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ここが知りたい『バーチャル株主総会について』

河谷 善夫

目次

増加するバーチャル株主総会

新型コロナ感染症の拡大以降、我が国ではオンラインによるバーチャル形態の株主総会が増加している(資料1)。

近年の6月定時株主総会のバーチャルでの実施 社割合の推移
近年の6月定時株主総会のバーチャルでの実施 社割合の推移

バーチャル総会のメリット

バーチャル株主総会についてのメリットは資料2の通り整理できる。

バーチャル株主総会メリット
バーチャル株主総会メリット

バーチャル株主総会は、投資家にとって株主総会への参加・出席機会の増加、上場会社にとって議決権行使の活性化というメリットがあり、株主総会の充実が期待できるものである。また社会的にも感染症対策等のメリットがあるとされる。バーチャル株主総会の拡大は各方面への効果が大きいものといえる。

3種類のバーチャル株主総会

バーチャル株主総会は、その形態から①ハイブリッド参加型、②ハイブリッド出席型、③バーチャルオンリー型の3種類に分けられる。

以下、この3形態について、経済産業省が2020年2月にまとめた「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」)などを参照しつつ説明する。

①ハイブリッド参加型株主総会
実際の株主総会の場にいない株主が、なんらかの形での本人確認の上、WEBサイト等から中継動画を傍聴する形態である。参加する株主は法的には「出席」とならないため、会社法上の質問や動議はできない。しかし実施ガイドでは議長裁量で電磁的に受け付けた意見等を取り上げることは工夫の余地があるとしている。即ち、株主総会中或いは総会終了後に紹介・回答したり、後日ホームページなどで紹介・回答したりすることが考えられる。なお、インターネット等を通じて参加する株主は当日に議決権行使することができないことから、事前に招集通知等で傍聴を案内する際には、事前行使を行うよう促す必要があるとされている。 本形態は、新型コロナ感染症拡大以前より制度上は実施可能であったものである。

②ハイブリッド出席型株主総会
実際の株主総会の場にいない一部の株主が、ネット等の手段で会社法上の「出席」を行う形態である。現行の会社法上の解釈においては「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている」ことが前提とされている。そこで実施ガイドは、会社側は自己の通信障害について予め対策を講じることが必要とし、加えて株主が容易にアクセスするために一定の情報提供等の対策をすることが望ましいとしている。そして会社が取るべき対応として、導入可能なサイバーセキュリティ対策、通信障害が起りうることの告知、株主が株主総会にアクセスするのに必要な通信環境やアクセスの手順の通知等を挙げている。その他、株主の本人確認、株主総会の出席と事前議決権行使の効力の関係、株主からの質問・動議の扱い、議決権行使の扱い等について考え方と具体的取扱いを整理している。出席型は参加型より進んだバーチャル形態といえるが、これも新型コロナ感染症拡大以前より実施可能であったものである。

③バーチャルオンリー型株主総会
株主総会を物理的な場では開かず、株主は全てインターネット等を通じバーチャルで「出席」し総会を開くものである。会社法は、「株主総会を招集する場合には、株主総会の「場所」を定めなければならない」(法298条1項1号)とし、この場所は物理的でなければならないと解され、法律上はこの形態での株主総会は開催できないとされていた。しかし、2021年6月の新型コロナ感染症の拡大を受けた産業競争力強化法の改正により、経済産業大臣及び法務大臣の「確認」を受けた場合に限り、上場会社は株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定めることができ、この定款の定めのある上場会社については、この形態での総会の開催が可能となった。また、新型コロナ感染症の拡大の影響を踏まえ、改正法施行(2021年6月16日)後2年間は、前述の「確認」を受けた上場会社については、定款の定めがあるものとみなすことができるとされた。つまり、来年6月までは定款変更の株主総会決議を経ることなく、バーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となっている。但し、このみなしの定款の定めに基づくバーチャルオンリー型株主総会では、前述の定款の定めを設ける定款変更の決議を行うことはできないとされている。なお、当然ながらこの制度では、会社法の原則どおり、株主からの質問や動議を受け付けることが必要となる。これらへの対応はハイブリッド出席型総会についての実施ガイドが参考になるだろう。

バーチャル株主総会の今後の展開

資料3は東証が公表した今年6月定時株主総会における各形態でのバーチャル株主総会の実施予定会社数とその割合である。

2022年の6月定時総会の形態別バーチャル 株主総会実施予定会社数(速報値)
2022年の6月定時総会の形態別バーチャル 株主総会実施予定会社数(速報値)

バーチャル株主総会はほとんどハイブリッド参加型であり、バーチャルオンリー型は極めて限定的である。近年のバーチャル総会の拡大はハイブリッド参加型の増加によるものである。

ハイブリッド参加型の増加の背景として、企業が安定した通信状態の確保等技術的な部分のハードルが高いと感じていることや、バーチャル参加型でも総会外部の株主からの意見・質問を活かす工夫をすれば、感染症が拡大する下で株主参加を制限しながら株主総会の充実の観点から意味が大きいと捉えていることが考えられる。

足元ではバーチャルオンリー型株主総会を可能とする定款変更を行う会社が増加しているようだ。但しその変更内容は一様でなく、感染症や災害等の非常時に限るものや、そのような限定はなく会社が必要とした際には開催可能とするものもある。しかし、この形態での株主総会は、当面は緊急事態の際に開催されるに止まり、急速に普及することはなく、まずはバーチャル参加型・そして出席型の一般化が先行するだろう。そして3形態のいずれを取るかに関わらず、株主利益の確保と株主総会の充実に資するバーチャル株主総会とすることが求められよう。

河谷 善夫


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。