内外経済ウォッチ『米国~FRBはリスク対応の政策強化へ~』(2024年9月号)

桂畑 誠治

目次

FRBの金融緩和が後手に回る懸念

米国では、インフレの鈍い低下が続く中で、景気後退懸念が台頭している。FRBは、24年7月31日のFOMCで、8会合連続で政策金利を5.25%-5.50%と高い水準での据え置きを続けた。ただし、7月FOMC後の声明文では、景気が堅調さを維持するなかで、雇用、インフレが落ち着き始めており、経済のバランス改善を指摘した。そのうえで「経済見通しは不確かであり、委員会は2つの責務の両サイドに対するリスクに注意を払っている」とこれまでのインフレへの警戒一辺倒から、インフレに加えて、労働市場の悪化リスクも注視し始めたことを示した。さらに、FRB議長は「雇用の責務の下方リスクは今や現実的」と労働市場悪化への警戒感を強めた。

このような中、8月2日に公表された7月の雇用統計では、失業率が4.3%(前月4.1%)と大幅に上昇したほか、非農業部門雇用者数が前月差+11.4万人(前月同+17.9万人)と減速したことを受け、金融市場では景気後退懸念が強まった。FF先物市場では9月FOMCで50bp利下げの織り込みを強めた。ただし、失業率は労働市場への参入増加によって押し上げられており、仮に労働参加率が6月と同率であれば、4.1%と前月と概ね同水準となっていた。また、悪天候のために仕事をしなかったと答えた⼈数が例年を大幅に上回る水準に急増したように、ハリケーン「ベリル」の襲来による一時的な要因によって、失業者数がある程度押し上げられた。

さらに、非農業部門雇用者数は、一時的な要因の影響を弱めるために3カ月移動平均でみると、前月差+17.0万人(前月同+16.8万人)と、米経済成長の巡航速度への鈍化を示しており、景気後退が近いことを示唆していない。

資料1 米国労働情勢
資料1 米国労働情勢

失業率上昇や株価急落が続けば大幅な金融緩和へ

今後、FRBは引き締め的な水準にある現在のFFレートの引き下げを9月に開始するだろう。失業率の上昇に歯止めがかかっても上昇リスクを回避するために25bpの利下げを決定し、その後も段階的に利下げを実施しよう。一方、失業率が労働参加者の増加のない状況でさらに上昇すれば、75bp以上の大幅な利下げを実施し、その後も大幅利下げを継続すると予想される。また、株価の大幅な下落が続けば、マインドの悪化、信用コストの上昇を通じて、家計と企業の需要が急激に落ち込むリスクが高くなるため、FRBは緊急利下げ、あるいは9月FOMCでの大幅利下げを早期に市場に織り込ませる形で、金融市場の安定を目指すとみられる。

FRBは、リスク回避のために積極的な利下げを実施すると予想され、市場金利の大幅な低下や株価の持ち直し、マインドの改善によって、深刻な景気後退は回避される公算が大きい。

資料2 FF金利先物イールドカーブ
資料2 FF金利先物イールドカーブ

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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