なぜ、人はオフィスに戻るのか

~オフィスワーク回帰と地方分散の行方~

稲垣 円

目次

1.「脱東京」の動き?

総務省統計局が、2021年の人口移動報告を公表した(注1)。都道府県別の転入超過数で転入超過となっているのは神奈川県、埼玉県、千葉県など10都府県であった。その一方で、転入超過数が最も縮小したのは東京都であった。この結果から「脱東京の動き」、「一極集中の鈍化」という見方をする動きもある。確かに、東京都は2020年と比較して転入超過は大きく減少しているが(図表1)、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)でみると、東京都以外は全ての県で2020年よりも転入超過が増えており、さらに首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県・群馬県・山梨県)まで広げると、東京都と栃木県を除いた全ての県で2020年よりも転入超過が増えていることがわかる。つまり、東京都への集中は鈍化したものの、その代わり周辺の近郊都市への移動が増えており、都市部に人口が集中していることには変わりない(図表2)。

図表 1 都道府県別転入超過数(2020 年、2021 年)
図表 1 都道府県別転入超過数(2020 年、2021 年)

図表 2 転入超過数の多い上位 20 市町村(2021年)
図表 2 転入超過数の多い上位 20 市町村(2021年)

2.オフィスワーク回帰の強まり

新型コロナウイルスの感染拡大により、可能な限り人との接触を抑えることが推奨され、都内から地方や郊外への移住に関心が高まるのではないかと期待された。しかし当研究所で実施した調査結果からは、感染拡大をきっかけとした居住地以外の地域へ引っ越すこと(移住)への関心は大きく増えていく気配は見られなかった(「コロナ禍での引っ越し(移住)意識」 2021年10月)。

また、日本生産性本部(注2)が興味深い調査結果を報告している。同社は、新型コロナウイルス感染拡大が働く人の意識に及ぼす影響を継続的に調査している。直近(2022年1月)に発表された調査結果によれば、テレワークの実施率は前回 2021年10 月調査の 22.7%から18.5%へと減少し、2020年5月の調査開始以来最低を記録した(図表3)。

詳しくみていくと、100名以下企業のテレワーク実施率は2021年10月よりも3.2ポイントの低下(14.3%→11.1%)、101~1,000名の企業も7.4ポイントの低下(29.4%→22.0%)となっている。同様に1,001 名以上の大企業においても7.3 ポイント低下(37.1%→ 29.8%)している(図表4)(注3)。感染拡大と共に、半ば強制的に始まったテレワークだったが、2年を経て日本の働く状況はオフィスワーク回帰に向かっている可能性が示唆されている(注4)。

一方で、同調査結果では、テレワーカーの週当たり出勤日数は減少しており、週のうち3日以上テレワークを行う者は、2021年10月調査の41.2%から53.0%に増加したという。また、コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか、という設問には、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」の合計は、前回調査から増加して(71.6%→ 80.4%)8割を超えており、労働者がテレワークを敬遠しているわけではなさそうだ(図表省略)。

図表 3 テレワークの実施率
図表 3 テレワークの実施率

図表 4 従業員規模別・テレワークの実施率
図表 4 従業員規模別・テレワークの実施率

3.近郊が好まれる理由

この結果からは、オフィスワーク回帰が進むほどに地方への関心はさらに弱まることが想定される。他方、先に述べた近郊都市への転入超過傾向やテレワーカーの出勤日数が減ったことなどを勘案すると、こうした層が「働きやすさと暮らしやすさ」の両立を求めて近郊へ移動しているのではないか、と考えることができる。もちろん、仕事だけが唯一の理由ではなく、子どもの教育や親の介護に関わること、感染拡大によって仕事を失い転居せざるを得ないこと、都心部の住宅価格の高まり、住宅ローン減税が住宅購入を後押ししている可能性など、さまざまな理由が考えられる。ただ、テレワーカーのように職住一体化が進む人にとって(また、コロナ禍でこうした経験を一度でもした人にとって)、オフィスと同等とは言わないまでも、仕事がしやすいハード(広さやオフィス家具、防音、その他の必要機器)や情報通信環境を求めることは自然だろう。加えて、週数日でも出社する必要があるなら、なるべく通勤に便利な近郊を選択する。つまり、テレワークの普及を背景に、近郊に住むことで得られる「快適性」と「利便性」の両立が、居住地を決定する重要な要素になっているものと考えられる。

