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2025.11.19
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AI活用は、まだ「質問」で止まっていないか?
~AIエージェントに業務を“任せる”新時代の働き方~
柏村 祐
- 目次
1.なぜ、AIを使っても仕事は劇的に楽にならないのか
ChatGPTの登場以降、ビジネスにおけるAI活用は一気に身近なものとなった。多くの企業が業務効率化の切り札としてチャットAIを導入し、文章作成や情報収集といった場面でその効果を実感していることだろう。一方で、多くの現場からは「期待したほどの生産性革命には至っていない」という声も聞こえてくる。それはなぜだろうか。この背景には、現在のAI活用のほとんどは、AIを「高性能な検索エンジン」や「優秀な相談相手」として “使う”ことに留まっており、働き方の本質を変えるまでには至っていないからである。
その根本にはAIを「高性能な道具」として捉えるあまり、その道具を使いこなすための新たな作業に追われているという矛盾にある。たとえば、営業資料の作成では、AIに適切な指示文を与えて文章を生成させ、その出力を確認し、必要な部分をコピー&ペーストしてPowerPointに貼り付け、さらに体裁を整えるという工程が発生する。顧客対応のチャットボットでも、AIが生成した回答案を人間が確認・修正し、最終的に送信する判断を下している。リサーチ業務においても、AIが提示した情報の真偽を検証し、複数の出力を統合して一つのレポートにまとめる作業は依然として人間が担っている。つまり、文書作成、翻訳、画像生成といった個別タスクでAIが活躍する一方で、それらを統合し、最終的な成果物に仕上げる「メタ作業」は人間に残されたままなのだ。これは、AIというツールを使うための「新たな仕事」が生まれているに過ぎず、生産性の向上には自ずと限界がある。
とはいえ、私たちが「AIの最適な使い方」に試行錯誤している間にも、AIそのものが根本的な変化を遂げている。AIはもはや、指示を待つだけの受動的な「ツール」ではない。自ら目標を理解し、計画を立て、必要なツールを使いこなし、時には失敗から学びながら業務を遂行する「AIエージェント」へと進化し始めているのだ。この変化は、コンピュータの登場が単なる「計算の高速化」ではなく、知的生産のあり方そのものを変えたことに匹敵する、働き方の大きな転換点といえるだろう。
この「AIエージェント」という新たな存在は、AIを単なる道具として「使う」段階に留まるのか。それとも、自律的なパートナーとして業務を「任せる」ことで、人間を知的労働の次のステージへと進めるのかという問いを突きつける。この問いに答えるべく、本レポートは、AIエージェントに関する最新の学術的知見(第2章)を踏まえながら、これからの企業が取るべき新たな組織戦略と働き方(第3章)を検討する。
2.最新研究が解き明かす「AIエージェント」の実態
AIの進化は、単なる性能向上に留まらず、AIと人間の関係性を根本から変えようとしている。AIは、私たちが指示したことだけをこなす「ツール」から、自ら考え、行動する「エージェント」へと変化しているのだ。
この章では、この変化の実態を明らかにするため、異なる角度からAIエージェントを論じた3つの学術論文を概観する。具体的には、AIの進化の方向性を論じた『Beyond Pipelines: A Survey of the Paradigm Shift toward Model-Native Agentic AI』(2025年10月26日発行)(注1)、AIの自律性の段階を定義した『LEVELS OF AUTONOMY FOR AI AGENTS』(2025年7月28日発行)(注2)、そしてAIの能力評価の基準を示した『Survey on Evaluation of LLM-based Agents』(2025年3月20日発行)(注3)の知見を基に、AIの最前線を紐解いていく。
(1)AIの進化:外部制御の「パイプライン型」から、自ら学ぶ「モデルネイティブ型」へ
まず、AIエージェント自身の「賢くなる仕組み」が大きく変化している。論文『Beyond Pipelines: A Survey of the Paradigm Shift toward Model-Native Agentic AI』は、この変化を「パイプライン型」から「モデルネイティブ型」への大きな考え方の転換として説明している。
これまでの主流だったのは「パイプライン型 (Pipeline-based)」と呼ばれる方式である。これは、AIモデルをシステムの一部品と捉え、人間が作った外部のプログラムが「計画」「ツール利用」「記憶」といった行動を細かく制御するものだ。この方式は制御しやすい反面、想定外の事態に弱く、柔軟性に欠けるという課題があった。
