内外経済ウォッチ『アジア・新興国~IMFがインドの為替制度に「注文」も、インド当局はこれに反論~』(2024年2月号)

西濵 徹

目次

統計に問題を抱えるも、堅調な経済成長を評価

足下のインド経済を巡っては、政府が公表する前年同期比ベースの実質GDP成長率は7-9月も+7.6%と高い伸びが続くなど堅調な推移をみせる。しかし、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率はマイナス成長となるなど足踏みしていると判断されるなど、『みた目』と『実態』の間に大きな乖離が生じている可能性がある。

こうした問題を抱えるものの、IMF(国際通貨基金)が昨年末に公表した年次協議(4条協議)に基づく報告書は、同国経済について「旺盛な内需とサービス輸出をけん引役に世界で最も高い成長率を実現している」とした上で、「人口増加が期待されるなかで幅広い構造改革がさらなる成長の押し上げに繋がる」との見方を示す。その上で、当面は「旺盛なデジタル関連投資や公共投資を追い風に力強い推移が見込まれる」とした上で、「同国政府や中銀はIMFスタッフよりも楽観的」としつつ、「見通しを巡るリスクは均衡している」として潜在成長率(+6.3%と試算)並みの経済成長を続けるとの見通しを示す。なお、財政政策面では赤字幅は緩やかな縮小が見込まれるとして、「包括的な経済成長を下支えしつつ、国内・外のショックに対する政策余地を残した上で債務持続性を担保するためには野心的な財政健全化路線を堅持する必要がある」として、歳入拡大や歳出構造の柔軟化に取り組むことを望む姿勢をみせる。

図表1
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金融政策を評価も、為替制度の認識にギャップ

一方、金融政策に対しては「中銀が物価上昇に対応して適切な緊縮策に取り組んでいる」と評価した上で物価安定へのコミットメントを強調していることを評価している。ただし、昨年以降の国際金融市場における米ドル高の動きを反映して、ルピー相場は調整圧力が強まる事態に直面したものの、一昨年10月以降のルピー相場は動意の乏しい展開が続いており、当局による為替介入を指摘する向きもみられた。

こうしたなか、今回の4条協議レポートにおいては為替制度を巡ってIMFスタッフは「『フロート制』から事実上の『安定化制度』に移行している」との認識を示した。一方、インド当局は真っ向から反論しており、レポート内に『両論併記』された格好である。なお、中銀がルピー相場の安定を重視する背景には、輸入インフレへの警戒に加え、食料インフレに対する警戒が高まっていることがある。仮にインドの為替制度がIMFスタッフの指摘する事実上の安定化制度に移行したと判断すれば、IMFが外貨準備高について国際金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らしても依然として適正水準を上回ると試算される。しかし、世界5位の経済規模を有する上、向こう数年で世界3位に上り詰める見通しとなっている国が『自国のエゴ』をむき出しにする姿勢を隠さないことを示したものと捉えられ、他の場面でも同様の動きに出る可能性も考えられる。

図表2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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