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2025.06.20
欧州経済
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その他欧州経済
為替
スイス中銀がマイナス金利の再開に近づく
~通貨高進行や関税引き上げなど先行きの不安要素は少なくない~
田中 理
- 要旨
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- スイス中銀は6連続利下げで政策金利を0%に引き下げた。通貨高による輸入価格の下落が続いており、スイスの消費者物価は5月に約4年振りにマイナス圏に転落した。地政学的緊張や関税協議など先行きの不透明要因も多く、シュレーゲル総裁は追加利下げの可能性を排除していない。マイナス金利には副作用もあり、追加利下げのハードルは相応にあるが、スイスは2015~2022年に8年近くもマイナス金利を続けた経験がある。更なる通貨高進行や米国との関税協議の決裂時には、マイナス金利の再開か為替介入の何れかを検討する必要があろう。
スイス国立銀行(SNB)は19日、政策金利を0.25%から0%に引き下げることを決定した(図表1)。2015年1月にマイナス金利を開始した同行は、2022年6月にマイナス幅を縮小(▲0.75%→▲0.25%)し、同年9月にプラス圏(▲0.25%→+0.5%)に引き上げるまでの約8年間、マイナス金利を続けてきた。インフレ加速を受け、2023年6月に1.75%まで引き上げた後、2024年3月から利下げに転じ、6連続で利下げをしている(同行は3ヶ月に1回の頻度で金融政策を見直す)。

シュレーゲル総裁は同日の記者会見で、今回の利下げがインフレ圧力の低下に対応したものであると説明し、中期的な物価安定を確保するため、今後も状況を注意深く監視し、必要に応じて金融政策を調整する可能性を示唆した。5月のスイスの消費者物価は前年比▲0.1%と、2021年3月以来のマイナス圏に転落した(図表2)。トランプ政権誕生後の米ドル資産離れや中東情勢の緊迫化による逃避資金の流入でスイスフラン高が進行しており、輸入価格の下落が加速している。SNBが同時に発表した物価見通しによれば、政策金利が今回引き下げ後の0%に据え置かれた場合、消費者物価の上昇率は2025年が+0.2%(前回が+0.4%)、2026年が+0.7%(前回が+0.8%)、2027年が+0.7%(前回が+0.8%)と何れも下方修正された。四半期毎の見通しでは、5月のマイナス転落は一時的なものと判断しており、2025年4~6月期の前年比0%を底に、2025年10~12月期に同+0.3%、2026年10~12月期に同+0.6%、2027年10~12月期に同+0.7%と、緩やかな物価上昇の加速を見込んでいる(図表3)。SNBは予測期間を通じて物価安定の範囲内にあると説明するが、近い将来に2%弱とする中期的な物価安定の達成は見通せない。


1~3月期のスイスの実質国内総生産(GDP)は前期比+0.8%と好調だったが、これは米国の関税引き上げを前にした駆け込み需要が押し上げた。医薬品や精密機械などの輸出産業が多いスイス経済は、通貨高や関税引き上げの影響を大きく受ける。米国は7月9日までに関税協議がまとまらない場合、スイスに対する相互関税を31%に引き上げる可能性を示唆している。SNBの新たな成長率見通しは、2025年・2026年ともに1~1.5%程度の成長を見込んでいるが、通貨高や関税協議など不透明要因も多い。
シュレーゲル総裁は、2015~2022年のマイナス金利が非常時の物価安定を確保するうえで重要な役割を果たしたと振り返ったうえで、先行きの追加利下げの可能性を排除しなかったが、マイナス金利が望ましくない副作用を招く恐れがあることも同時に指摘した。先物金利は次回9月の金利据え置きの確率を8割前後、その後来年秋までの金利据え置きの確率を6割前後とみており、マイナス金利再開のハードルが相応に高いとみている。マイナス金利には、銀行の利ザヤ圧迫や家計の金利収入減少などの副作用があるが、スイスは約8年にわたって、マイナス金利を続けた経験がある。地政学的緊張による更なる通貨高進行や米国との関税協議の決裂時には、マイナス金利の再開か為替介入の何れかを検討する必要が出てくる。
田中 理
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