ユニバーサル社会への扉(4):(続)誰もがコミュニケーションしやすいウィズ/アフターコロナに

~「顔の見えない」オンラインでの対応~

水野 映子

目次

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、オンラインでの仕事の会議や私的な会合、講演・講義などが急増した。前回のレポート(*1)では、「新しい生活様式」の下での対面コミュニケーションについて述べたが、今回はオンラインのコミュニケーションにおける問題とその対応策に焦点を当てる。

「顔の見えない」会合の台頭

まずは現状をみる。オンラインのコミュニケーションには、従来の電話のような一対一での会話もあれば、複数人のグループでの会議や会合もある。図表1に示す当研究所の調査では、半数近く(47.8%)の人が「自分を含めて3人以上の人と話すこと」があると答えた。

相手がひとりでも複数人でも、ビデオ通話の機能を使えば互いの顔を見ながら話せるが、その機能がない場合や、機能はあっても通信容量やプライバシーなどの観点から映像を出さない・出せない場合もある。この調査で「会話の相手や会合などの参加者」「自分」が「顔の映像を出さずに話すこと」があると答えた人は、いずれも4割強(40.9%、40.6%)だった。

また、映像を出していても、通信の不具合によって映らなくなるという問題も起こる。「映像が途切れたり、見えにくくなったりすること」があると答えた人は、4割を超えた(43.3%)。従来の対面の会合とは違い、オンラインではいわば「顔の見えない」会合が、かなりおこなわれているといえる。

次に、コミュニケーション上の問題をみると、「話すタイミングが難しい/会話の相手や会合などの参加者の反応がわかりにくいと感じること」がある人は、それぞれ半数前後(52.0%、47.5%)にのぼった。また、37.9%の人は「誰が話しているのか、声で判断しにくいと感じること」があると答えている。

先に述べたように、オンラインの会合では、相手の顔を見て話せるとは限らない。たとえ顔が見えても、画面上では表情やうなずきなどを把握しづらい。特に参加者が多いと、一画面で全員の顔を見渡すのは難しい。そうしたことが「反応がわかりにくい」一因になり、さらには「話すタイミングが難しい」ために複数の人が同時に話し出すと、「誰が話しているのか、声で判断しにくい」という問題が生じやすくなると考えられる。

図表1 オンラインでのコミュニケーションの現状・問題点・対応
注1:回答者は、家族・友人・知人との会話や仕事・地域・学校関係などの打ち合わせ、習い事・セミナー・講演・講義への参加などをおこなう際に、パソコン・タブレット・スマートフォンの音声・ビデオ通話やオンライン会議の機能を使うと答えた人1,484名(全回答者は全国20~69歳の男女3,000名)。

注2:調査方法や調査結果の詳細は、以下のニュースリリースに掲載。
第一生命経済研究所「第3回 新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査(コミュニケーション編) ~“新しい生活様式”が生んだ、新しいコミュニケーションの問題~」

視覚に障害のある人の問題との類似点

前述の「顔の見えない」コミュニケーションの問題は、一般には、オンラインの会合が急速に普及した昨今の比較的新しい問題にみえる。だが、目の見えない人・見えにくい人、いわゆる視覚障害者が、対面のコミュニケーションで以前から感じてきた問題と似ている面もある。

例えば、視覚障害者にとって、会話の相手の表情を把握することや、アイコンタクトを取ることは難しい(あるいは、できない)。大勢の人が同時に話すと、誰が話しているのか判断できないこともある。視覚的な画像や映像は、言葉での説明がないと理解できない。それらの不便さについて、まずは思いをめぐらせてほしい。

しかしここで強調したいのは、不便さだけでなくその解消方法もあるということだ。例えば、視覚障害者が参加する会合では、「発言するときは、自分の名前を言う」、図表には「言葉による説明を加える」ことなどが配慮すべき事項とされている(*2)。これらに加えて、筆者がこれまでに視覚などに障害のある人とともに参加した会合では、ひとりずつ発言するなどのルールも適用されていた。また聞き手の中には、黙ってうなずくだけでなく、「なるほど」「そうですね」などの言葉を発している人もいた。

そのような工夫や配慮は、視覚障害者を交えた対面での会話や会合ではもちろん必要だが、障害の有無にかかわらずオンラインの会合で映像を見られない、または出せない参加者がいる際にも応用できる。例としては、音声を出せる場合には声で反応を示す、発言時には名乗る、画面に映っている内容を言葉でも説明する、などがあげられる。

前回のこのレポートでは、マスク着用などにより声が聞こえにくい問題に対しては、聴覚障害者などの間でおこなわれてきたコミュニケーションの工夫が参考になることを示した。一方、今回取り上げているオンラインでのコミュニケーションの問題に対しては、視覚障害者との従来のコミュニケーションの工夫が参考になるといえる(*3)。

オンラインでの気づきと工夫をオフラインにも

一般生活者を対象にした前掲の調査(図表1)では、オンラインで「相手の話に対して、あいづちなどの音声で積極的に反応を示すこと」や「話し始める時に自分の名前を名乗ること」があると答えた割合は、それぞれ41.0%、36.9%であった。これらを含め、前述のような工夫や配慮を、より多くの人がおこなうようになれば、顔などの映像を見られないことによるコミュニケーションの問題は減るだろう。

また、オンラインでの会話や会合をきっかけに、「顔の見えない」コミュニケーションの不便さを皆が意識し、意思や情報を音声でうまく伝える方法を身につければ、オフライン、すなわち対面で視覚障害者などと話す際にも、臨機応変に対応できるようになるのではないか。オンラインのコミュニケーションで得た気づきと工夫が、オフラインでも生かされることが望まれる。

「ウィズコロナ」の今はまだ、人と接する機会が制限されているが、いずれ感染が終息して再び自由に人に会える時が来る。「アフターコロナ」に向けて、誰もがコミュニケーションしやすく、誰もが暮らしやすい社会=ユニバーサル社会を皆で作っていきたい。

【注釈】

*1 水野映子 「誰もがコミュニケーションしやすいウィズ/アフターコロナに -『新しい生活様式』での対面コミュニケーションの問題と工夫-」2021年1月

*2 日本産業規格JIS S 0042「高齢者・障害者配慮設計指針-アクセシブルミーティング」では、高齢者や障害者が参加する会議をおこなう場合の配慮事項が、障害特性別に規定されている。本稿であげた配慮事項は、このJISの「会議中における情報保障、議事進行及び決議事項に関する配慮する要素」の「2.発言するときには、各障害特性に応じて配慮を行う」の一部である。

*3 今回は、オンラインで映像が見えない場合の対応に焦点を当てたが、聴覚の障害や通信環境の不備などにより音声が聞こえにくい・聞こえない場合の対応についても、聴覚障害者とのコミュニケーションでの従来の工夫・配慮(例えばジェスチャーや文字を併用するなど)は参考になる。また、本稿であげた「発言するときは、自分の名前を言う」などは、聴覚障害者が参加する会議でも配慮すべき事項とされており(*2参照)、オンラインの会合でも必要と考えられる。
なお、「コロナ禍でのオンラインコミュニケーションにおける聴覚障害者の課題・困難に関するアンケート」を実施した一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、「誰も取り残さないオンライン会議 5つの新しい習慣」として「手を挙げる」「名前を言う」「ひとりずつ」「反応を示す」「笑顔で!」をあげている。

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。