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台湾行政ポータルサイト「我的E政府」の衝撃

~国民目線を実現した最先端の行政サービスの仕組み~

柏村 祐

目次

1.台湾で進む行政サービスのデジタル化

台湾において行政サービスのデジタル化が進んでいる。

筆者は以前、台湾のデジタル化に関するレポートとして「マスクマップ」や「ジョイン」について解説している(注1)(注2)。「マスクマップ」は国民がマスクを公平に購入できる仕組みとして開発され、迅速に展開されたイノベーションの事例として世界に知られている。「ジョイン」は、国民が意見をホームページで発信し、その意見に対して5,000人以上の賛同が得られれば、行政が正式に回答しなければならないという、行政と国民が双方向にコミュニケーションできる仕組みを取り入れている。

このように台湾では国民目線のデジタルサービスが数多く展開されているが、今回は、国民が行政サービスを簡単に受けられる仕組みとして行政ポータルサイト「我的E政府」について解説する(図表1)。「我的E政府」とは日本語では「私の電子政府」を意味する。

図表
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2.「我的E政府」のサービス

台湾国民が行政サービスを受ける場合のポータルサイト「我的E政府」はどのようなサービスを展開しているのだろうか。2001年に構築された「我的E政府」は、政府のニュースの閲覧、行政サービスの申請書類のダウンロード、行政サービスの情報閲覧といった行政から国民への一方向の情報提供ポータルサイトであった。その後、IT技術の進歩と国民のデジタル能力の向上が進み、行政サービスの効率化と品質向上への期待が高まる中で、「ユーザー思考の欠如、ユーザーテストの不足」、「関連するサービスを見つけるために時間がかかりすぎる」、「サービス情報の読みにくさ」といった「我的E政府」の課題が認識されるようになった。そのため行政当局は、国民に対する要望調査を行い、同時にワークショップや使いやすさテストなどを実施した(注3)。

これらを通じて「我的E政府」は、2020年9月25日に改定版がリリースされている。改定版では、国民の要望を反映し、一人ひとりのライフステージに対応するオンラインサービスが約600提供されている。改定された「我的E政府」は公開から19日経過時の2020年10月13日までに閲覧数は延べ40万回を超え、閲覧者数は延べ19万人以上となっている。「我的E政府」は、国民の要望を満たすため、申請プロセスを標準化し、利用者が検索しやすい手順をフローチャートにより案内する。例えば、「労働保険による出産手当」を申請するケースでは、身分証明書や健康保険証、銀行口座番号を利用すれば、オンラインで迅速に申請が可能となった。従来の窓口に出向いて申込みをするプロセスと比較して3日から5日短縮されている(注4)。

実際に筆者は「我的E政府」のサービスを閲覧してみた。国民が分かりやすく行政サービスを利用できる仕組みの1つとして、「人生大事(生活上の出来事)」が挙げられる。「人生大事(生活上の出来事)」とは、人が生まれてから亡くなるまでのライフステージを「出生」「就學」「就業」「就養」「終老」に大分類し、更に各ライフステージでは自分自身の状況に応じた中分類が表示される。例えば、大分類「出生」メニューを選択すると中分類として「2歳未満の子供」、「2~5歳の子供」、「6~7歳の子供」のアイコンが表示される。これらの中分類から自分自身が知りたいアイコンを選択すると、更に関連する小分類のアイコンが表示される。仮に大分類で「出生」のアイコンを、中分類で「2歳未満の子供」(図表2赤枠)のアイコンを選択すると、小分類として「出生登録(生年月日から60日以内)」、「国民健康保険(生年月日から60日以内)」、「マタニティベネフィット」、「育児手当」、「予防医療」、「養子縁組、請求および後見人」の6種類のアイコンが表示される。国民は、この中から自分自身の知りたい内容を確認できる。小分類「マタニティベネフィット」(図表2青枠)を選択すれば、2歳未満の子供が受けられるマタニティベネフィットサービスとして出産補助金や出産給付金などの行政サービス内容が表示される。表示された行政サービスの中から自分に必要なオンラインサービスを通じて申請を行い、迅速に行政サービスを受けることができる(図表2黄枠)。「我的E政府」では、わかりやすいアイコンと写真を活用することにより、知りたいサービスに最短でたどり着くプロセスを実現しており、利用者目線の画面設計になっていると言える。

図表
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「人生大事(生活上の出来事)」におけるサービスメニューは、自分自身の状況に応じて必要なメニューが体系化されている。大分類は5種類、中分類は18種類、小分類は68種類から構成されており、自分に必要なメニューを選択していけば最適な情報に辿りつき、迅速にオンライン上で申請手続きが可能となる(図表3)。

図表
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3.人気のサービスとの連携

さらに「我的E政府」の主要なサービスの1つとして、「熱門服務(人気のサービス)」が挙げられる。「熱門服務(人気のサービス)」とは、国民の興味が高い人気サービスが表示される機能である。筆者は実際に「熱門服務(人気のサービス)」を閲覧してみた。「人気のサービス」の1つとして、国民が利用できるクーポン券のサービスが掲載されている。クーポン内容を見てみると「帶您看振興五倍券方案(5倍クーポンの活性化計画)」というものが確認できた。消費活性化策となるクーポン配布計画では、国民自身に受給資格があればスーパー、デパート、各種イベント、宿泊施設、オンラインショッピングなどで利用できる5,000元分のクーポンを受け取ることができる。クーポンの受領申請もオンラインで行うことができる。コロナウイルス感染拡大が継続する中、オンラインで完結する行政サービスは国民にとって利便性が高い。

人気サービスには、クーポンの他にも、コロナウイルスワクチン接種やコロナウイルス感染拡大に伴う経済補助といった国民の関心が高いサービスが掲載されている。ワクチン接種情報に関する「Covid-19公費疫苗預約平臺」や「健保快易通」と呼ばれるサービスを利用すれば、オンラインでワクチン接種予約が可能となっている。また同一ページにワクチン接種後の接種記録をスマートフォンに記録できる「疾管家」というアプリも提供され、コロナウイルスに関する情報が一元化される。

4.ポイントはサービスの一元化

従来は、必要な行政手続きについては、行政管轄機関が提供するウェブサイトを国民自らが閲覧、検索する必要があった。だが「我的E政府」では、ライフステージという切り口からの「人生大事(生活上の出来事)」と、国民の関心の高い行政サービスという切り口からの「熱門服務(人気のサービス)」というメニューに情報を集約している。「我的E政府」は、各行政管轄機関が提供するサービスを一元化することにより、国民が簡単に情報にたどり着き、行政サービスを即時に利用できるという利便性を備えている。

日本では2021年9月にデジタル庁が発足した。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、日本においても行政サービスの利便性向上が求められている。台湾で「我的E政府」が普及した要因は、国民の要望調査を行い、ワークショップや使いやすさテストを実施したうえで改定したからだと筆者は考える。日本の行政サービスの効率化を迅速かつ実効性のある形で実現するために、「我的E政府」の改定方法と仕組みを学びつつ、日本独自の「国民目線の行政サービス」を実現することが求められている。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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