一方、現在急速に台頭しているのが「モデルネイティブ型 (Model-native)」という新しいアプローチである。これは、AIの核となる能力を外部で操るのではなく、AIモデル自身が経験を通じて学習し、能力として内部に獲得していく方式だ(図表1)。特に、試行錯誤の中から最適な行動を見つけ出す「強化学習」という手法が、この進化を強力に後押ししている。
この結果、AIは外部の指示書に頼る存在から、自らの判断基準を内部にもって自律的に行動する存在へと、質的な転換を遂げているのである。

(2)AIの自律性レベル:人間の「関わり方」で測る5段階
AIエージェントが自律的になると、「どこまで仕事を任せるか」というレベル設定が重要になる。この問いに対し、論文『LEVELS OF AUTONOMY FOR AI AGENTS』は、AIの性能ではなく、AIと接する「人間の役割」を基準に、自律性を5つのレベルに整理するという、非常に実践的な枠組みを提唱している。
これにより、企業は自社の業務内容や許容できるリスクに応じて、AIとの適切な関係性を具体的に定義できる。図表2が示すように、このフレームワークは、人間がAIを細かく指示する「操作者」から、AIと対等に働く「協働者」、AIに助言を与える「コンサルタント」、AIの判断を最終承認する「承認者」、そしてAIの働きを全体的に見守る「監視者」へと、人間とAIの権限が段階的に移っていくプロセスを明確にしている(図表2)。

(3)AIの能力評価:これからのAIに求められる4つの力
AIエージェントの進化の仕組みと自律性のレベルが明らかになった一方で、実務において自律的に行動するAIエージェントの「パフォーマンス」をどう評価すればよいかという課題が残る。論文『Survey on Evaluation of LLM-based Agents』は、従来の「タスクの正解率」といった結果指標だけでなく、AIがタスクを遂行する過程で見せる4つの基本的な能力を評価することが重要だと指摘している。
これは、単に仕事の結果だけでなく、「進め方」や「問題解決能力」まで評価するという、人間の人事評価に近い考え方である。図表3にまとめた通り、これらは人間にたとえるなら、仕事の「段取り力」にあたる計画能力、PCやソフトウェアを使いこなすツール利用能力、失敗から学ぶ自己反省能力、そして過去の経緯を忘れない記憶能力に相当する。これらの能力を総合的に見ることで、AIエージェントの真のパフォーマンスを評価できる。

3.AIエージェントに業務を“任せる”ための組織戦略
AIエージェントの登場は、産業革命やデジタル革命のように、会社のあり方を根本から変えてしまうほどの大きな変化だと考えられている。この新しい会社の形は「エージェント組織」と呼ばれ、人間とAIエージェントがまるで同僚のように、大規模に協力しあって仕事を進める姿を指している (注1)。さらに踏み込んだ「エージェント企業」という考え方も提唱されている。これは、AIが自ら判断して仕事を進め、人間の手をほとんど借りずに会社を成長させていく組織モデルのことである。このモデルにおけるAIは、人間のように「考えて計画し、行動して振り返る」というサイクルを自ら回しながら、複雑な課題を解決していく一つの主体として考えられている (注2)。こうした専門家たちの議論が示しているのは、AIが単なる“高性能な道具”の段階を越え、企業が“業務の一部を任せるパートナー”へと進化しているという共通認識なのである。
第1章で述べたように、AIを使いこなすためのメタ作業が増え、生産性の伸びが頭打ちになりつつある現状を踏まえると、次の論点は「AIをどう使うか」ではなく、「AIにどう任せるか」である。そして第2章が示した学術研究の通り、エージェント型AIは計画、ツール活用、自己反省、記憶といった能力を内包しつつあり、任せ方の設計が成果を大きく左右する段階に入っている。
では、企業はAIエージェントという新たなパートナーに、いかにして賢く業務を「任せ」、その価値を最大化すればよいのか。本章では、そのために不可欠となる組織戦略の要点を、3つのステップで考察する。
(1)業務を分解し、AIとの最適な役割分担を決める
すべての業務を画一的にAIエージェントに任せるのは非現実的かつ危険である。そこで、まずは既存の業務プロセスをタスク単位まで細かく分解し、それぞれのタスクがもつ特性を評価する必要がある。その上で、第2章で示した「自律性5段階レベル」を各タスクに割り当てていく。
具体的には、業務を「定型度(定型・反復的か、非定型・創造的か)」と「判断の重要性(経営判断など重要度が高いか、情報収集などサポート的か)」という2つの軸で整理することで、どのレベルの自律性を適用すべきかを明確にすることができる。
