QOL向上の視点『環境変化に影響されにくい“幸せ”を確立しよう』

嶌峰 義清

目次

環境変化に影響を受けるマインド

新型コロナウイルスの蔓延は、世界中の人々の“消費者マインド”に悪影響を及ぼした。消費者のマインドをはかる経済統計に、日本では消費者態度指数、米国では消費者信頼感指数といったアンケート調査に基づく指標がある。いずれも収入や雇用、購買意欲など経済活動に絡む質問に対する回答で構成されており、経済環境による変化を受けやすく、消費者景況感などとも呼ばれる。

しかし、実際の指標の動きは、景気の動きだけに影響を受けているわけではない。過去の様々な国の消費者マインド統計をみると、戦争や自然災害、あるいは重大な事件や事故の影響を受けたと考えられる動きも確認される。

最近の消費者マインド統計の動きを見ると、2020年の春に急落している。新型コロナウイルスの第1波による不安の高まりや、ロックダウンなどによる雇用や収入への不安が消費者マインドを悪化させたと考えられる。

第1波が収束すると、経済活動は再開されたものの、消費者マインドは低迷を続けた。この間、例えば米国では失業率がコロナ前の3.5%から4月には14.7%まで劇的に悪化したものの、21年1月には6.4%まで低下している。それでも消費者マインドの低迷が続いていたのは、感染に対する不安が大きかったと判断される。

雇用環境が改善してもなかなか好転しなかった消費マインドが改善するのは21年の春で、一気にコロナ前の水準近傍にまで回復した。その原動力となったのが、ワクチンの登場だと考えられる。20年末から始まった米国のワクチン接種は、21年春には希望する成人ほぼ全てが接種できるメドがついた。これによる感染・重症化リスクの低下は、消費者のマインドを大幅に改善させ、景気の回復期待も高めたと考えられる。

その後、消費者を取り巻く雇用・所得環境は更に改善していくが、米国の消費マインドは21年の夏頃から徐々に水準を下げていってしまう。日本でも21年末頃をピークに低下傾向を辿り始める。このように雇用・所得環境が改善する中での消費マインド悪化の背景として挙げられるのが、物価の高騰による生活コストの増大だ。これにより、21年から改善傾向を辿った消費マインドは、日米のみならず欧州などでも、改善分をほぼ失ってしまっている。

環境に左右されない“幸せ”の確立が必要

このように、消費者のマインドは経済以外の様々な環境によっても大きく左右される。こうした不安定な状態は、人々の幸せ=Well-beingの足を引っ張ってしまうものだ。幸せの形は人によって異なるが、環境の変化に左右されにくいほど、安定的な幸福感を得られるだろう。

経済面では、収入の短期的な変化に耐えられるような蓄えを持つことが必要だ。毎月の収入から貯蓄や資産運用に回す分を決めておくことは重要だ。あるいは、生活コストを最小限に抑えるモデルケースをあらかじめ把握しておくことも不安感を減らすことができる。

健康の維持も、環境の変化による不安の台頭を抑えることには必要だろう。新型コロナウイルスに感染した場合、持病がある人とそうでない人の重症化リスクは異なるとされている。日常から健康に気を配り、これを維持することは、環境変化に対する耐久力を強めるだろう。

不安定で不透明な環境の中では、個人の力には限界がある。より多くの情報を入手し、相談し、協力できる仲間や組織があることも、人々の不安解消に役立つはずだ。

このように、お金・つながり・健康という人生の三大資産は、環境に左右されにくい“幸せ”確立にも大切な要素であると考えられる。

嶌峰 義清


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嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・内外市場、金融市場全般

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