暮らしの視点(9):高齢期の健康と共食機会

~70歳以上では「知識・話題が増えること」を高評価~

北村 安樹子

目次

1. 食事がもつ多様な機能

「食事」は単なる栄養摂取以外にも、個人や社会にとって多様な機能をもつ。コロナ禍が生活に大きな影響を及ぼしている一方で、さまざまな制約や変化が新たな暮らし方につながっているケースもあるだろう。たとえば外出の自粛や買い物の仕方をはじめとするライフスタイルの変化によって、自宅で甘いものを食べる機会や菓子づくりを行う機会が増えたり、健康づくりや体質改善につながる取り組みをおこなうことである。

また、外出や旅行・出張の機会が減り、外出先の環境や旅先の風土を感じながらその場所ならではのものを食べる楽しみが減っていることを残念に感じている人も多いだろう。食事や食文化を通じて知るさまざまな知識や情報が、仕事や日常生活に役立った経験がある人、食事の際の家族や他者の様子にふだんとは異なる気配を感じた経験をもつ人もいるのではないか。今回は、食生活に関する意識調査の結果から、仕事を通じた食事の機会が減る人も多い高齢期における心身の健康と他者との「共食」機会の関連性について考えてみたい。

2. 「共食」のメリット

内閣府が昨年9月に行った「食生活に関する世論調査」では、『共食とは、自宅、外食を問わず、家族や友人、職場の人や地域の人など、誰かと一緒に食事をすることです。一方、孤食とは、1人で食事をすることです。あなたは、共食について、孤食と比べてどのような点をメリットとして感じていますか』という設問文を提示して「共食」のメリットをたずねている(注1)。この結果をみると、男女とも「メリットを感じていない」と答えた人はわずかで、ほとんどの人が多様なメリットを感じていることがわかる(図表1)。具体的にみると、最も多くあげられたのは「会話やコミュニケーションが増えること」(男性82.0%、女性86.1%)であり、これに「食事が美味しく、楽しく感じられること」(同69.2%、76.0%)、「知識・話題が増えること」(同34.8%、40.4%)、「ストレス解消に繋がること」(同29.2%、36.3%)などが続いている。

図表1
図表1

3. 70歳以上では「知識・話題が増えること」を高評価

一方、これらの回答結果を年代別にみると、70歳以上の世代では「会話やコミュニケーションが増えること」をあげる人が8割弱を占めて最も多い(図表2)。ただし、その水準は60代以下の世代をやや下回る。一方で、「食事が美味しく、楽しく感じられること」「知識・話題が増えること」「栄養バランスの良い食事がとれること」「友人・知人が増えること」などに関しては、若い世代を上回っている。

つまり、70歳以上の人が「共食」を評価しているのは、会話やコミュニケーション機会の増加という側面だけではない。食事の種類や内容とともに、その際の環境やスタイルなどを含めて、食事の美味しさや楽しさ、その際に得たり、感じられる多様な情報や知識、栄養バランスなどの面で互いの心身の健康面に好影響があるとする人が、若い世代に比べ多いと考えられる。

図表2
図表2

4. 高齢期の健康と「共食」機会

現在のシニア世代には、仕事をはじめ、それ以外にも多様な社会的活動にかかわる人が多く、そのような人は今後さらに増えると思われる。このような人のなかには、多様な人との食事の機会を通じて、互いが生活に役立つ知識・情報を得たり、健康面など互いの暮らしの様子を知る経験をした人も多いだろう。 一方で、若い世代に比べ感染時に重症化しやすい高齢の世代については、外出や他者との接触機会が減り、家族を含む他者との「共食」の機会が減っているケースもある。これらの変化は高齢世代が「共食」のメリットとしてあげる「食事の美味しさや楽しさ」「栄養バランス」といった食べること自体にかかわる要素とともに、共食の場を通じてお互いがさまざまな情報や知識を得たり、互いの心身のコンディションを気づかい合う機会の減少につながっているケースもあるのではないか。

実際、高齢単身者のメンタルヘルスには、就業や適度な運動習慣とともに、他者との共食機会が関連していることを示唆する研究もある(注2)。会話やコミュニケーションの機会となる「共食」やそのメリットとして評価されている多様な機能を意識的に生活に取り入れたり、家族や周りの人がそれを働きかけることが、高齢者の心身の健康によりよい効果をもたらす場合もあるだろう。


【注釈】

1)「孤食」が食事をする空間や時間を共有しないことや、その際のコミュニケーションの側面に注目して用いられることが多い言葉であるのに対し、「個食」は食品・食材の単位や食事をとる際の人数やスタイルとして中立的、あるいはポジティブな文脈で用いられる場合がある。

2)末盛(2017)によれば、単身であることと精神的健康との関連性については多様な見方があるとされる

【参考文献】

1)末盛慶(2017)「単身高齢者の精神的健康―ジェンダーの視点による検討―」『社会保障研究』Vol.2 No.1 32-44.

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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