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2021.07.29
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ユニバーサル社会への扉(7) :「新しい生活様式」における助け合いのかたち
~視覚障害者のコロナ禍による困りごとをもとに考える~
水野 映子
新型コロナウイルスの感染拡大による生活様式の変化は、障害のある人にさまざまな不便や困難をもたらした。今回は、視覚障害者の外出時の困りごと、および周囲の人々の助け合いに対する意識と行動に焦点を当てる(注1)。
1.視覚障害者の困りごとの一因はソーシャルディスタンスにあり
まず、盲導犬を使用している視覚障害者に対し、コロナ禍の中での外出時の困りごとを尋ねた結果をみると、回答割合が最も高かったのは「ソーシャルディスタンスがわかりづらい」(41%)であった(図表1)。その具体例として、自由回答では「スーパーのレジに並ぶのに距離感や進み具合がわからなくて困った」「病院の待合室でソファの間隔を空けるのが難しい」などがあげられている。また2位以下には、周囲からのサポートを得にくくなった(「周囲に手引きなどのサポートを頼みづらい」22%、「声かけや周囲のサポートが減った」18%)ことなどが、それぞれ2割前後で並んだ。
*1:上位5項目を掲載
資料:日本盲導犬協会「コロナ禍の盲導犬ユーザー『困りごと』聞き取り調査報告」2021年3月
(調査対象:同協会所属の盲導犬使用者230人、回答数:227人、調査期間:2021年1月~2月末、調査方法:職員による電話とメールを使っての聞き取り)
これらと同じような声は、盲導犬ユーザーに限らず、他の視覚障害者からも寄せられている。例えば、弱視の人の困りごとの事例としても、買い物をする際にレジの列での並び方がわかりにくいこと、消毒液や買い物カゴを見つけるのが難しいこと、トレーに置かれた釣り銭を取りづらい・取り忘れそうになることなどがあがった(図表2)。また、道路・鉄道での移動の際にも、他の人の立ち位置が把握しにくいことや、声かけの減少によって不便・不安が生じていることが示された(注2)。
人と人との間の距離、いわゆるソーシャルディスタンスを保つことが感染拡大防止のために必要とされた結果、視覚障害者が外出先のさまざまな場所で、他の人との距離の取り方に戸惑ったり、サポートを得づらくなったりしていることが、これらの資料からうかがえる。
<店の入り口>
・店舗の入り口等に置いてある消毒ボトルは、お店によって置く位置が異なるので分かりづらい。
また、そのボトルが手で押すタイプか、足で踏むタイプかが分かりづらい。
・スーパーのカゴの置き場所が突然別の場所になってしまい、探すのに苦労した。
<レジの待機列>
・会計等で並ぶ時、前の人との距離が分かりにくい。
・レジの待機列が分からなくなり、割り込んでしまうことがある。
・お客さんが並んでいる待機列が分かりづらいので、その列に衝突してしまったことがある。
<会計>
・今まではお釣りの渡し方は手渡しだったが、トレーで渡す方法になったことで、お釣りを取るのが大変になった。また、トレーにお釣りの取り残しがないか不安になることもある。
・お釣りをトレーで渡されることが増え、何度か取り忘れそうになった。
●移動(道路・鉄道)での困りごと
・ここ最近、交差点では、青信号に変わるのを待っている人が散らばって立っているため、その付近で待機している人がどこで立っているかが分かりにくくなった。駅前の大きな交差点等では、その人達に衝突しそうになったこともあり、今まで慣れていた場所でも、ゆっくりと慎重に歩くことが必要になってしまった。
・今までは、一般の方の声かけを頼りにすることで、一人でも外出できていたが、ソーシャルディスタンスが叫ばれるようになってから、声をかけてくれることが非常に少なくなり、生活しづらくなってしまった。
・鉄道駅での駅員や利用者からの「声かけ」「見守り」が減り、鉄道駅での移動が以前より不安になっています。
資料:日本視覚障害者団体連合 弱視問題対策部会「弱視者の困り事 資料集 第3号<追加版>」2020年11月(同部会の委員から寄せられた意見等を整理したもの)より抜粋
2.感染拡大がもたらした、サポートへのためらい
では、一般の人々は、外出先で誰かをサポートすることに関してどう感じ、どう行動しているのだろうか。
