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- ドイツの財政運営が変わる
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- 緊縮的な財政運営を続けてきたドイツが変わる。次期政権の樹立を目指す二大政党は、インフラやデジタル化対応に充てる予算外の投資基金の創設、国防費を債務ブレーキの対象から除外、州政府の債務ブレーキの緩和などで合意した。反対派が改正を阻止できる新議会の招集を待たず、来週、改選前の現議会を再招集し、早期決着を目指す。
- EUレベルでも加盟国の国防費の増加に向けた資金提供や財政規律の適用除外が検討されており、ウクライナ情勢を巡る危機感が欧州諸国を財政拡張に突き動かしている。
ドイツの次期政権の樹立に向けて予備協議を開始した中道右派政党「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」と中道左派政党「社会民主党(SPD)」の二大政党は4日、①向こう10年間のインフラ、デジタル化、パワーグリッド、教育関連の投資資金に充てる連邦予算とは別枠の総額5000億ユーロの特別基金を創設すること、②ドイツの再軍備と戦略的独立を確保するため、国内総生産(GDP)の1%を超える防衛費を債務ブレーキ(財政均衡を義務付けた憲法規定)の対象から除外すること、③州政府による構造的な純借り入れのGDP比の上限を現在の0%から連邦政府と同じ0.35%に引き上げることで合意した。
ドイツはこれまで厳格な財政均衡ルールに阻まれ、経済停滞が長期化するなかでも、機動的な財政出動が難しかった。改正案が議会を通れば、GDP比で3%前後の財政拡張が可能になる。両党は来週、2月23日に行われた連邦議会選挙の結果を反映しない現議会を再招集し、改正に必要な関連法案を提出する。合意事項の見直しは憲法改正に当たり、連邦議会の3分の2以上の賛成が必要となる。連立発足を目指す二大政党と環境政党「緑の党」は、現議会で改正に必要な3分の2以上の議席を持つが、改選後の新議会では持たない(図表1)。新議会では債務ブレーキの改正に反対する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と、債務ブレーキの改正に賛成するが、国防費の増額に反対する極左政党「左翼党(Linke)」が3分の1以上の議席を持ち、改正案をブロックする可能性がある。新議会は3月25日までに招集されるため、改正案の審議に充てる時間は少ないが、事態の緊急性に鑑み、迅速な審議を目指す。緑の党は今回の合意には加わっていないが、旧議会での債務ブレーキ改正は元々緑の党からの発案だったとされ、賛成に回る可能性が高い。

両党はさらに、新議会でも公共投資の拡大を可能にする債務ブレーキの更なる見直しに着手することを検討している。国防費の増額を目的とした改正は左翼党の反対で難しいが、それ以外の目的での債務ブレーキの見直しには左翼党が賛成に回る可能性がある。こちらの改正の具体策は不明だが、例えばドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が4日に公表した改正案では、公的債務残高の対GDP比が60%未満の場合に、構造的な純借り入れのGDP比の上限を現在の0.35%から1.4%に、公的債務比率が60%以上の場合、借り入れの上限を0.9%に引き上げることを提案している。
選挙結果を受けて、債務ブレーキの改正が困難になったとの見方も浮上していたが、今回の両党の合意内容とタイミングは、当初の想定を遥かに上回る。米トランプ政権誕生後の安全保障環境の変化への対応、半病人化するドイツの経済・産業の立て直しに向けた次期政権の本気度が窺える。次期首相就任が確実視されるCDUのメルツ党首は、欧州債務危機時の財源不足が金融市場の動揺を招いた際、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁(当時)の有名なフレーズ「(ユーロ防衛のためには)何でもする(whatever it takes)」を用いて、見直しが必要であることを訴えた。ドイツの連立協議は数ヶ月単位の時間が掛かるのが通例だが(図表2)、新議会招集前の改正作業への着手が突破口となり、想定以上のペースで進んでいる。

国防費の増額を可能にする取り組みは、EUレベルでも検討が進められている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は4日、6日に開催されるウクライナ和平と安全保障環境を話し合う欧州首脳会議の場で、総額8000億ユーロ規模の欧州の防衛力強化に向けた新たな計画を提案する意向を示唆した。これらはGDP比で1.5%程度の国防費の増加に相当する(図表3)。このうち1500億ユーロは国防費に関連した投資に充てることを目的にEUが加盟国に資金を提供し、残りの6500億ユーロはEUの財政規律の適用除外規定を活用し、加盟国が財政規律に抵触することなく、向こう4年間の国防費を増額することを可能にする。1500億ユーロが新規の債券発行やEU予算から賄われるのか、欧州復興基金の未利用枠やEUの構造結束基金の資金使途見直しなどを通じて賄われるのかなど、現時点で詳細は不明だ。国毎の適用除外規定は、加盟国の制御不可能な特別な状況が中期的な財政の持続可能性を脅かさない場合に認められる。現下の安全保障環境やウクライナ情勢を考えれば、国防費の増額は不可避で、ドイツ・EUともに財政拡張に舵を切る。

田中 理
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