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2021.11.10
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ユニバーサル社会への扉(10):ソーシャルディスタンスは心の距離も広げたのか
~コロナ禍でより助け合わなくなった日本人~
水野 映子
1. 感染拡大下で人助けしなくなったのは日本だけ?
世界各国の人を対象に、人助けの実施状況などについて毎年尋ねている調査がある。昨年の拙稿では、「過去1か月間に助けを必要としている見知らぬ人を助けた」と答えた人の割合の10年間(2009~2018年)の平均が、日本では24%で世界最下位だった、というデータを紹介し、その理由などについて論じた(注1)。
その後、2020年に実施されたこの調査の結果が公表された。新型コロナウイルスの感染が世界的に広がった年の調査である。それによると、前述の質問に対して、見知らぬ人を助けたと答えた人の割合の全世界の平均は55%であり、2009年の調査実施以来、過去最高となった(図表1-①)。調査を実施した団体は、その理由を「パンデミックの間、世界中のコミュニティが一丸となって相互支援をおこなったため」としている(注2)。
一方、2020年の日本におけるこの割合は12%であり、またしても世界最下位(114位)であった(図表1-②)。順位が1つ上(113位)のベルギーの25%とは13ポイントもの差があり、以前の日本の数値(前述)と比べてもかなり低い。日本において、見知らぬ人を助ける人はもともと少なかったが、新型コロナウイルスの感染拡大下では全世界平均の傾向とは逆にさらに減ったといえる。
2. 相手が嫌がることへの懸念が手を貸しにくい一因に
一方、当研究所が今年(2021年)の初めに実施した調査においても、助け合いに関するいくつかの質問を設けた。その中で、「外出先で見知らぬ人に手を貸すこと」が新型コロナウイルスの感染拡大後に減ったと答えた人は33.8%いたが、増えたと答えた人はわずか3.9%であった(注3)。日本では見知らぬ人を手助けした人が感染拡大前より減った、という前述の結果と同じ傾向が、この結果にも示されている。
また感染拡大後、外出先で困っている様子の見知らぬ人に「手を貸しにくくなった」という項目に対しては、この調査の時点では43.2%があてはまると答えた。手を貸すことが減った背景には、単に外出機会や人に会う機会が減ったことだけでなく、感染リスクへの不安などから手を貸しにくくなったという意識もあることがうかがえた。そこで、今年9月に当研究所が新たに実施した調査においては、「手を貸しにくくなった」という質問を再度設けるとともに、手を貸す際の感染リスクに関する意識も尋ねた。
その結果、外出先で困っている様子の見知らぬ人に「手を貸しにくくなった」という項目にあてはまる(「あてはまる」+「どちらかといえばあてはまる」)と答えた人の割合は、9月の調査では59.4%となり(図表2)、前述の年初の調査結果(43.2%)を大きく上回った。長引くコロナ禍の中で、手を貸しにくい気持ちがより増したことがわかる。
また、「自分が感染するリスクがあるので、手を貸すことに抵抗を感じるようになった」という項目には、62.6%があてはまると答えた。自分の感染リスクへの不安から手を貸しにくくなった人が、かなりいるようだ。
それ以上に多かったのは、手を貸す相手の感染リスクに関する項目、すなわち「手を貸すと、相手が感染リスクを感じて嫌がるかもしれないと思うようになった」という項目にあてはまると答えた人(67.1%)である。そもそも日本人は感染拡大前から、助けを必要としていそうな人や電車の座席を譲ったほうがよさそうな人などがいても、断られたり嫌がられたりすることを恐れて、なかなか行動に出られない傾向があるとされていた。今回のこの結果においても、手を貸す相手が嫌がるかもしれないと懸念する、ある種の“日本人らしさ”が感じられる。
さらに分析すると、「自分が感染するリスクがあるので、手を貸すことに抵抗を感じるようになった」「手を貸すと、相手が感染リスクを感じて嫌がるかもしれないと思うようになった」にそれぞれにあてはまると答えた人では、「手を貸しにくくなった」にあてはまると答えた割合が8割を超えた(図表3)。自分に感染リスクがある、あるいは相手が感染リスクを感じるかもしれない、と思うようになったことが、新型コロナウイルス感染拡大後に人助けをしにくくなった要因であることが裏付けられたといえる。
3. 気兼ねなく助け合えるアフターコロナの社会を目指して
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには、人と物理的な距離、いわゆるソーシャルディスタンスを保つことが重要とされてきた。これまで日本では、多くの人がそれを守ってきたからこそ、他の国ほど感染が広がらなかったとも考えられる。だがそのことによって、見知らぬ人同士の助け合いがより少なくなり、心理的な距離も広がってしまったとすれば、残念なことである。
日本では今、新型コロナウイルスの感染者が減り、さまざまな制限も緩和される方向にある。それに伴って皆が再び外に出るようになっていけば、「新しい生活様式」の中で戸惑う人に出会ったり、自分自身が困ったりする機会も増えるかもしれない。相手や自分の感染を防ぐための配慮は引き続き大切にしながらも、声かけや手助けをする気持ちと行動を少しずつ取り戻していき、そして感染が終息した折には、感染拡大前よりも遠慮なく互いに助け合える社会を迎えていたい。
【注釈】
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出所は以下の①②、データの原典は③。
①水野映子「日本人の『助け合い』のかたちを再考する」2020年3月
②水野映子「27 健康でない人も幸せに暮らせる社会へ」第一生命経済研究所『「幸せ」視点のライフデザイン』2021年10月(東洋経済新報社)
③Charities Aid Foundation「World Giving Index 10th Edition」2019年10月 -
出所は図表1と同じ。和訳は筆者による。
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「第11回 ライフデザインに関する調査」(2021年1月29日~2月3日実施)をもとに、18~69歳17,599名の回答を分析した結果。出所は以下。
水野映子「『新しい生活様式』における助け合いのかたち ~視覚障害者のコロナ禍による困りごとをもとに考える~」2021年7月
【その他の関連レポート】
- 水野映子「ウルグアイ通信(5) 逆カルチャーショックから考える『助け合い』のかたち」2020年2月
水野 映子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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