2021年初めに当研究所が実施した調査において、新型コロナウイルスの感染拡大後に「外出先で困っている様子の見知らぬ人に手を貸しにくくなった」という項目にあてはまると答えた人は、43.2%にのぼった(図表3)。人と接することによって感染を広げる不安などから、見知らぬ人に手を貸すことへの抵抗を感じるようになったと考えられる。
また、およそ3人に1人(33.8%)は、外出先で実際に「見知らぬ人に手を貸すこと」が感染拡大後に減ったと答えた(図表4)。特に、前述の「外出先で困っている様子の見知らぬ人に手を貸しにくくなった」という項目にあてはまると答えた人では、あてはまらないと答えた人に比べて手を貸すことが減った割合が高く、約半数(50.3%)を占めた。見知らぬ人に手を貸しにくいと感じるようになったことが、実際に手を貸すことが減った一因といえる。
*2:図表3の項目に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と答えた人を『あてはまる』、「あてはまらない」「どちらかといえばあてはまらない」と答えた人を『あてはまらない』とした。
資料:図表3と同じ
3.まずは声かけで心の距離を縮める
新型コロナウイルスの感染拡大が終息しない限り、視覚障害者を含む多くの人が「新しい生活様式」の下で不便や困難を強いられる状況も続く。また、いずれ終息に向かう過程でも、生活様式がさらに変わり、新たな不便や困難が生じる恐れもある。
ソーシャルディスタンスの必要性が叫ばれる中で、見知らぬ人に手を貸すのは勇気が要るかもしれないが、困っている様子の人を見かけたら、まずは声をかけることから始めてはどうだろうか。例えば、前出の日本盲導犬協会は「『あと2歩進んでください』などのちょっとした声かけや、消毒液の場所を教えるなどの周囲の皆さんのサポートがあれば、視覚障害の方の不安を軽減できるはず」と、そのホームページ(注3)で述べている。このように、レジの列の並び位置や並び方、消毒液・買い物カゴや商品の置き場所、釣り銭の取り忘れなどを周りの人が伝えれば、視覚障害者の困りごとを減らせる可能性はある。同様に、視覚障害者以外に対しても一声かけることで、その不便さや不安が和らぐこともあるだろう。
感染拡大防止には気をつけながらも、困ったときには互いに声をかけ合ったり手を貸し合ったりすることで、心の距離は遠ざけないようにしたいものである。
【注釈】
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新型コロナウイルス感染拡大前の助け合いに関する状況や意識については以下のレポート①②、感染拡大後の障害のある人々などのコミュニケーションの問題に関しては③④で述べている(いずれも著者は水野映子、掲載先は当研究所ホームページ)。
①「逆カルチャーショックから考える『助け合い』のかたち」2020年2月
②「日本人の『助け合い』のかたちを再考する」2020年3月
③「誰もがコミュニケーションしやすいウィズ/アフターコロナに ~『新しい生活様式』での対面コミュニケーションの問題と工夫~」2021年1月
④「(続)誰もがコミュニケーションしやすいウィズ/アフターコロナに ~『顔の見えない』オンラインでの対応~」2021年2月
なお、当研究所ホームページには、新型コロナウイルス感染拡大が生活に及ぼした影響に関するレポート・ニュースリリースの一覧ページ「新型コロナ(生活)」がある。 -
図表1・2で紹介した資料以外には、例えば以下の資料にも、視覚障害者を含む障害者等の困りごとに関する調査結果が掲載されている。
交通エコロジーモビリティ財団「生活や活動についての新型コロナウィルス感染症による影響についてインタビュー調査結果概要」2020年12月 -
日本盲導犬協会 ホームページ「コロナ禍の盲導犬ユーザー『困りごと』聞き取り調査報告を公開」2021年3月20日
【その他の関連レポート】
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水野映子「ソーシャルディスタンスは心の距離も広げたのか ~コロナ禍でより助け合わなくなった日本人~」2021年11月
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水野映子「駅ホームからの転落事故を防ぐために ~視覚障害者にとっての「欄干のない橋」は今~」2022年9月
水野 映子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。