「声や画面でつながる時間」の意味

~第3回新型コロナウイルス調査から~

北村 安樹子

目次

コロナ禍が広げた非対面サポートの可能性

新型コロナウイルスをめぐり、一都三県では、緊急事態宣言下の状況がなお続いている。これらの地域を含め、感染拡大以降、移動・外出や他者との対面接触機会にさまざまな制約や新たな様式が求められてきたが、電話やメール、インターネット等を活用して家族を含む他者に多様なサポートを行った人、それらのサポートに助けられた人もいただろう。

一方で、メールや電話、インターネットを介した家族を含む他者への多様なサポートが、日常生活にさまざまな変化・制約が続く状況下で行われたことは、別の可能性をもたらした側面もあったのではないか。本稿ではこの点について考えてみたい。

60代にも広がるスマホ、これから生じうる変化

総務省の情報通信政策研究所が昨年9月に公表した「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、スマートフォンの利用率は9割を超えた(図表1)。

年代別にみると、20代を除く各年代で前回に比べ増加し、60代では45.1%→60.5%→77.2%と、前々回から20ポイント以上も増加している(図表省略)。

今回の結果では、60代におけるスマートフォン利用の広がりとともに、いわゆる従来型の携帯電話の利用率が2割を下回ったことも話題になった。パソコンに関し「家にあり自分も利用している」と答えた人が微減傾向にあるなかで、タブレットの利用率が4割弱まで上昇している点も注目される。

これらの各種機器の使い方やその併用状況には個人差も大きいと考えられるが、同じ調査によると、スマートフォンに関しては回答者の9割近くが「メールを見たり送ったりする」「インターネットのサイト・アプリを利用する」と答えている。60代ではこれらの使い方をすると答えた割合が他の年代に比べ現状ではやや低いものの、現在の60代が、今後70代以上となっていくなかで、高齢層にもメールの送受信やサイト・アプリの利用にとどまらない、多様な使い方をする人が増える可能性はあるだろう。

家族・親族と「声や画面でつながる時間」への評価

当研究所が昨年9月に行った「第3回新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」では、直接会った経験や電話やメール等で連絡した経験のある別居の家族・親族との関係に関し、感染拡大以降、対面接触機会が減ったと答えた人が9割を占めた*1。また、対面機会が増えた人を含めて、それらの家族・親族間では、電話やメールなど非対面での連絡やインターネット等を介して、相手の話に耳を傾けたり、相手の心身の健康を気遣う言葉等を送るなど、健康面や精神面への支援を意図した多様なサポート提供が行われていた。

この調査において、別居の家族・親族との関係に関し、「直接会って話したり、一緒に過ごす時間」(対面時間)や、「電話や画面を介して話す時間」(非対面時間)への評価をみると、全体の半数弱が「双方に重要性を感じることがある」と答えている(図表2)。

家族・親族への連絡手段として通話、メッセージ、動画のすべてを使う人の場合、このような人は53.7%を占め、各々の時間の重要性を評価していると考えられる*2

一方、少数ではあるが、対面・非対面時間の一方にしか重要性を感じることがないとした人も確認できる。例えば、通話、メッセージ、動画のすべてを使う人の場合、「対面時間には重要性を感じることがあるが、非対面時間には感じることがない」は8.4%、「非対面時間には重要性を感じることがあるが、対面時間には感じることがない」は5.3%となっている。コロナ禍以降、電話やメール、インターネット等を介した非対面手段の活用方法があらためて注目されているが、例えば前者の人の場合、それらを利便性の点では評価していても、声や画面を介して同じ時間を共有することや、共有する時間自体には価値を感じない(感じにくい)と考えられる。

「声や画面でつながる時間」の意味

このような「対面時間には重要性を感じることがあるが、非対面時間には感じることがない」という人には、連絡手段やスケジュール調整、各種共同作業の効率化を主な目的として非対面手段を利用している場合や、距離やライフスタイル、相手との関係性の面で、必要に応じて対面時間をもちやすいケース等が含まれるだろう。ただし、そのなかには電話やメール等での連絡や、インターネット等を介して行われたサポートに、直接会う機会や時間を十分持てないことの寂しさや虚しさを感じさせるケースもあったのではないか*3。このような場合、それらの連絡やサポートが、かえって心の距離を感じさせて、電話や画面を介した会話や時間への評価を下げた可能性もあるだろう。

緊急事態宣言下にある地域は残すところ一都三県となり、別居する家族・親族との対面接触機会にかかわる制約を身近に感じている人は、これまでより限定的になった。これらの地域に限らず、他者との対面接触機会に新たな様式が求められるウィズコロナの日々を通じて、電話やメールを通じた連絡や、インターネット等を介したサポートを行えることの利便性や安心感をあらためて実感した人もいると思われる。一方で、家族を含む他者との対面接触機会に、以前とは異なる様式が求められ、気軽な対面接触機会が少なくなっている日々のなかで、非対面手段を通じた連絡やサポート提供に相手の忙しさや心の距離を感じて、直接会って過ごす時間や、対面で行うサポートへの評価が高まっている側面もあるのではないだろうか。

【注釈】

*1 調査方法や調査結果の詳細は、以下のニュースリリースに掲載。
株式会社 第一生命経済研究所「第3回 新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査(家族編)」

*2 3つの手段をすべて使う人では「対面時間」「非対面時間」に重要性を感じることがあるとした人がそれぞれ62.2%、59.1%を占める。

*3 加齢等にともなう認知・身体機能の低下等により各種機器の利用が難しい場合や、新型コロナウイルの感染拡大のため、さまざまな予防対策が必要であることを十分理解できない場合等を含む。なお、「非対面時間には重要性を感じることがあるが、対面時間には感じることがない」とした人は「対面時間には重要性を感じることがあるが、非対面時間には感じることがない」とした人より少なく、全体に占める割合も低いが、このなかにも多様な理由で対面時間には重要性を感じないとする人がいると考えられる。

弊社ホームページの「新型コロナウイルス意識調査特集ページ」にて、これまでに実施した調査のリリースやレポートを公開しています。
https://www.dlri.co.jp/theme-detail/5102.html

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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