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四半期見通し『欧州~財政転換で景気浮揚を目指す~』(2026年1月号)

田中 理

目次

かつての債務不安国が牽引

2025年のユーロ圏経済は、長年の緊縮財政や産業構造転換の遅れなどで構造不況に陥ったドイツの停滞が続いたことや、財政不安や政局混乱が続くフランスでも不安定な経済環境が続き、景気回復の足を引っ張った。中核国に代わって、最近の景気拡大を牽引するのは、2010年代前半の欧州債務危機時に欧州連合(EU)の財政支援下に入ったギリシャ、スペイン、アイルランドなどだ。

かつての債務不安国は、債務危機を克服する過程で構造改革に取り組み、競争力を回復した。危機の震源地となったギリシャは、財政支援から脱却し、政府債務の削減を進め、国際的な信用を回復した。高失業と銀行問題に苦しんだスペインも、コロナ危機後の観光需要の回復に加えて、移民の流入増加による労働力不足の緩和と消費市場の喚起に支えられ、高成長を続けている。ハイテクや医薬品の多国籍企業が集まるアイルランドでは、米国による関税引き上げ前の駆け込み輸出が急増し、2025年の成長率が10%前後に達した模様だ。

このように、中核国の低迷を周辺国の好調が相殺したほか、歴史的な高インフレの沈静化と賃上げ加速による家計の実質購買力の回復、昨年来続く欧州中央銀行(ECB)による利下げ効果の浸透にも支えられ、景気は回復基調を維持している。2025年のユーロ圏の経済成長率は、過去2年の停滞から脱し、潜在成長率並みの1%台前半に復帰したことが見込まれる。

図表
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関税引き上げと財政転換が綱引き

2026年のユーロ圏経済は、米関税引き上げによる景気押し下げと財政転換による景気浮揚が相殺する形で、2025年並みの成長が予想される。

米国とEUとの関税協議は、米国がEUからの輸入品の多くに15%の関税を課す形で決着した。関税協議を巡る不透明感が後退し、先送りされていた経済活動が動き出している。懲罰的な高関税や報復の応酬といった事態が回避されたが、欧州の輸出企業への打撃は避けられない。

欧州各国の財政政策の転換は2026年以降に本格化する。経済再生と産業競争力の回復を目指すドイツは、財政収支の均衡化ルールを見直し、インフラ投資、防衛費、気候変動対策に充てる特別基金を創設した。また、欧州を取り巻く安全保障環境の変化を受け、欧州各国は防衛費の増加に舵を切った。EUは加盟国に防衛力強化に充てる財政資金を提供するとともに、EUの財政規律の判定時に防衛費を除外することを決めた。

2026年末にはコロナ危機後の南東欧諸国の景気拡大を支えてきた欧州復興基金を通じた新規の財政支援が打ち切られる。配分された資金枠の多くが未消化で、2026年中は駆け込み申請による資金拠出が続くとみられ、景気拡大を後押ししよう。

このように、2026年は順調な景気回復が続くことが予想されるが、年後半に入ると、ECBの利上げ転換やフランスの政局リスクが意識され、金融市場に動揺が広がる恐れがある点に注意したい。

図表
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田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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