ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

誰がAIを使っているのか?

~AIのユニバーサル化に向けた利用から活用への転換~

鄭 美沙

目次

1. キャズムを超えたAI

AI(人工知能)の民主化が急速に進んでいる。AIの民主化とは、AI研究の第一人者である米スタンフォード大学のフェイ・フェイ・リー教授が2017年に示した概念で、AIを誰もが使えるようにするというものである。2025年3月に当研究所が行った調査によると、日常的にAIを使っている人は23.6%にのぼった(注1)。利用を牽引しているのは、最も身近なAIとして利用が拡大している生成AIであろう。総務省の情報通信白書(2025)では、個人の生成AIサービス利用経験は、2023年度の9.1%から2024年度は26.7%まで増加したと示されている。両結果を踏まえると、おおよそ4人に1人程度が生成AIを中心としたAIを利用しているとみられる。

新しい技術や製品の普及に関して、そのプロセスを示す「イノベーター理論」がある(図表1)。消費者を導入時期によって5つのタイプに分け、早い順に、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追従者)、レイトマジョリティ(後期追従者)、ラガード(遅滞者)に区分される。

イノベーター理論におけるアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には、「キャズム」と呼ばれる深い溝があるとされている(注2)。革新性や話題性などを評価する、いわゆる「新しもの好き」の層に普及しても、実用性や信頼性を重視するアーリーマジョリティに受け入れられないと市場拡大は難しい。このキャズムを超え、初期市場からメインストリームに移行できるかどうかが、普及における重要なポイントとされる。たとえば、メタバースの利用経験率は6.1%とアーリーアダプターにとどまっており(総務省「情報通信白書」2024年)、一時は注目を集めたものの、市場の拡大は依然として途上である。これに対してAIは、日常的に利用している人が23.6%という状況であるため、すでにキャズムを超え、アーリーマジョリティの初期層に入り、メインストリームに進みつつある。本稿では、この段階におけるAIの利用者はどういった属性なのか、当研究所が1万人を対象に行った調査をもとに概観するとともに、AI普及の今後のあり方を考察する。

2. メインストリーム化した段階のAI利用者の分布

まず、年代・性別にAIの利用者をみると、年代では若い人ほど利用率が高い(図表2)。また、全ての年代で女性より男性の方が高く、最も利用率が高かったのは18~20代の男性(39.6%)であった。一般的に、テクノロジーの初期段階での利用者は男性や若年層が多い傾向にあるが、AIにおいても同様の結果となった。

次に、職種別にみると、会社勤務(一般社員)の利用率は約3割であり、男女差はほぼみられない(図表3)。一方で、派遣社員・契約社員やパート・アルバイトの利用率は2割程度である。調査では、日常生活と仕事のどちらで利用しているかはたずねていない。仕事での利用を想定すると、定型業務が多い派遣社員・契約社員等は、自らの裁量でAIを活用する場面が限られると考えられる。定型業務や事務作業の多くはAIに代替されると言われているが、その導入判断を担うのは企画・管理を担う経営層や管理職層であり、現場レベルではAI活用の機会はまだ広がっていない可能性がある。

また、学生は半数近くが利用しており、授業や課題等で広く使われていると考えられる。今後、こうしたAIの利用習慣を持つ層が社会に出ることで、業務で積極的に使う人が増えたり、企業側もAIリテラシーの高い人材の増加によって導入のハードルが下がるなど、職場でのAI活用が一層進むことが予想される。

回答者の勤め先の業種別にみても、利用率に違いがみられる(図表4)。最も高いのは情報・通信業(39.1%)であり、最も低い外食・各種サービス業(20.3%)との間にはおよそ2倍の開きがあった。先述のとおり、調査では利用場面は日常生活と仕事とを区別していない。情報・通信業に勤める人は元々テクノロジーへの関心が高く、日常生活でも積極的にAIを利用するケースもあるだろう。しかし、それだけではなく、仕事自体に利用機会の多寡があり、結果として利用率の差が生じている可能性もある。

このように、AIの利用率は高まっているものの、性別や年齢、職業等によってその差は大きい。

3. スマートフォンの普及の推移

AIの今後の普及動向を考えるため、過去のテクノロジーの普及例として、スマートフォンの保有率の推移を確認する(図表5)。スマートフォンがキャズムを乗り越え、アーリーマジョリティに拡大したのは、全体の保有率が23.1%に達した2012年頃とみられる。前節で、一般的に、テクノロジーの初期段階での利用者は男性や若年層が多い傾向にあると述べたとおり、同時期は、AIと同じく、年齢が低いほど保有率が高い傾向にあった。しかし、その差は徐々に縮小され、2019年頃より50代以下ではほぼ同程度の保有率となっている。

また、スマートフォンが、現在のAIと同じ段階であるメインストリームに移行した2012年時点の「スマートフォンを通じてインターネットを利用する人」の割合をみると、全体では男性の利用率が女性より高いものの、20代では女性が上回っている(図表6)(注3)。柏村(2025) によると、生成AIに関しても、最近の研究では女性の日常利用が拡大していると指摘されている。男性の方がテクノロジーを好むというイメージがあるが、過去のスマートフォンの例からみてもそうとは言い切れない側面があるようだ。