たとえば、定型度が高く判断の重要性が低い「日次データの集計」のような業務は「L5:監視者」としてAIに完全に自律させ、定型度は低いが判断の重要性が高い「経営戦略の策定」のような業務では「L2:協働者」としてAIと人間が共同で意思決定を行う。このように、業務の性質に応じてAIとの関係性を柔軟に設計することで、組織はAIの能力を最大限に引き出しつつ、致命的なエラーを防ぐことが可能となる(図表4)。

(2)人間の役割を「AI時代の管理者」へとシフトする
AIエージェントに業務を任せることは、人間の仕事がなくなることを意味しない。むしろ、より高度で付加価値の高い役割へのシフトを促す。これからのビジネスパーソンに求められるのは、複数のAIエージェントを一つのチームとして率い、その成果を最大化する、いわば「AIチームのマネージャー」としての役割である。
具体的には、各エージェントのパフォーマンスを第2章の「4つの基本能力」に基づき評価し、能力が不足していれば追加学習を指示したり、担当業務を変更する。また、複数のAIエージェントが連携して進めるプロジェクト全体の進捗を管理し、ボトルネックを解消することも重要な責務となる。これは、人間の部下をマネジメントするのと本質的に同じであり、目標設定、評価、フィードバック、育成というマネジメントサイクルをAIに対して適用していく能力が不可欠となる。
(3) AIとの信頼関係を築き、協働する文化を育む
AIエージェントはもはや単なるソフトウェアではない。自ら学習し、成長する可能性を秘めた「デジタルな同僚」である。人間がAIに安心して業務を「任せる」ためには、その能力と限界を正しく理解し、信頼関係を築くことが前提となる。
そのためには、AIの意思決定プロセスを可能な限り透明化する「説明可能性(Explainable AI)」の確保が重要だ。なぜAIがその結論に至ったのかを人間が理解できなければ、ブラックボックスに対する不信感が生まれ、AIの提案を過度に疑ったり、逆に盲信したりする事態を招きかねない。
企業は、AIエージェントの導入を単なるツール導入としてではなく、新たなメンバーを迎え入れる組織変革として捉えるべきである。AIの失敗を許容し、そこから学ぶ文化を育み、人間とAIが互いの強みを活かしながら協働する未来像を組織全体で共有することが、AIエージェント時代の生産性革命を成功させる最も重要な鍵となる。
結論として、AIエージェントの登場は、私たちに働き方の根本的な変革を迫っている。AIを個別の作業ごとに「使う」段階に留まり、目先の効率化に一喜一憂するのか。それとも、業務全体をAIに戦略的に「任せる」仕組みを構築し、人間をより創造的で本質的な業務へと解放するのか。AIの自律性を恐れるのではなく、人間の知性でそれを巧みにコントロールし、パートナーとして迎え入れる勇気をもつこと。それこそが、AI時代における企業の競争力を決定づける、真の戦略といえるだろう。
【注釈】
-
Sang, J., Xiao, J., Han, J., Chen, J., Chen, X., Wei, S., Sun, Y., and Wang, Y. (2025年10月26日). "Beyond Pipelines: A Survey of the Paradigm Shift toward Model-Native Agentic AI". arXiv:2510.16720.
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Feng, K. J. K., McDonald, D. W., and Zhang, A. X. (2025年7月28日). "Levels of Autonomy for AI Agents". Knight First Amendment Institute, arXiv:2506.12469.
-
Yehudai, A., Eden, L., Li, A., Uziel, G., Zhao, Y., Bar-Haim, R., Cohan, A., and Shmueli-Scheuer, M. (2025年3月20日). "Survey on Evaluation of LLM-based Agents". arXiv:2503.16416.
-
McKinsey & Company (2025年9月26日). “The agentic organization: Contours of the next paradigm for the AI era”.
-
Gassmann, O. and Wincent, J. (2025年10月22日). “The Non-Human Enterprise: How AI Agents Reshape Organizations”. California Management Review.
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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