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2025.03.07
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ECBは利下げ打ち止めが近づく
~関税引き上げの押し下げ < 財政政策転換の押し上げ~
田中 理
- 要旨
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ECBは3月の理事会で25bpの追加利下げを決定。利下げ後の政策金利は2.5%と、あと1回の利下げで、ECBの中立金利の推計値の上限に達する。「金融政策は制限的でなくなってきた」と声明文の文言を変更したが、「データに基づいて理事会毎に判断する」政策方針を維持した。
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米国のEUに対する関税引き上げと、ドイツやEUの財政政策の転換の行方が、今後の景気・物価動向を大きく左右する。筆者は従来、関税引き上げによる景気の下振れから、中立金利をやや下回る水準まで利下げを続けると予想していたが、国防費を中心に財政拡張の確度が高まったため、2%での利下げ打ち止めに予想を変更する。
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ユーロ圏では景気低迷とインフレ沈静化が続いており、域内の金融政策を一元的に担う欧州中央銀行(ECB)は6日に終わった3月の理事会で25bpの追加利下げを決定した。昨年6月の利下げ開始以来、通算の利下げ幅は150bpとなり、預金ファシリティ金利は2.5%に低下した(図表1)。ECBは1月の月報でユーロ圏の中立金利が1.75~2.25%程度にあるとの試算を発表しており、次の25bp刻みの利下げでこの水準の上限に到達する。今回の決定はタカ派で知られるオーストリア中銀のホルツマン総裁が棄権したのを除けば、理事会メンバーの全員が賛成した。

政策金利が中立金利に近づいていることを反映し、従来「金融政策は制限的である(monetary policy remains restrictive)」と説明してきた声明文の文言を、「金融政策はかなり制限的でなくなってきた(monetary policy is becoming meaningfully less restrictive)」に変更した。ラガルド総裁は「これは無害な小さな変化ではなく、静的なアプローチから、より進化的なアプローチへの転換である」と説明。同時に今後の政策対応の柔軟性を確保するため、先行きの利下げ方針に関しては、「事前に特定の金利経路を約束せず、データに基づいて理事会毎に判断する」従来のガイダンスを維持した。「不確実性が高まっている現在の状況では、こうしたアプローチがとりわけ正当化される」と説明した。
景気のリスク判断は引き続き下振れ方向とした。貿易摩擦の激化による輸出や投資の下振れ、地政学的緊張による不確実性の高まり、過去の金融引き締めの効果が予想を上回って長期化するなどを下振れ要因として挙げた。逆に景気が上振れする要因としては、金融環境の改善やインフレ沈静化が想定よりも早く消費や投資の回復につながることや、国防費やインフラ投資の拡大を挙げた。
同時に発表されたスタッフ見通しは、足元の成長下振れやエネルギー価格の上振れを受け、2025・26年の成長率が0.2%ずつ下方修正された一方、2027年の成長率が据え置かれた(図表2)。今回のスタッフ見通しでは、2月19日の予測確定時に明らかとなっていた米中間の二国間関税の第一弾(米国が全ての中国製品に10%の追加関税、中国は80品目の米国製品に報復関税と重要金属の輸出禁止)が盛り込まれている一方、その後に発表された鉄鋼・アルミニウム関税、メキシコ・カナダに対する関税、EUに対する関税、中国に対する追加関税は含まれていない。また、インフレ見通しについては、原油・天然ガス価格の想定上振れから、2025年中の物価見通しを引き上げたが、2026・27年にかけて中期的な物価安定である2%に向けて収斂する基本的な姿は変わらない(図表3)。


4月に利下げを一時停止する可能性があるのかを問われた総裁は、「(今後新たに入手する)データが適切な金融政策が利下げであることを示唆するのであれば利下げする、そうでない場合は一時停止する」と回答し、あらゆる選択肢を排除しなかった。欧州もトランプ関税の標的となるか、ドイツやEUレベルの国防費増額を通じた財政拡張の行方など、金融政策を取り巻く環境が上下双方向に大きく変わる可能性がある。総裁が政策の自由度を確保することを意図したのは明らかだ。
中立金利の水準を巡っては、理事会メンバーの間で意見の相違があり、今回、棄権票を投じたオーストリア中銀のホルツマン総裁に加えて、シュナーベル理事、ドイツ連銀のナーゲル総裁などタカ派メンバーは、中立金利がECBの推計値よりも高いと考える(図表4)。イタリア中銀のパネッタ総裁とフランス中銀のビルロワドガロ総裁は過去に中立金利が2.0~2.5%の間にあると発言。ポルトガル中銀のセンテノ総裁は、ECBの試算値を下回る1.5~2.0%を想定する。4月の理事会ではより多くのメンバーが追加利下げに異を唱える可能性があるが、欧州連合(EU)諸国に対する米国の関税発動の中身と対象除外の有無、ドイツやEUの財政出動の規模とタイミングが、多数派意見を左右しよう。

トランプ関税を巡る不確実性は高いが、メキシコやカナダへの関税発動の延期や自動車関税の一部免除の経緯をみる限り、最初に極端な要求をしたうえで、その後に譲歩することで、最終的に自分に有利な条件での決着を目指す戦略のように思える。EU諸国への関税についても、自動車など幅広い品目を対象にした25%関税よりは低い着地点になることが予想される。
理事会の直前に明らかとなったドイツやEUの財政政策の転換方針を巡っては、「財政支出の増加は成長を促進する点で理事会の見解は一致している」、「国防は過去にイノベーションの重要な原動力であった」としたうえで、「財政支出増加のタイミング、軍事購入の場所、資金調達などの不確実性がある」と言及した。理事会の決定後に行われた臨時の欧州首脳会議では、防衛力強化に向けた総額8000億ユーロの資金確保などの再軍備計画で大筋合意した。計画の立法化と軍事費増強のタイミングについては、現時点で不透明な点も多い。ドイツの与野党が合意した投資基金の創設と債務ブレーキの見直しは、週明けに2月の連邦議会選挙の結果を反映しない旧議会に提出され、新議会が招集される25日より前の決着を目指す。見直しは憲法改正にあたり、上下両院での3分の2以上の賛成が必要となる。旧議会の議会構成を考えると、連邦議会(下院)での見直し案の可決はほぼ確実だが、州政府の代表で構成される連邦参議院(上院)の審議にやや不安が残る。
4月の理事会では、関税・財政出動ともに追加的な情報が得られるとみられ、追加利下げの有無はその内容に大きく左右されよう。筆者は従来、関税引き上げの影響で景気が下振れするため、25bp刻みの利下げを続け、一時的に中立金利を下回る水準に引き下げられると予想していたが、国防費を中心とした財政拡張の確度が高まったことで、ECBによる中立金利の推計レンジの中心値である2%での利下げ打ち止めに予想を変更する。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

