内外経済ウォッチ『米国~年央に利上げ休止も早期利下げは期待薄~』(2023年6月号)

桂畑 誠治

目次

FRBは信用状況の引締まりで利上げ休止を示唆

米国では、3月の中堅銀行の破綻に続き、5月1日にファースト・リパブリック・バンクが破綻したが、FRBは、米国の銀行システムは健全で強じんとの認識を示し、5月2、3日のFOMCで予想通り政策金利であるFFレート誘導目標レンジを5.00~5.25%に引き上げることを全会一致で決定した。FRBは、銀行破綻によって金融環境が引き締まっているものの、強い労働市場、高いインフレを背景に25bpの利上げが適切と判断した。

ただし、銀行破綻によって、家計と企業の信用状況が引き締まっており、経済活動、雇用、インフレを下押しする可能性が高い。この影響を考慮すると、政策金利が2%のインフレ目標を達成できるような引締め的な水準になった可能性があるとして、声明文から「追加利上げが適切とみられる」との追加利上げを示す文言を削除した。パウエルFRB議長は、「6月の会合で利上げ停止をするか否かの議論をするだろう」と6月にも利上げを停止する可能性があることを明言した。

FF先物市場では、銀行破綻による信用状況の引き締まりを受け、利上げ停止直後である7-9月期の利下げ開始を織り込んだ。しかし、パウエル議長はインフレの鈍い低下が予想されることを主因として年内の利下げを改めて否定した。

図表1
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信用状況の引締まりも早期利下げはFRBの想定外

声明文では、信用状況の引き締まりの影響の程度は依然不透明とされた。パウエル議長は中小規模の銀行が与信基準を厳しくすることで、マクロ経済に悪影響を及ぼすため、その評価を今後の重要な意思決定に反映させるとしたうえで、毎会合データで追加の利上げが必要か否か判断を行う方針を強調した。

経済・物価環境をみると、4月の失業率が3.4%(前月3.5%)とさらに低下するなど、労働市場は依然過度に引き締まっている。また、インフレの基調を示すPCEコアデフレーターが3月に前年同月比+4.6%とピークから低下しているものの、FRBの目標である+2%を大幅に上回ったままである。それでも、6月のFOMCに向けて、経済成長の鈍化やインフレの緩やかな低下傾向が継続する中、銀行の融資基準の厳格化が続けば、FRBは利上げを停止すると見込まれる。

経済成長の鈍化による労働需給の逼迫度合いの緩和を背景に、FRBは失業率が23年4Qに4%台半ばに上昇すると予想している。それでも依然低い水準であり、賃金上昇が継続すると見込まれる。このようなもと、PCEコアデフレーターは粘着性の強いサービス価格の上昇によって23年末でも前年比+3%台後半への低下にとどまるとみられ、FRBの早期利下げは期待できないだろう。

図表2
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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