金は、ウクライナ国立銀行の公式口座に振り込まれ、必要とされる支援に充てられる。

図表 2 防衛と地雷除去支援における暗号資産寄付画面
図表 2 防衛と地雷除去支援における暗号資産寄付画面

また、もう1つの特徴である「寄付金利用状況の公開」は、寄付された資金の配布の効率性と透明性を確保するための仕組みである。実際に集まった寄付金の利用状況が、防衛と地雷除去、医療援助、ウクライナの再建別に開示されている(図表3)。

2022年6月18日現在、防衛と地雷除去の内訳としてヘルメット35,674個、ボディーアーマー30,492個、特別仕様車7台、制服28,974セット、タクティカルアンダーウェア65,569着、T型帽子15,005個、靴6,034足、寝袋・ハンドバッグ等27,934個となっており、これらを購入するための費用総額は42,097,615USドルとなっている。

また、医療援助の内訳は、医療機器35台、その購入費用は906,856USドルと報告されていた。これについて、ドニプロペトロフスク救急・災害医療地域センターのラディ・シェフチェンコ所長は、「我々は現在、近隣の4つの地域の救急サービスを支援しています。ルハンスク、ドネツク、ハリコフ、ザポリジャーという近隣4州の救急隊を支援しています。私たちは、助けを必要とするすべての人を躊躇なく救う準備ができています。2022年4月8日、鉄道駅での爆発事故の被害者をドニプロに避難させるため、私たちはすぐにクラマトルスク市に向かったということは決して忘れないでしょう。人工肺換気装置は重症患者の搬送に必要ですが、U24プラットフォームのおかげで受けられるようになったことを感謝しています」と述べている(注3)。「U24」を通じて集められた寄付金が人工肺換気装置購入に充てられ、市民に対して有効活用されたことがわかる。ウクライナの再建については、寄付金が少額なため、被災したものの修復には資金が不足しており、未だ利用されていないようだ(注4)。

以上のように「U24」は、ウェブサイトを通じて、寄付金の利用状況について迅速かつできる限り透明性を確保するよう情報発信を行っている。

図表 3 U24 における寄付金の利用状況
図表 3 U24 における寄付金の利用状況

3.ウクライナ政府のデジタル活用力の高さを証明

ウクライナ寄付プラットフォーム「U24」は、「選択できる寄付項目」、「多様な送金方法」をウェブサイトに展開し、寄付者が援助したい内容に寄付できる環境を整備したうえで、多様な送金方法を用意することで寄付者の利便性を高めている。クレジットカードや銀行振込は、たとえば日本国内の寄付のプラットフォームである「ふるさと納税」でも送金方法として利用できるが、「U24」は、暗号資産やPayPalといった新しい決済機能も取り込んでいる。

さらに、ウェブサイトの「寄付金利用状況の公開」において、寄付金がどのように活用されているのかを一般に公開し、制度の透明性を確保しようとしている。

このように、迅速で利便性の高い寄付の仕組みを実現し、透明性も可能な限り確保しているウクライナ寄付プラットフォーム「U24」は、高度なデジタル技術を国家の危機における課題解決に活用するという革新的な取組みであり、それを有事にもかかわらず短期間に展開する実践力は、ウクライナ政府のデジタル活用力の高さを証明しているといえるのではないだろうか。


【注釈】

1)ウクライナ「暗号資産寄付」の衝撃~ウクライナ財政支援に活用される仮想通貨寄付~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/183780.html

2)ウクライナ「暗号資産72億円寄付」の衝撃~多額の寄付を集めるウクライナ暗号資産寄付プラットフォームの秘密~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/184930.html

3)UNITED24HPより「https://u24.gov.ua/news/35-avl-devices

4)UNITED24HPより「https://files.u24.gov.ua/reports/2022-06-16/Expenditures_20220616_ENG.pdf

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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