内外経済ウォッチ『米国~ねじれ議会でインフレ低下へ~』(2022年10月号)

桂畑 誠治

目次

投票日までのインフレ低下は期待できず

米国では、22年11月8日に中間選挙が行われる。中間選挙で有権者の最も関心のある問題は、1位経済・インフレ、2位中絶問題となっている。

経済・インフレ情勢をみると、労働市場では、8月の非農業部門雇用者数が前月差+31.5万人(7月:同+52.6万人)と高い伸びを続けたほか、失業率は8月に3.7%(7月:3.5%)と低い水準での推移を続けている。一方、インフレでは、7月のPCEデフレーターが前年同月比+6.3%、PCEコアデフレーターが前年比+4.6%と高い伸びを続けている。このような中、バイデン大統領の支持率は、ウクライナ危機への米軍の限定的な関与が評価されている一方、インフレ高進等による経済負担の拡大を受け、40%台前半で低迷を続けている。

支持率低迷の主因であるインフレ高進への対策として、バイデン大統領は8月16日にインフレ抑制法に署名し、同法案が成立した。同法は今後10年に気候変動対策などで4,370億ドルを歳出する。一方、政府・上院民主党は税制や薬価に関する改革などで7,370億ドルの歳入を見込み、3,000億ドル以上の財政赤字削減に繋がると試算、このことがインフレを抑制すると主張している。もっとも、中立的な機関であるCBO(議会予算局)によると、2022年インフレ抑制法のインフレへの影響は23年で▲0.1~+0.1%と限定的なものにとどまると試算されているように、短期的なインフレ抑制効果は期待できない。今後も需給逼迫による住宅価格の高騰などを背景に賃貸料や帰属家賃の上昇が継続するため、11月の中間選挙に向けてインフレが大幅に低下する可能性は小さく、バイデン大統領の支持率上昇も見込み難い。

図表1
図表1

上院と下院で多数党が異なるねじれ議会

米議会の勢力図(9月4日時点)は、上院は民主党50議席、共和党50議席と同数のうえ、下院では民主党220議席、共和党208議席、欠員7議席と、民主党が僅差で議会の過半数を握っている状況である。現職大統領の支持率が低いほど中間選挙で与党が議席を大幅に減らす可能性が高まる。40%台前半の低い大統領支持率では、下院で民主党が40議席程度減らすとみられ、民主党が下院多数党でなくなる可能性が高い。上院の改選は議席数の3分の1であるほか、下院のように共和党が有利になる選挙区割りの変更がないため、現状を維持する可能性がある。

中間選挙の結果、上院と下院で多数党が異なる“ねじれ議会”となれば、民主党と共和党の対立によって、議会で法案が成立し難くなる。バイデン政権は23年以降レイムダック化し、大統領令による限られた政策実現にとどまろう。また、債務上限の引き上げや予算での対立に伴う政府機関の閉鎖などが頻繁に起き、経済成長を抑制しよう。ただし、このような政策の停滞が需要の抑制、インフレ低下に繋がり、過剰な金融引き締めを回避させる可能性を高めよう。

図表2
図表2

桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