時評『ウクライナ侵攻にみる 世界分断・緊張の高まりに憂慮』

嶌峰 義清

ロシアのウクライナ侵攻は、様々な面で世界に大きな影響を与えた。

経済面でいえば、原油をはじめとした資源価格が上昇したことで、物価の上昇を通じて景気にマイナスの影響が及ぶことが懸念される。先行きの景気減速懸念、国際情勢に対する不安などは、株などのリスク性資産にもネガティブ要因だ。加えて、ロシアに対する様々な経済制裁は、制裁を与えた国にもマイナスの影響を及ぼす。

今回の軍事侵攻は“プーチンの戦争”とも言われる。ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止するため、あるいはかつてのソビエト連邦再構築への狙いなど様々な憶測があるが、多くの識者はウクライナがロシア侵攻前の国境を取り戻すことは難しいと指摘している。そうであれば、ロシアへの経済制裁も長期化する可能性がある。その影響は、世界の生産活動に甚大な影響を及ぼすリスクがある。

ロシアへの経済制裁の中で、もっとも厳しいものの一つがSWIFT(国際銀行間通信協会)からの締め出しだ。これにより、ロシアは貿易の決済が困難になり、事実上の禁輸下に置かれる。つまり、ロシアは輸出に支障を来すが、これによりロシア以外の国は、ロシアからの輸入が難しくなる。

問題となるのは、ロシアが世界有数の資源国であることだ。天然ガスの世界最大の輸出国はロシアだ。輸出量や生産量、あるいは埋蔵量でロシアがベスト3に入るものは石油や石炭といったメジャーな資源だけではない。コバルトやパラジウムといったレアメタル(希少金属)の生産量も世界トップ、あるいはトップクラスになるものが数多くある。こうしたものは、自動車や携帯電話、パソコンなど様々なものに使われており、ロシアへの経済制裁が長期化すれば、ほかの輸入先や代替資源を見いださない限り、生産活動に限界が訪れる。実際、関連する企業だけでなく、国家を挙げて代替供給先を探す動きが出ている。遅れれば、生産活動に支障を来して景気の足かせとなるほか、国際的な競争面にも悪影響が及びかねない。

ウクライナ侵攻の影響は、国際政治や安全保障の面では、経済面以上に深刻かもしれない。

国連常任理事国による核攻撃をちらつかせた他国への身勝手な侵攻は、多くの国に衝撃を与えた。このことは、二つの大きな危惧を生じさせる。

一つ目は、領土問題や異なる政治主義を抱える国家間の緊張を高めたということだ。そうした緊張感を持つ国では、軍備拡張への動きが加速しよう。また、政治主義で近い国への援助や軍事同盟を結ぶ動きが強まろう。冷戦の時代のように、資本主義と社会主義との対立(緊張)の構図が強まることは、グローバル化による経済面へのプラスの効果を喪失し、文化の交流などによる相互理解を妨げる。環境問題など地球規模で対応する必要がある多くの課題解決に向けた動きも後退しよう。

二つ目は、核兵器の保有が抑止力ではなく、攻撃手段として使用されるリスクが現実のものとなったことである。本稿執筆時点では核兵器は使用されておらず、この原稿が読者の目にとまる時点でも使用されていないことを強く願うが、核兵器の使用を暗にほのめかしたロシアのプーチン大統領の発言は、そうしたリスクがあることを非保有国に突きつけた。

昨年発効した核兵器禁止条約など、核兵器根絶に向けた世界の努力は続いている。一方で、1963年に国連で採択された核拡散防止条約は、その後非加盟国や脱退した国が核兵器を開発、保有するなど、実効性が欠けている。これらの国の多くは、隣国との間で緊張状態にある。今後、核兵器廃絶は理想論などとして、核兵器を保有する隣国に対抗しようとする国が出てきてもおかしくはない。

振り返れば、かつての冷戦終結は世界経済に大きな恩恵をもたらした。世界のGDPは、90年代半ば頃から拡大基調が加速するが、これは冷戦終結により、人、物資、知識や技術などの交流が深まったことによる効果が大きい。これが失われることはもとより、世界が隣人を恐れるような状態に陥ることを強く危惧する。

嶌峰 義清

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

常務取締役・首席エコノミスト
担当: 経済・内外市場、金融市場全般

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