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仮想通貨「草コイン」の衝撃

~「花」のビットコインと、あなたの知らない脇役「草」コインの話~

柏村 祐

目次

1. 様々な目的をもって創られる仮想通貨

暗号資産には様々な用途がある。

筆者は以前のレポートで、ステーブルコイン、取引所仮想通貨、ミーム仮想通貨についてそれぞれ解説している。ステーブルコインは、法定通貨との交換比率を固定したり供給量を調整することによって、法定通貨を代替する機能をもつ暗号資産である(注1)。また、取引所仮想通貨は、特定の暗号資産取引所を利用する顧客に取引所自らが発行した暗号資産であり、取引所内限定で利用することで特典が得られる(注2)。ミーム仮想通貨は、暗号資産ウォレット間で価値の移転を可能とする機能を備えるが、ビットコインやイーサリアムといった伝統的な暗号通貨の特徴である中央で管理する組織や企業をもたない(注3)(図表1)。

このように様々な暗号資産の開発が進む中、本稿では、今後、ビットコインやイーサリアムのように価値保存の機能の活用が進む可能性がある点で注目を集めている仮想通貨「草コイン」について解説する。

図表 1 機能からみた暗号資産の分類
図表 1 機能からみた暗号資産の分類

2. 草コインの登場

ビットコインやイーサリアムを「花」とするならば、「草コイン」は「花」のそばにいる脇役の「草」のような仮想通貨である。「草コイン」とは、市場規模が小さく投機性が高い仮想通貨の通称である。送金スピードが早く送金手数料が無料、匿名性も確保されるなど、ビットコインやイーサリアムには無い機能が備わっている。

「草コイン」は、取引する顧客数が少ないため、市場ではあまり目立たない存在である。時価総額ランキング上位には、ビットコイン、イーサリアム、リップルといった一般的に知られた仮想通貨が並ぶが、下位には草コインと呼ばれるマルチファームキャピタル、グランドエクスチェンジ、ピティーズなど馴染みのない仮想通貨が並んでいる。2021年12月下旬時点でのビットコインの時価総額が約100兆円、イーサリアムの時価総額が約50兆円である中で、マルチファームキャピタルの時価総額は約6万円、グランドエクスチェンジの時価総額は約112万円、ピティーズの時価総額は約353万円と圧倒的に規模が小さい(図表2)。

図表 2 時価総額下位ランキングワースト 5
図表 2 時価総額下位ランキングワースト 5

ではなぜ、「草コイン」は世間から注目を集めるのだろうか。注目を集める要因の1つとして「一時的な価格高騰」が挙げられる。

具体的に一時的な価格高騰を実現した「草コイン」の事例として、筆者自身が取引経験のあるビットゼニーとバージの値動きを確認してみよう。ビットゼニーは、2015年7月の登場当初の価格は約0.016円であったが、2017年12月に約46円となり、約2,800倍に急騰している。その後は価格を維持できず、チャート上急落していることがわかる(図表3)。

ビットゼニーは、手軽に誰もがマイニング(仮想通貨を採掘すること)できる暗号資産を目指して誕生している。ビットコインやイーサリアムといった有名な仮想通貨をマイニングするためには、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略)と呼ばれる専用機器を使わなければならないが、ビットゼニーは、普通のPCでも手軽にマイニングできる。実際、筆者は専用機器やアプリケーションがない普通のPCでビットゼニーのマイニングを試したところ、少額だが成功した。このように、ビットゼニーの発行事業体は、普段使いのPCでのマイニングにより誰でも手軽にビットゼニーを入手できる仕組みを活かし、飲食店での利用(支払い)やショッピングなどの日常生活への利用拡大を目指している。

図表 3 ビットゼニーのチャート
図表 3 ビットゼニーのチャート

もう1つの「草コイン」の事例であるバージについては、2014年10月の登場当初の価格は約0.0012円であったが、2017年12月に約29円となり、約24,000倍に急騰している(図表4)。バージをマイニングするには、ビットゼニーとは違いASICと呼ばれる専用機器を必要とする。バージの開発目的は、日常生活に取り入れることで、世界中の人々が取引を迅速に、効率的に、安全に行えることとされている。具体的には、バージを利用すると企業や個人は、VergePayウォレットを通じて5~10秒で安全かつ効率的に送金できる仕組みを導入している(注4)。また、飛行機や宿泊施設の予約が可能なTravala.comで利用できたり、暗号資産プラットホームであるMeconCashのM.Payを使用すると、韓国にある13,000台のATMを通じて韓国ウォンを即座に引き出すサービスを受けられるなど、活用が広がるような取り組みが進められている(注5)。

図表 4 バージのチャート
図表 4 バージのチャート

3. 「草コイン」の「一時的な価格高騰」はなぜ起こるのか

「草コイン」の価格高騰が起こる理由の1つとして、「草コイン」の特徴である流動性の低さ、市場規模が小さいことに狙いをつけた「投機筋」が、資金を流入させることが挙げられる。投機対象となる「草コイン」の価格が上昇し始めると、その「草コイン」はSNSやウェブ掲示板で注目を集める。そのことが、更なる投機性資金が流入することにつながり、一時的な価格高騰を引き起こしている。

このような「草コイン」の性質である「一時的な価格高騰」に魅せられる顧客もいる。ただ、「草コイン」の発行事業体の信用力や開発力は様々な状況であり、注意深く把握して対応する必要がある。黎明期である暗号資産市場においては、利用者目線で開発を継続し進化を続ける仮想通貨がある一方で、開発が継続できない場合や、そもそも開発が停止してしまう場合があることを認識すべきだ。そもそも仮想通貨の取引は他の金融商品と較べてリスクが高い取引と言われている。その仮想通貨の中でも「草コイン」は更にハイリスクハイリターンの対象となることを理解し、対応する必要があるだろう。

枯れる「草コイン」が多い中、ビットコインやイーサリアムのように「花を咲かせる」ためには、「商取引や日常生活における経済活動への活用を進めること」、「多くの暗号資産利用者に普及させること」が必要となる。そのためには発行事業体自らが利用者視点に立ち、「草コイン」をより良いものにするための信用力向上や開発力強化を図ることが求められるだろう。

草コイン」は、現時点では黎明期の暗号資産の世界に誕生した仮想通貨の一類型に過ぎない。今後、「草コイン」が「花」の仮想通貨になるためには、ビットコインやイーサリアムには存在していない「利用者から共感される独自の優位性」が必要になるのではないだろうか。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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