4.なぜ、オフィスへ戻るのか

そして、もう一点考えなければならないのは、なぜ企業がオフィスワーク回帰へと向かっているのか、という点であろう。感染拡大により、多くの人がテレワークを経験した。これにより「在宅でも仕事ができる」ことや「通勤時間を削減でき、時間を有効に使える」といった評価と同時に、出社することで得られていた価値についても見直された。その最たるものが「職場の人とのコミュニケーション」だろう。テレワークの推進にあたって、非対面コミュニケーションを円滑にするためのチャットツール等の導入や活用が急速に進んだ。しかし、細かな表情やしぐさも伝わり、ちょっとした時間でも気軽にやり取りができる対面コミュニケーションを完全に代替するまでには至っていない。対面コミュニケーションの方が些細な/重要な情報を伝えやすい、信頼関係を築くための多くの情報を伝えられることから、依然として職場では価値が高いものとみなされているということだろう(注5・6)。

こうした状況で、近郊都市への移住ではない地方分散への活路をどのように見出していけば良いのだろうか。

5.地方分散の行方

現在、テレワークを実施する企業では、テレワークと出勤を併用するハイブリットな働き方が主流である。「テレワークの普及は、地方分散の鍵となるか」(2021年7月)で述べたように、企業にはフルタイムのテレワークが可能な就労環境の整備を進め、移住や多拠点で就業できる選択肢を取りやすくする視点が必要であろう。加えて、対面コミュニケーションでしか必要/重要な情報が得られない、信頼関係を構築できない、というようなコミュニケーションのあり方の見直しも必要かもしれない。

移住を受け入れる自治体は、Withコロナの生活者の暮らしを豊かなものにする社会福祉サービス、生活者を惹きつける起爆剤となるような施策等を充実させ、「職住の場所」としての魅力を発信する必要があるだろう。

また、私たちが知っておいた方が良いこととして、地方で起業や就業する際の金銭的支援、教育費の補助など国や自治体には様々な制度があるということだ。国が行う主な支援制度には、「移住支援金」と「起業支援金」がある。移住支援金は、東京23区に在住または通勤する人が、東京圏外へ移住して起業や就業等を行う場合に、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する制度である。この制度を活用すれば、現在の企業に所属したまま移住することが可能になる。いくつかの条件を満たす必要はあるが、支援金額は最大で100万円(単身者は最大60万円)である。また、各都道府県の自治体においても独自の支援制度があり、例えば移住先の家賃補助、結婚や子育て支援、住宅建築費補助、移住体験の宿泊費支援といったものがある。このように様々な支援策が用意されてはいるが、残念ながらあまり認知はされていないというのが現状であろう。

新型コロナウイルス感染拡大を機に、地方分散が進むと期待された。しかし、この期間、多くの人びとに地方移住のモチベーションは生じなかった。オフィスワーク回帰の傾向と共にその関心がさらに低下するか、あるいは、ゆるやかにでも地方への移住の流れが生まれるかは、日本における働き方や働く場の捉え方をどのように変容させていくかにかかっていると思われる。


【注釈】

1)都道府県や市区町村などの境を越えて住所を移した人数を調べる統計。2001年(平成13年)からは総務省が毎月月末に前月分を公表しているほか、毎年1月末~2月初めに前年の人口移動の全体像を公表している。

2)公益財団法人日本生産性本部 https://www.jpc-net.jp/

3)日本生産性本部では、中堅・大企業のテレワーク実施率の低下が大きく、全体のテレワーク実施率低下に寄与したと分析している。

4)当研究所が実施した調査結果においても、テレワークの活用者が減少し、出社勤務が増加しているという同様の傾向を示している(「テレワークは定着するか~テレワークをして浮き彫りになった出社勤務の価値とは?~(第4回新型コロナ生活調査)」2021年10月)。

5)当然のことながら、テレワークに適さない(感染拡大期に必要に迫られて行っていた)職種もあるだろう。

6)企業側のオフィスの遊休化を防ぎたいという意向が、オフィスワーク回帰を促している可能性も考えられる。

【参考文献】

稲垣 円

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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