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ウクライナ「暗号資産72億円寄付」の衝撃

~多額の寄付を集めるウクライナ暗号資産寄付プラットフォームの秘密~

柏村 祐

目次

1.進化する暗号資産寄付の形

ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界中からウクライナへの暗号資産による寄付が拡大している(注1)。

暗号資産による寄付は、2022年2月27日にウクライナ政府の公式ツイッターによる呼びかけにより急遽始まった。ウクライナ政府のツイッターには寄付先となるビットコインやイーサリアムのウォレットアドレスが掲示されている(注2)。そこに寄付する場合は、アドレス情報をもとに1つ1つ手順を踏み、間違えがないように暗号資産ウォレットへ送金するなど手順が煩雑だ。また、寄付の目的や利用用途、集められた寄付金額を確認したい場合、点在する情報から1つ1つ調べる必要がある。

その後、2022年3月15日にウクライナ政府は、これらの課題を解消するために、暗号資産による寄付に興味がある利用者に寄り添うわかりやすい情報開示、シンプルな操作性が確保された「暗号資産寄付プラットフォーム」を立ち上げている。本稿では、この「暗号資産寄付プラットフォーム」の現状を確認し、その可能性について考察する。

2.ウクライナ政府が運営する暗号資産寄付プラットフォーム

ウクライナ政府は、2022年3月15日、公式ツイッターに「世界中のユーザーがウクライナに暗号通貨を寄付できる公式ウェブサイトが公開されます: http://donate.thedigital.gov.ua」と投稿した(注3)。

この公式ウェブサイトを開くと、「暗号資産でウクライナを助けてください、敵と私たちを放っておいてはいけません」というスローガンが目立つように記載されている。また、このサイトでは、世界中から寄付される暗号資産の金額がリアルタイムでいくら集まっているか確認できる。リアルタイムに表示される寄付状況の下には、「自由のための戦いで人々をサポートするためにウクライナに暗号資産を寄付しよう」と記載されており、ビットコインやイーサリアムといった世界に流通する主要暗号資産13種類が表示されている。2022年3月20日時点で、寄付された暗号資産は約6,063万ドル(約72.2億円)となっている(図表1)。

筆者は、ウェブサイトに掲示されている13種類の主要暗号資産に関する操作性を確認してみた。例えば、イーサリアムを送付する場合では、画面上でイーサリアムのマークをクリックすると、0.05ETH、0.1ETH、0.25ETH、0.5ETH、1ETH、Otherと表示され、自分が寄付したい金額を選択できる。その画面で任意の金額を選択すると、イーサリアム利用者の多くが利用しているMetamaskと呼ばれる暗号資産ウォレットの選択画面に遷移し、送金手続きを進めることができる。この送金処理手順は、暗号資産を寄付したい利用者にとって、簡単でわかりやすい手順となっている(図表2)。

また、他の暗号資産の事例としてソラナを確認してみよう。画面上でソラナのマークをクリックすると、1SOL、5SOL、10SOL、15SOL、25SOL、Otherと表示され、自分が寄付したい金額を選択できる画面が表示される。その画面で任意の金額を選択すると、ソラナ利用者の多くが利用している5つの暗号資産ウォレットの選択画面が表示され、送金手続きを進めることができる。イーサリアムと同様に、この送金処理手順は、暗号資産を寄付したい利用者にとって簡単でわかりやすい(図表3)。

以上みてきたような利用者にわかりやすい操作性、適切な情報開示が実現されている「暗号資産寄付プラットフォーム」が、ロシアのウクライナ侵攻が開始された2022年2月24日からたった3週間弱で公開できた要因はどこにあるのだろうか。 その要因の1つとして、民間企業の協力があるようだ。ウクライナのホームページによれば、なぜこのサイトを作ったのか、そしてそれはどのように機能するのかについて、以下の通り説明されている。

