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- ここが知りたい『資本コストや株価を意識した経営を要請する東証の取組み』
東証の取組み
東証は2023年3月末にプライム・スタンダード市場上場企業に対し資本コストや株価を意識した経営を要請する取組みを開始した。2024年6~7月に投資家等との意見交換を行った上で、同年8月に約1年間の取組みを総括し、今後の施策案を作成した。それを踏まえ9月下旬に追加的措置を公表した。本稿では、この取組みに対する企業の対応状況を確認し、東証の総括と今後の施策案、追加的措置など一連の動きを紹介した上で、東証の取組みに対する私見を述べる。
東証の要請に対する企業の対応状況
東証は、この要請に応じて資本効率と株価の向上に関する認識と改善策等を開示している企業のリストを、2024年1月から毎月公表している。資料1はプライム市場での開示企業数の推移を示したものである。

プライム市場では「開示済み」或いは「開示を検討中」としている企業数は既に9割弱に達している。傾向としては資料2のとおり、PBR1倍未満の会社、そして時価総額の大きい企業で開示率が高くなっている。また、PBRが1倍以上で時価総額が小さいで企業でも開示率は相当伸展していることが見て取れる。

これまでの東証の取組みの成果の総括
東証の取組みは開示率では順調に推移してきたといえる。しかし、PBR水準はこの一年の株価の上昇もあり改善したものの、資本効率の指標である企業のROEの水準はそれほどには改善していない。
東証はこのような状況を踏まえ、2024年8月に開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」にて、1年間の取組みの総括案を提示した。
そこでは、この取組みが中長期的な企業価値向上に結実するまでには相応の時間がかかるとして、改革は未だ「途上」との見解が示された。そして資本コストや株価を意識した経営や投資者との建設的な対話を通じて企業価値向上に取り組むことが「当たり前」となる市場を目指すとした。一方、開示などの対応で上場コストが増加し、上場企業が非公開化の経営判断を行うことも視野に入れ、東証としては上場社数には拘らないというスタンスも示している。上場会社について量より質を重視していくことを宣言したともいえる。また、機関投資家に対して、短期的な視点に偏ることなく、中長期的な企業価値向上を支えるという視点での企業との対話に臨むよう働きかけを行うことも表明した。
東証の今後の施策案
東証は上場企業の対応状況を踏まえ、資料3の通り、企業を3グループに分け、2024年6~7月に国内外の機関投資家、企業をサポートする証券会社・信託銀行・コンサルティング会社、シンクタンク等60社以上の関係者と現状認識や今後採るべき施策に関する意見交換を行った。

意見交換では、このグループ分けに異論はなかったが、自律的に投資者との対話を通じ対応のブラッシュアップや開示のアップデートを図っている企業群①とこれを行わない企業群②の間で対応のレベルに大きな差がついてきているとの国内機関投資家からの指摘があった。そこで東証は企業群①における対応を引き続き後押ししつつ、企業群②に焦点を当てた促進・サポート策を講じていくことが重要とした。なお、企業群③に対しては、上場会社として市場と向き合う姿勢・体制の構築を促していくこと等が必要とした。
特に企業群②は、企業の目標や対応が売上、損益を中心としたものになっており、投資者の期待に応えたものとなっておらず、企業と投資者との目線にズレが生じていることや、それが原因となってコミュニケーションが十分に行えていないことなどが課題とされた。企業群②はプライム市場のボリュームゾーンのグループであり、この課題の克服は同市場全体の持続的成長へのキーポイントとなる。このような問題意識に基づいて東証が2024年8月に打ち出した企業群②に対する今後の施策案の概略が資料4である。

ここでは、具体的に実施時期が明示されたア)とオ)の2つの事項について若干説明する。
ア)のポイント・事例集は既に2024年2月に東証が公表している。11月にはこれがアップデートされ、課題である投資者と企業との目線のギャップについて、ポイントや類型化した事例が示される。オ)は、9月下旬に詳細が公表済で、2025年1月から実施される。現在のリストは、開示済・検討中の企業名と前月からの開示状況の変更内容だけが示されている。それに加え、「開示内容がアップデートされた日」、「企業が機関投資家からより活発なコンタクトを希望する場合の記載と企業へのコンタクト先」が加えられる。また6ケ月以上長期にわたり検討中としている企業は開示リストから削除されることになる。いずれも積極的に対応しようとする企業を支援する観点からの施策であり、これにより活発な開示と対話が進むことが期待される。
東証の取組みへの期待
このような施策案からは、東証が開示と建設的対話を通じた中長期的企業価値の向上を後押ししようとする、腰を据えた姿勢が見て取れる。株式市場も「失われた30年」の間、持続的成長ができず、欧米に大きく劣後した状況であるが、長期間で生じた差を短期的に解消することは難しい。目先の株価に一喜一憂することなく、東証、企業、そして投資者が目線を揃え、企業の成長力を高める努力が必須であり、東証の取組みの着実な前進が望まれる。
河谷 善夫
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 河谷 善夫
かわたに よしお
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総合調査部 研究理事
専⾨分野: 規制、ガバナンス
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