テレワークの普及は、地方分散の鍵となるか

稲垣 円

目次

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛要請などをきっかけに、テレワークやリモートワークをはじめとした柔軟で新しい働き方が一気に広がった。こうした動きを「地方分散に追い風」として、政府は東京一極集中の是正に向けて、東京に本社を置く企業などへの地方でのオフィス開設、それに伴い従業員の地方移住を促したり、休暇先で仕事するワーケーションを推進する動きを見せている。では、都市圏に住む人々は感染拡大以降、実際にどのような動きをしていたのだろうか。本稿では、当研究所が実施した「第11回ライフデザインに関する調査」(注1)の結果および省庁が公表するデータを元に考察する。

1.暮らしは見直したいが、今すぐ引っ越ししたいわけではない

まず、感染拡大を経て居住地での暮らしやすさの見直し、および現在居住する地域以外の地域への引っ越し(移住)に対する意識(実態と今後の意向)についてみていく。図表1は、「自分の住む地域の暮らしやすさ」について、①実態「改めて考えるようになった」(「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」の合計)、②今後の意向「暮らしやすさについて見直すこと」について(「行いたい」「どちらかといえば行いたい」の合計)の結果である。感染拡大を機に、居住地での暮らしやすさについて考えた人(実態)の割合は約4割、今後見直したいと考える割合は、5割を越え、女性では意向が実態を約20ポイント上回っている。年齢別では、男性は年代が上がるにつれ該当する割合が下がる傾向が見られ、他方女性は年代が上がるにつれ、割合が高くなる傾向が見られた(図表省略)。女性の方が、年を経る毎に暮らしをよりよくしたいという気持ちが高まるものと考えられる。

図表2は、現在の居住地ではなく「どこか別の地域へ引っ越し(移住)すること」について、①実態:「改めて考えるようになった」、②今後の意向:「行いたい」かをたずねた結果を示している。①実態について「あてはまる」と回答した人は約2割、②今後の意向も3割には届かない結果となった。性・年代別では、男女共に29歳以下の若い層で最も高い割合を示し、年代が上がるにつれ、低下する傾向が見られた(図表省略)。人々の意識の面では、感染拡大による暮らしの変化は「自分の住む地域の暮らしやすさについて改めて考えること」には一定の影響を与えたものの、「どこか別の地域へ引っ越し(移住)すること」について現時点では直ちに行動に移そうと考える人は多数派ではないことがわかる。

2.コロナ禍での人口流出の真意

では、感染拡大以降の人の移動は、実際のところどのようなものだったのだろうか。図表3は、総務省統計局による「住民基本台帳人口移動報告」に基づいて、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の転入超過数(注2)の推移(2020年1月~2021年5月)を示したものである。東京都(黄色棒グラフ)は、2020年7月からマイナスに転じ(転出超過:東京を出た人の方が多い)、以降2021年2月まで8か月間続いていることがわかる。一方で、東京圏(赤線グラフ)をみると、2020年7月、8月は転出超過で、東京圏を出た人の方が多いが、9月、10月は転入超過となり、その後11月12月は転出超過、2021年1月には再び転入超過となり、以降転入超過が続いている。他方、東京圏に含まれている、神奈川県、埼玉県、千葉県の動向を見ていくと、2020年1月~11月までは3県ともに転入超過が続き、2020年12月~2021年2月は千葉県が転出超過したものの、神奈川県、埼玉県は引き続き転入超過だったことがわかる。

以上から推測できることは、コロナ禍において東京都からの転出は増えていたが、その行き先は、近隣県である神奈川県、埼玉県、千葉県だったのではないかということである。つまり、移住といってもいわゆる「地方」へ向かうのではなく、東京都民は東京圏内にとどまっていた可能性がある。

3.名古屋圏、大阪圏では、人の流出が続く

では、東京圏以外ではどうだろうか。同じく住民基本台帳人口移動報告の中から、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)と大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)についてみていく(図表4)。大阪圏(赤折れ線)では、2020年2月から2021年2月まで転出超過が続いているが、東京圏と異なるのは、近隣県での転出超過が続いていること、そして大阪圏としても2020年5月~2020年2月まで転出超過が続き、新年度にかけて転入超過に転じたものの、5月から再び転出超過となり現在もその傾向にあることだ。そして名古屋圏では、感染拡大以前からの転出超過が、長期にわたり続いている。2つの都市圏では、転出超過傾向が続いているということがわかる。

4.引っ越し(移住)ポテンシャルが高いのは誰なのか

以上から、コロナ禍における人の移動は、今のところ限定的な範囲である可能性が示唆された。とはいえ、移住にはある程度時間がかかることでもあるので、意向が実行されていくかを検証する意味でも、潜在的な引っ越し(移住)ポテンシャルが高い層をみておくことは有益だろう。その一つとして期待されるのがテレワーカーである。 そこで、先に示した当研究所の調査結果から、テレワーク実施状況別(「在宅勤務」および「在宅勤務以外のテレワーク(シェアオフィス)」)に、別の地域への引っ越し(移住)に対する意識について分析した(図表5)。結果を見ると、テレワークを始めた時期と実施場所によって、意識の違いが鮮明に表れた。

