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- 内外経済ウォッチ『欧州~米大統領選の影響は?~』(2024年9月号)
輸出は景気浮揚と関税引き上げが綱引き
世界の経済・商業・金融活動の中心で、石油とガスの一大生産国である米国の大統領選挙は、欧州経済にも大きな影響を及ぼす。バイデン氏の撤退で民主党の大統領候補となったハリス氏は、低中所得者向け支援の拡充や気候変動対策の推進などバイデン路線を踏襲すると考えられる。大統領への返り咲きを狙う共和党のトランプ氏は、前回の大統領就任時と同様に、減税による経済活性化、保護主義的な貿易政策、気候変動対策の巻き戻しを掲げている。こうした政策の実現可能性は、大統領選と同時に行われる議会選の結果にも左右されるが、トランプ氏が勝利した場合、欧州経済には、①米国景気浮揚に伴う輸出拡大、②欧州製品に対する関税引き上げ、③ウクライナ支援縮小による欧州の財政負担増加、④石油・天然ガス増産によるインフレ抑制などの影響が考えられる。
欧州連合(EU)は加盟国間の域内向け輸出が6割超を占めるが、米国は域外向け輸出の約2割を占める最大の輸出相手国だ。米国向け輸出品目の上位は、医薬品、自動車、化学製品、機械類などが占め、トランプ減税で米景気が浮揚すれば、米国向け輸出の拡大が見込まれる。だが、トランプ氏は同時に、対中関税の60%への引き上げや、米国の全輸入品を対象とした一律10%の輸入関税を賦課する方針を掲げている。欧州は米国製品にシェアを奪われる恐れがあるうえ、対中関税強化による中国経済の打撃も輸出の下押しに働く。

ウクライナ支援による財政リスクに注意
欧州諸国にとって、もう1つ大きな懸念材料は、トランプ氏がウクライナ支援の継続に懐疑的な点だ。米国がウクライナ支援の打ち切りや縮小に動く場合、欧州がその穴埋めを求められる。EUはロシアによる侵攻後、ウクライナを加盟候補国として承認し、将来的にEUの一員として迎え入れる方針を示唆している。トランプ氏は長年、同盟国の防衛費負担の少なさを批判してきた。一部の欧州諸国は防衛費の増額を求められそうだ。こうしたウクライナ支援や防衛費の増加は、財政不安を抱える欧州諸国にとって、新たな財政上の火種となりかねない。来年度の予算審議が本格化する秋にかけて、トランプ氏の勝利が重なれば、欧州の財政不安が再燃する恐れがある。

環境分野での相違も大きい。トランプ氏は石油・ガスの新規開発や輸出許可に対する制限の撤廃などを掲げている。環境重視のバイデン路線を踏襲するとみられるハリス氏と比べて、原油・ガス増産を通じてエネルギー価格の下落につながりやすい。また、トランプ氏が主張するウクライナの早期停戦が実現する場合、安全保障環境の改善とロシアからのガス輸入再開を通じてエネルギー価格の低下を促し、欧州経済の押し上げ要因となる。
欧州のリーダーの間で、貿易摩擦の再燃やウクライナ支援の打ち切りの恐れがあるトランプ氏への歓迎ムードはないが、景気浮揚、インフレ抑制、金利低下、株高などにつながる可能性がある。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