「暗号コミュニティは、ウクライナ人がロシア連邦による挑発的な攻撃と、バルカン戦争がはじまって以来、ヨーロッパで見られなかった人道的災害に苦しんでいる人々を見過ごすことはできません。Everstakeはウクライナを拠点とする企業です。私たちは、暗号コミュニティを通じて、ウクライナが効率的に立ち向かうための実行力のある仕組みを提供したかったので、AidForUkraineと呼ばれる私たちのイニシアチブを立ち上げました。AidForUkraineは、受け取った暗号資金を法定通貨に変換し、寄付をウクライナ国立銀行に送る暗号通貨交換所FTXと協力しています。これは、暗号通貨の寄付を実現するために、公的金融機関と協力する暗号通貨取引所の最初の取り組みとなります。この取り組みを通じて集められたすべての資金は、ウクライナ人を支援するために直接使われます。寄付は、ウクライナ軍と人道援助を切実に必要としているウクライナの民間人を支援するために使用されます。」(注4)

この内容から、ウクライナ政府単体の取り組みではなく、暗号資産取引所やブロックチェーン企業の協力があったからこそ、たった3週間弱の間で「暗号資産寄付プラットフォーム」を作ることができたことがわかる。

また、ウクライナ政府は、この「暗号資産寄付プラットフォーム」立ち上げと同時期に、暗号資産に関する法整備を進めている。ウクライナ政府が2022年3月17日に発表したプレスリリースでは、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2月17日にウクライナ最高議会によって採択された暗号資産に関するウクライナ法に署名しました。」としている。ゼレンスキー大統領が署名した法律は全9種類であり、その内容は、ウクライナにおける暗号資産の市場発展を促す法律の整備や規制に関する内容となっている(注5)。

3.暗号資産寄付プラットフォームの価値

以上みてきたように、ウクライナ政府への財政支援策の1つとなる「暗号資産寄付プラットフォーム」がもたらす新たな価値とは何だろうか。

筆者は、それを「利用者視点のわかりやすい情報開示とシンプルな操作性」と考える。2022年2月27日にウクライナ政府の公式ツイッターによる呼びかけにより開始された初期段階の暗号資産の寄付においては、寄付先となるウォレットアドレスが掲示されているのみで、寄付が今なぜ必要なのかに関する丁寧な説明がなく、また寄付の手順は、暗号資産に詳しい人向けの内容であった。しかし2022年3月15日にウクライナ政府が立ち上げた「暗号資産寄付プラットフォーム」は、本稿で解説してきたように、寄付に興味をもつ一般の人向けに、利用者視点のわかりやすい情報開示と操作性が確保された仕組みへと進化を遂げている。5日間で暗号資産約72.2億円の寄付を集めたのはその証左だ。

このようなユーザーフレンドリーな暗号資産による寄付の仕組みは、今後発生しうる地球規模の有事や災害などにおいても、その渦中に苦しむ人を救う手立てとして有効に機能するであろう。日本をはじめとする各国は、今回ウクライナ政府が主導して実現した「暗号資産寄付プラットフォーム」の「利用者視点のわかりやすい情報開示とシンプルな操作性」から多くを学び、このようなプラットフォームを有事や災害の際に活用することが、今後求められるのではないだろうか。


【注釈】

1)ウクライナ「暗号資産寄付」の衝撃~ウクライナ財政支援に活用される仮想通貨寄付~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/183780.html

2)twitterHPより「https://twitter.com/Ukraine/status/1497594592438497282

3)twitterHPより「https://twitter.com/FedorovMykhailo/status/1503470362641772558

4)the Ministry of Digital Transformation of Ukraine HPより「https://donate.thedigital.gov.ua/

5)Ministry and Committee for Digital Transformation of Ukraine HPより「https://thedigital.gov.ua/news/zapustili-ofitsiyniy-vebsayt-dlya-zboru-kriptovalyuti-na-pidtrimku-ukraini

【暗号資産による寄付について】
在日ウクライナ大使館の公式ツイッター(2022年3月7日午後5:54)において※、「最近は当館を装って、ビットコインなどの暗号通貨を含めて寄付を呼び掛ける詐欺のメールが現れたと承知しています。詐欺にご注意をお願いします!」との注意喚起がなされています。
暗号資産による寄付を行う際には、信用できる送金先か、ウォレットアドレスが正しいものであるかを確認する等、十分ご注意ください。
※「https://twitter.com/UKRinJPN/status/1500756790551584768?cxt=HHwWgICpsbCW4dMpAA

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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