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仮想空間「メタバース」の衝撃

~あなたが知らない3つの「超越世界」~

柏村 祐

目次

1.メタバースを成長戦略としている韓国

最近「メタバース」という言葉を聞く機会が多くなっている。

「メタバース」とは、meta(超越した)とuniverse(世界)を組み合わせた造語であり、インターネット上に創られた仮想空間を意味する。筆者は、以前執筆したレポートで、多くの企業が「メタバース」を新たな収益を獲得する機会と捉えていることを紹介した。また、昨今では企業のみならず、「メタバース」を成長戦略として取り上げる国も出てきている。

「メタバース」を成長戦略の1つとして掲げている国として、韓国が挙げられる。韓国政府は、2022年1月20日の非常経済中央対策本部会議において、「メタバース」がもたらす経済・社会変化がどのように韓国経済の新たな活力につながるのか、また望ましいメタバース社会を実現するために必要なことは何かという論点をとりまとめた「メタバース新産業先導戦略報告書」を発表している(注1)。その報告書において韓国政府は、「デジタル新大陸、メタバースに躍進する大韓民国」をビジョンとして掲げており、2026年までにグローバルメタバース市場のシェア5位、メタバース専門家4万人の養成、専門企業220社育成、実践事例50件の発掘を目指している(図表1)。韓国政府が「メタバース」を成長戦略の1つとして掲げていることには、民間企業がこの分野に挑戦し、世界的な企業と競争できるよう支援するという狙いがある。そのために「メタバース」専門の開発者、メタバーススタートアップを支援する政策の拡充を表明している(注2)。

本稿では、韓国において成長戦略となった「メタバース」の事例を解説する。

図表 1 韓国がめざすメタバースの目標
図表 1 韓国がめざすメタバースの目標

2.韓国政府によるメタバースの分類

韓国政府が発表した「メタバース新産業先導戦略報告書」によれば、「メタバース」の概念は、「仮想と現実が融合した空間であり、人、物が相互作用することにより、経済・社会・文化的価値を創出する世界」とされる(注3)。また同報告書において、現時点で世界に存在する「メタバース」は、その活用目的に応じて「社会関係形成メタバース」、「デジタル資産取引メタバース」、「リモート協業支援メタバース」に分類されている。

1つ目の「社会関係形成メタバース」は、遊び、集会などを通じて余暇活動及び社会関係形成を行うこと目的としている。ある「社会関係形成メタバース」は、180か国で1日あたり4,300万人を超えるアクティブユーザーを有しており、メタバースの代名詞と言われている(注4)。そのメタバースは、それ自体を1つの社会と認識できるような工夫がなされており、その機能として「アイデンティティ」「友達」「没入感」「簡単な体験切り替え」「多様性」「すべての場所」「経済」「市民性」の8つを重視している(図表2)。

図表 2 ROBOLOX における 8 つの機能と内容
図表 2 ROBOLOX における 8 つの機能と内容

2つ目に分類される「デジタル資産取引メタバース」は、仮想空間や仮想不動産、仮想商品などを取引することを目的としており、暗号資産を発行する事業体が運営しているケースが多い。筆者は実際「デジタル資産取引メタバース」を体験してみたが、アバターを通じて、仮想ショッピングモール内でのショッピングなどの空間体験をしたり、コミュニティを生成する機能が備わっている。また、「メタバース仮想通貨」をメタバース内での通貨として取引することができる。取引可能な空間、不動産、商品にはNFTと言われる仕組みが使われる。NFTは、Non-Fungible Tokenの略称であり、対象となるデータがこの世に1つしか存在しないことを証明する「本物のしるし」を意味する(注5)。

3つ目に分類される「リモート協業支援メタバース」は、オンライン会議ツールをさらに進化させ、リアルオフィスのように従業員との距離を感じることができる場、と言えばわかりやすいだろう。この「リモート協業支援メタバース」では、リアルな従業員と遠隔からホログラムで参加する従業員が3D空間を共有し、人との距離を感じながら会話をしたり、ホログラム化された資料や製品を共有することが可能となっている。IT企業が展開している事例が多くみられ、そこでは、ホログラム技術を使うことにより、立体的に人物、オフィスの椅子、机、資料などを感じることが出来るため、リアルなオフィスと同様の雰囲気を創り出すことができる(注6)。

以上のように、韓国政府の「メタバース新産業先導戦略報告書」は「メタバース」を「社会関係形成メタバース」、「デジタル資産取引メタバース」、「リモート協業支援メタバース」の3つに大別しており、世界に展開されるメタバースの世界を的確に表している(図表3)。それぞれの分野において多種多様なメタバースが世界に存在しているが、今後、それぞれ独自に魅力を高めながら、相互に良い点を融合し、進化、淘汰を繰り返していくのではないか。

図表 3 メタバースの 3 類型
図表 3 メタバースの 3 類型

3.我が国もメタバースを新たな成長エンジンに

経済、社会、文化などあらゆる分野においてデジタル化の流れが加速している。その中で「メタバース」は、時間や空間の制約を超えた「超越世界」を形成しているといえる。今後、現実の世界で行われている多様な経済、社会、文化活動に関連する新たなサービスが、その「超越世界」で創造されることになろう。特に、Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれの世代)やα世代(Z世代に続く2011年以降生まれの世代)といったデジタルネイティブ世代が社会の中心になるにつれ、「メタバース」は現実社会にうまく取り入れられていくだろう。

筆者は、「メタバース」が新しい社会、文化、経済活動の成長を促す「物理空間を超えて活動できる場」になると考える。すでにGAFAを中心とした企業群が情報通信技術の主戦場として「メタバース」に狙いを定め、大規模な予算を投資し、この分野における覇権争いを始めている。

現在、日本でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「デジタル化」を推進するという掛け声が多く聞かれるが、戦略の1つとして「メタバース」を成長エンジンに位置づけることも検討に値するだろう。そして、メタバースで利用される暗号資産やNFTに関連する法整備、メタバース開発人材の育成、メタバーススタートアップへの支援など幅広い領域における政策展開が期待されるところである。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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