感染拡大以前からテレワークを実施している人は、感染拡大後に実施した人よりも、「どこか別の地域へ引っ越し(移住)することを考える」ことに前向きである。中でも、在宅勤務以外でテレワーク(シェアオフィスなど)をしている人の半数以上が、前向きな意向を示していた(実態:54.2%、今後の意向:56.6%)。感染拡大後からテレワークを始めた人は、感染拡大以前から実施していた人ほどではないが、在宅勤務をしていた人の29.3%、在宅勤務以外でテレワークしていた人の36.5%において、引っ越し(移住)への前向きな意向を示した。この結果は「まだ実施していないが将来的に行いたいと思う」人の回答と類似していた。以上から、テレワークをしている人の中でも、感染拡大以前からテレワークを実践しており、かつ在宅勤務以外で行っていた人こそが、引っ越し(移住)ポテンシャルが高い属性の可能性がある。

5.都市から地方への移住も大事だが・・・・

政府が掲げる「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」(注3)において、「地方創生の3つの視点」を重点に据え、地方への人の流れの創出、人材支援の充実を目指した取り組みが進められている。「地方創生テレワーク交付金」なども用意され、地方自治体のサテライトオフィスの整備等を支援する動きもみられる。今後は、サテライトオフィスの整備と併せて、テレワークを推進する都市部の企業と連携して、安定的に働くことができる拠点と暮らしのサービスを提供し、人材の行き来を促すように地方自治体と企業とが協力関係を築いていくケースは増えていくだろう。規模は大きくないが、企業によっては「地域活性化起業人」(注4)といった制度を使いながら、専門性のある人材を地方自治体へ派遣し、移住、人材育成、地域おこしを実現するような選択肢もある。

これらの取り組みを進めるにあたっては、対象となり得る属性を見極めながら進めていくことが重要になる。先の分析結果からテレワーク経験者、特に感染拡大以前から実践していた層の引っ越し(移住)へのポテンシャルの高さが示された。中でも、在宅勤務以外の場所でテレワークを行う人については、その可能性がより高い。こうした層について考えられることは、場所に縛られずに柔軟な働き方に抵抗がない人材であり、テレワークのメリットをうまく活用しながら働いていることが考えられる。他方で、別の見方をすると、この属性は会社でも自宅でもない場で仕事をすることに対する不便さ、不満を感じているのかもしれない。思い切って移住して、設備の整った環境で腰を据えて働くことを思い描いているということも考えられる。この層が何を期待しているのか、さらなる分析は必要だろう。

感染拡大後にテレワークを開始した人については、感染拡大という混乱の最中に自身が希望するか否かに関わらず「テレワークに対応せざるを得ない」状況で始めたケースも存在する。環境整備や自身の働き方に対する意識が整理できないままテレワークをした結果、「やはり会社で仕事をする方がはかどる」とメリットを十分に感じることが出来なかった人もいるのではないか。しかし、今後ニューノーマルを前提とした働き方が整備されてテレワークが定着していくならば、混乱の最中で始めた層もやがては、メリットを理解した経験者となり、引っ越し(移住)へのポジティブな見方をする人がさらに増える可能性もある。ただし、テレワークと定期的な通勤の両方が求められる職場だと、テレワークの経験が増えたとしても、結局のところ、居住地の制約がなくなることはないだろう。地方分散を促進するためには、フルタイムのテレワークが可能な就労環境の整備を進め、移住の選択肢を取りやすくする視点が不可欠だ。

加えて、雇用の課題もある。コロナ禍で、失業したり収入が減ったりしたことによって、家賃の安い他地域へと引っ越しした人もいるだろう。今後もしばらくは厳しい雇用状況が続けば、就職を控えた学生が大学卒業後も地方にとどまるケースが増える可能性もある。例えば、こうした若い人材を、地方でも都市部でも就業可能なテレワーカー人材として育成していくこと、都市部から地方へ職員を移動させるだけでなく、地方の人材を場所に縛られない柔軟な働き方ができる「テレワーカー」として育成していくことも、将来的な地方分散を促進する一手になるのではないだろうか。

【注釈】
1)2021 年 1 月 29 日~2 月 3 日に実施した「第 11 回 ライフデザインに関する調査」(全国の 18 ~79 歳の男女 19,668 名が回答。うち本稿では 18~69 歳 17,599 名のデータを使用)の方法 および結果の概要は、以下のニュースリリースに掲載。
「コロナ禍を経た、暮らしに対する意識の変化~暮らしは見直したいが、今すぐどこかに引っ越し(移住)したいわけではない~」
2)他都道府県からの転入者数及び他都道府県への転出者数の差分。マイナスは、転入より転出が多いことを示す。
3)「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」によれば、地方創生の3つの視点として、ヒューマン(地方へのひとの流れの創出、人材支援)、デジタル(地方創生に資するDXの推進)、グリーン(地方が牽引する脱炭素社会の実現)が掲げられており、都市部に立地する企業などに勤めたまま地方に移住して地方で仕事をする「地方創生テレワーク」(転職なき移住)の推進が目指されている。
4)6か月以上3年以内の期間、継続して派遣元企業から受入自治体に派遣され、 地方圏へのひとの流れを創出することを目指し、地域独自の魅力や価値の向上、地域経済の活性化、 安心・安全につながる業務に従事する制度。2020年度までは「地域おこし企業人」として推進された制度。

【参考文献】
・ 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」2020年1月~2021年5月発表分
・ 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府地方創生推進事務局「まち・ひと・しごと創生基本方針2021について」2021年6月
・ 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府地方創生推進事務局「地方創生テレワーク交付金について」2021年1月15日

なお、当研究所のホームページには、新型コロナウイルス感染拡大が生活に及ぼした影響に関するレポート・ニュースリリースの一覧ページ「新型コロナ(生活)」がある。

稲垣 円

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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