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内外経済ウォッチ『欧州~トランプ政権誕生による2つの変化~』(2025年4月号)

田中 理

目次

EUはトランプ関税の次の標的に

ユーロ圏経済の停滞が続いている。歴史的な高インフレの余韻、海外経済の低迷持続、ウクライナ情勢を巡る不透明感の高まりを背景に、2023・24年の成長率は1%未満にとどまった。国別には、エネルギー価格の高止まりによる競争力低下や中国向け自動車販売の不振に苦しむドイツが、2年連続マイナス成長で足を引っ張った。財政や政治リスクが高まったフランスでは、パリ五輪特需の剥落後、景気に急ブレーキが掛かっている。復興基金の最大の受け取り国であるイタリアは、当初、順調な回復を続けていたが、輸出環境の悪化が響き、足踏みしている。移民を中心とした人口増加や観光需要の回復が続くスペインが高成長を続けているが、ユーロ圏全体を牽引する力はない。

インフレ圧力が弱まったことを受け、欧州中央銀行(ECB)は積極的な利下げで、景気の下支えに動いている。今後は金融緩和の効果浸透や、インフレ沈静化と賃上げ加速による家計の実質購買力の改善が、景気の緩やかな回復を後押しすることが予想される。だが、米国のトランプ大統領が関税引き上げの次の標的としそうなのが欧州だ。主力の輸出製品である自動車や化学品などに高関税が課された場合、ドイツを中心に景気の下押しが避けられない。ドイツの構造不況と相俟って、景気の本格回復にとっての足枷となりそうだ。

図表
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防衛力強化で財政拡張に舵を切る

停滞が続くユーロ圏経済の状況を一変させる可能性があるのが財政政策の転換だ。パンデミック危機対応などを理由に財政規律の適用を全面的に停止していた欧州連合(EU)は、2024年から規律の適用を再開した。フランスやイタリアなど7ヶ国が規律違反の恐れがあるとして、是正措置を求められており、緊縮的な財政運営を余儀なくされている。また、ドイツはEUの財政規律とは別に、財政収支の均衡化を義務付ける独自の財政ルール(債務ブレーキ)を持つ。経済停滞にもかかわらず、機動的な財政運営ができなかった。

ウクライナ支援の継続に消極的なトランプ政権の誕生を受け、欧州諸国はウクライナ支援の継続と防衛力の強化が急務で、国防費の増加に向けた議論が本格化している。欧州委員会は3月初旬、加盟国への資金提供と財政規律の柔軟化を通じて、総額8000億ユーロ規模の国防費を増加させる計画を発表した。また、ドイツでは2月後半の連邦議会選挙後の政権樹立を目指す二大政党が、①インフラ関連やデジタル化対応などの投資資金に充てる特別基金を創設する、②債務ブレーキの対象から国防費を除外する、③州政府の借り入れ上限を引き上げるなどの財政緩和措置で合意した。こうした措置が具体化すれば、低迷する欧州景気の押し上げにつながる可能性がある。

図表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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