内外経済ウォッチ『米国~利下げ再開もトランプ大統領の期待には沿えず~』(2025年9月号)

桂畑 誠治

目次

FRBは様子見もデータ次第の姿勢を継続

米国では、トランプ関税等によって、インフレの上振れと労働市場の悪化が同時に起きるリスクが懸念されている。このような不確実性の高まる中、FRBは7月29、30日のFOMCで、政策金利を5会合連続で据え置き、FFレート誘導目標レンジを4.25~4.50%に維持することを賛成多数で決定した。ウォラーFRB理事とボウマンFRB副議長の2人が事前の発言通り25bpの利下げが適切とし、約32年ぶりに、複数のFRB理事が決定に反対した。

FOMC声明文で、経済成長の減速が指摘された一方、労働市場は堅調、インフレはFRBの目標を依然上回っているとの判断が維持された。また、日本、EUなどと通商協議で合意したが、FRB議長は、「トランプ関税等による経済見通しの不確実性は前回6月会合以降に変化していない」と説明した。議長は「会合参加者の大多数は、インフレ率が目標を上回っていることを踏まえ、緩やかな金融引き締め政策を維持することが適切と判断した」と、経済が減速したものの堅調さを維持し、労働市場が均衡を続ける一方、インフレが目標を上回っていることから、FRBは政策金利の据え置きを決定した。

雇用者数の大幅減速も失業率は小幅上昇し低位安定

FOMC後に公表された6月のPCEデフレーターは、前年比+2.8%(前月同+2.8%)と下げ渋りの状況を示した。一方、7月雇用統計では、非農業部門雇用者数は、前月差+7.3万人(前月同+1.4万人)と加速した。政府部門が同▲1.0万人(同+1.1万人)と減少に転じた一方、民間部門は同+8.3万人(同+0.3万人)と加速した。しかし、5、6月分の非農業部門雇用者数は、合計▲25.8万人と大幅に下方修正され(州・地方の教員▲10.9万人、民間部門▲13.9万人の下方修正)、3カ月移動平均でみた非農業部門雇用者数は前月差+3.5万人(前月同+6.4万人)と急減速した。ただし、民間雇用者数は、悪天候の影響もあって前月差+5.2万人(同+6.8万人)と減速したが、底堅い。また、7月の失業率は4.2%(前月4.1%)と前月からは上昇したが、低い水準にとどまっている。また、労働時間は拡大、平均時給は4%程度の伸びを維持していることから、労働市場は悪化ではなく、軟化している程度といえる。7月の景況感は、まちまちで、総じて景気減速を示しているに過ぎない。

FRBは、インフレで高い不確実性が残存していても、失業率の上昇など労働市場の軟化が続けば、9月に利下げを再開、段階的な利下げを継続すると予想される。ただし、景気は、通商合意の進展を受けた不確実性の和らぎや減税によって、26年にかけて徐々に強まり、労働市場の軟化も限定的なものにとどまると見込まれる。したがって、新たなFRB議長が就任しても、トランプ大統領が求めるような中立金利(FOMC参加者の推計中央値3.0%)を大幅に下回る利下げの早期実現の可能性は低いだろう。

図表1
図表1

図表2
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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