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ウクライナ「暗号資産寄付」の衝撃

~ウクライナ財政支援に活用される仮想通貨寄付~

柏村 祐

目次

1.注目される暗号資産

最近、仮想通貨と呼ばれていたものが、暗号資産という呼称で聞く機会が増えている。暗号資産とは、インターネット上でやりとりできる通貨を意味し、ドルやユーロなどの法定通貨と交換できる価値を有する。暗号資産は、ビットコインやイーサリアムを筆頭に数千種類存在する。これらの暗号資産は商品の支払い等に使用することができるため、インターネットにおける通貨として高い注目を集めている。

このように暗号資産の注目度が高まる中、ウクライナへの暗号資産による寄付が拡大している。2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まったことにより、ウクライナ政府は、軍事支援、財政支援、人道支援を必要としており、財政支援の1つの方法として、暗号資産による寄付を呼び掛けている。

本稿では、ウクライナへの暗号資産の寄付の現状を見ながら、従来の常識では考えられなかったその可能性について論ずる。

2.世界中から寄付される暗号資産

ウクライナ政府は、2022年2月27日、公式ツイッターに「ウクライナの人々と一緒に立ち上がりなさい。現在、暗号通貨の寄付を受け付けています。ビットコイン(以下BTC)、イーサリアム(以下ETH)、テザー(以下USDT)」と投稿した。その中には、BTCのウォレットアドレス「357a3So9CbsNfBBgFYACGvxxS6tMaDoa1P」、ETHのウォレットアドレス「0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14」が記載されていた(図表1)。2022年3月上旬時点で、この発言は6.9万回再投稿され、また21.3万人の人がこの発言に共感の意思を表明する「いいね」ボタンを押している(注1)。

筆者は、ウクライナ政府が掲載しているイーサリアムの暗号資産ウォレットアドレス「0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14」に寄付を実際に行った。2022年2月28日に寄付した0.001ETHは、その送金処理がすでに完了していることが示されており、ウクライナの暗号資産ウォレットに着金していた。その送金処理にかかった時間は「4分29秒」と表示され、日本国内からウクライナに迅速に送金できたことがわかる(図表1)。

図表 1 筆者によるウクライナへの暗号資産寄付結果
図表 1 筆者によるウクライナへの暗号資産寄付結果

暗号資産は分散型台帳により管理をされる通貨であるため、自分も含めて世界中の人々がウクライナの寄付口座であるETHウォレットアドレスへ「いつ」、「いくら」寄付したのか、その履歴を確認できる。図表2赤枠に記されている送金履歴を確認すると、1分前に0.07ETHが送金、8分前に0.005ETHが送金、10分前に0.02Hが送金されていることがわかる。ETHの送金台帳はだれもがインターネットで確認でき、リアルタイムで情報が更新される。このようなETHの分散型台帳の仕組みは、自分が寄付した暗号資産の送金履歴を確認できることに加え、世界中の見知らぬ誰かが、おそらくはそれぞれの思いを暗号資産に込めて、ウクライナへの支援を行っていることを知ることができる。つまりこれは、「暗号資産寄付」を通じてウクライナを応援する気持ちを世界中が共有できる場と言えるだろう。

図表 2 ウクライナのイーサリアムウォレットの送金履歴
図表 2 ウクライナのイーサリアムウォレットの送金履歴

また、2022年3月6日時点のウクライナのイーサリアムウォレットの全体概要を確認すると、70,245回の取引が行われており、約6,607ETH(約1,736万ドル)が寄付されていることがわかる(図表3)。また、集められたETHのうち、約4,859ETH(約1,278万ドル)が暗号資産取引所に出金されている。

図表 3 ウクライナのイーサリアムウォレットの全体概要
図表 3 ウクライナのイーサリアムウォレットの全体概要

次にイーサリアムと同様に、ウクライナ政府が募集しているビットコインの暗号資産ウォレットの全体概要を確認してみよう。2022年3月6日時点のウクライナ政府のビットコインウォレットを確認すると、14,056回の取引が行われており、約253BTC(約987万ドル)が寄付されていることがわかる(図表4)。また、集められたBTCのうち、約243BTC(約949万ドル)が暗号資産取引所に出金されている。出金された暗号資産は、食料や水を買うための人道支援や、軍事物資等を購入するために利用されているものと思われる。

以上みてきたように、ウクライナ政府の公式ツイッターによる寄付の呼びかけにより、世界中から送金されたイーサリアムとビットコインの総額は、3月6日時点で約2,723万ドル(約6,607ETH+約253BTC)に達している。またウクライナ政府は、イーサリアムやビットコインのみならず、ステーブルコインであるテザーや、ビットコイン等と同様に世界で流通するポルカドットといった暗号資産による寄付も呼びかけており、寄付活動は拡大の一途をたどっている。

図表 4 ウクライナのビットコインウォレットの全体概要
図表 4 ウクライナのビットコインウォレットの全体概要

3.仮想通貨寄付の可能性

このように、ウクライナ政府への財政支援策の1つとして、「暗号資産寄付」の仕組みが拡大しているが、「暗号資産寄付」がもたらす新たな価値とは何だろうか。

筆者は、それを「仲介者が要らない、すぐに届けられる寄付の実現」と考える。従来、国境を越える寄付を行う場合、NPOをはじめとする支援団体等の銀行口座を経由し、寄付したい国・組織・対象となる人にお金を届けるプロセスが一般的であり、暗号資産寄付のように迅速に国境を越えて直接寄付したい相手に送金することは難しかった。しかしながら「暗号資産寄付」の登場により、国境を越えて届けたい相手に、誰もが直接かつ迅速に支援を行えるようになった。

2009年に誕生したビットコインや、それに次ぐ規模を誇るイーサリアムは、その価格の価値騰落に話題が集中する傾向にある。しかしその本来の目的は、第三者の存在がなくてもネットワークを介して価値のやり取りをできることにある。暗号資産による寄付は、今回のような突然の有事にも有効活用できる仕組みといえるだろう。

ウクライナ危機の行く末は未だ不透明であるが、どのような結末を迎えても日常生活を取り戻すには莫大な費用がかかる。暗号資産による寄付は、「仲介者が要らない、すぐに届けられる寄付」を実現しており、今回のような有事や、早急に解決を求められる貧困や飢餓といった人道支援に対する有効な財政支援策の1つになっていくだろう。そしてその普及のためには、誰もが簡単に暗号資産を取り扱える環境を国や企業が積極的に整備する必要があるのではないか。

暗号資産による寄付は、今この瞬間に支援が必要となる当事者に誰もが直ちに寄り添うことができる「地球規模の共助」を実現するプラットフォームであり、今後さらにその活用が進むものと思われる。


【注釈】

1)twitter HPより「https://twitter.com/Ukraine

【暗号資産による寄付について】 在日ウクライナ大使館の公式ツイッター(2022年3月7日午後5:54)において※、「最近は当館を装って、ビットコインなどの暗号通貨を含めて寄付を呼び掛ける詐欺のメールが現れたと承知しています。詐欺にご注意をお願いします!」との注意喚起がなされています。 暗号資産による寄付を行う際には、信用できる送金先か、ウォレットアドレスが正しいものであるかを確認する等、十分ご注意ください。

https://twitter.com/UKRinJPN/status/1500756790551584768?cxt=HHwWgICpsbCW4dMpAAAA

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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