以上のように、市場の拡大局面では、細かな違いはあるものの、AIとスマートフォンの利用者動向には類似した傾向もみられる。スマートフォンが、当初は利用者の属性に偏りがあったものの、その後広く普及した背景には、日常インフラとして定着したことが大きい。宮木(2025) によると、強い需要があれば、テクノロジーの苦手意識や面倒な作業というマイナス側面を凌駕し、行動変容を含めて受容する余地があるということだ。AIについても現状は属性毎に利用率が異なっているものの、その利便性が社会全体で認知されていけば、利用者層の拡大が今後さらに進むことが予想される。

4. 生成AIは利用から活用のフェーズへ

一方で、AIのなかで最も拡大している生成AIは、これまで登場したテクノロジーとは大きく違う。そもそも、スマートフォンはハードで、生成AIはソフトである。すでにデバイスが普及している現状では、生成AIを導入するハードルは低く、普及のスピードも速いと考えられる。また、他のソフトウェアとは「汎用性」と「クリエイティビティ」に違いがある。従来のソフトウェアやアプリは特定の目的・機能に基づいて設計されていたのに対し、生成AIは様々な用途に活用ができ、汎用性が高い。実際に、EUでは、AI法のなかで生成AIをGPAI(General-Purpose AI:汎用目的AI)に位置づけ、その汎用性に焦点を当てている。さらに、「使う」だけでなく新しいテキストや画像などのコンテンツを「作成」でき、多種多様なアウトプットを創造することが可能だ。

導入コストの高いパソコンやスマートフォンは、保有の有無が情報格差を生じさせる要因であった。それに対して、生成AIは導入コストが低く、使い方も多様なため、利用しているか否かだけでなく利用内容によって便益の差が生じると考えられる。したがって、今後AIの普及動向をみていく際には、その機能を十分に活かせているか、すなわち「どれだけ活用できているか」に着目することが重要となるのではないか。

既に、活用方法の違いを指摘する研究もある。Bassignana, E et al.(2025)は、個人の社会経済的地位(SES)(注4)による、LLM(大規模言語モデル)の使い方の違いを分析したところ、中・上位層ほど要約などの文章作成やデータ分析、コード作成など専門的・技術的なタスクに利用していた。一方、低位層では、雑談や一般的な質問など日常的なタスクに利用されていた。また、プロンプトにも違いがみられ、上位層ほど短く簡潔なプロンプトを書いており、少ない単語で自分の意図を的確に伝えられていると推測されている。生成AIのアウトプットの質はプロンプトの内容に左右されるため、的確な指示が出せるか否かという言語能力の差異は、その恩恵の格差を生み出す要因となりえる。さらに、同研究は、中・上位層ほど、業務や教育の目的でLLMを利用する傾向にあり、これらの差異が既存の不平等をさらに拡大させる可能性があると警鐘を鳴らしている。

こうした状況を踏まえると、AIの利用率が高まり、メインストリームへと移行したことは、「利用」から「活用」のフェーズへのシフトとも捉えられる。実際に、生成AIを試してみたものの、何に使っていいか分からないという人もいるだろう。本稿の冒頭で、AIを誰もが使えるようにするというAIの民主化が進んでいることを述べた。今後は、誰もが使えるだけでなく、一人ひとりがAIを何に活用するかを主体的に考え、社会や自分自身に価値をもたらす使い方ができる「AIのユニバーサル化」を目指すべきなのではないか。

そのためには、誰がどのようにAIを利用し、結果としてどのような恩恵を受けているのか、さらにそれらがAI自体の強化にどのようにつながっているのか、といった実態の把握や分析が最初の一歩になるだろう。政府や企業、大学などAI導入を推進・検討する主体を中心に、こうした動きが加速することが期待される。生活者個人には、これまでのテクノロジーのように与えられた機能を使うのではなく、AIの可能性と課題を主体的に探求していく姿勢が求められよう。全ての人に使いやすく、その恩恵が共有されるように、AIの民主化からAIのユニバーサル化への進化が望まれる。


【注釈】

  1. 「日常的にAI(人工知能)を使っている」に対して「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した合計割合(第一生命経済研究所「第13回ライフデザインに関する調査」2025年3月)。本調査はインターネット調査であるため、デジタルリテラシーが比較的高い層が調査対象となっている点に留意が必要。なお、調査時期は2025年3月であり、本稿執筆時点では、さらなる普及が進んでいると予想される。

  2. イノベーター理論は、1962年にスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授が提唱。キャズムは、1991年にジェフリー・ムーアが提唱したマーケティング理論。

  3. 同調査では、20代の「自宅のパソコンを通じてインターネットにアクセスする人」の男女差はみられない(男性77.5%、女性77.6%)。したがって、男性はパソコンを使用していたから女性よりもスマートフォンの利用率が低いというわけではない。

  4. 社会経済的地位(SES: Socio-economic Status)とは、個人や集団の社会的および経済的な位置づけを指す概念。個人のSESは、主に経済資本・社会資本・文化資本といった要素の組み合わせ、すなわち所得、学歴、職業、資産などによって決まる。

【参考文献】

鄭 美沙


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

鄭 美沙

てい みさ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ライフデザイン・ライフコース、金融リテラシー

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