DXの視点『給与のデジタル払いとは』

丸山 雄平

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給与のデジタル払いとは

給与のデジタル払いとは、銀行口座を介さず、資金移動業者が提供するQRコード決済などキャッシュレス決済のアカウントに給与を振り込む仕組みのことであり、今年度中の制度化を目指し、厚生労働省の審議会にて検討が行われている。現在、賃金の支払い方法は「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない(労働基準法第24条)」と定められており、その例外として銀行や証券総合口座への振込みが認められている。政府はこの通貨払いの原則の例外にキャッシュレス決済のアカウントを追加することを検討している。

先進国の中でキャッシュレス化が遅れている我が国において、政府は国全体でデジタル化を推進し、2025年にはキャッシュレスの割合を40%、将来的には世界最高水準の80%とすることを目標としている(図表1)。その中で給与のデジタル払いは、キャッシュレス比率を押し上げ、デジタル社会における新たな生活様式に対応する給与の支払い手段として期待されている。

労働者のニーズも一定程度あることが確認されている。公正取引委員会「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」(2020年4月21日)では、QRコード決済の利用者のうち、約4割が給与の一部をキャッシュレス決済のアカウントに振り込むことを検討すると回答している。

給与のデジタル払い実現に向けた課題

日本のキャッシュレス化の状況を見てみると、2019年10月の消費税増税時に行われたキャッシュレス・ポイント還元事業や2020年のマイナポイント事業など、政府がキャッシュレスやマイナンバーカードの普及を目的に消費活性化政策を推進したことで、キャッシュレス決済のアカウントが急増した。現状では、新型コロナウイルスの感染防止がキャッシュレス決済の追い風となる一方、QRコード決済時に加盟店が資金移動業者に支払う手数料の無料期間が順次終了することに伴い、加盟店離れなどの懸念があり、目が離せない状況が続いている。

給与のデジタル払いが実現すると、社会的に現金管理コストが削減されることや、銀行口座を開設していない外国人就労者などへ給与振込みが可能となるなどのメリットがある。労働者にとっては、給与受け取りの選択肢が増えるメリットがある一方、給与の確実な受け取りや、本人の意思に基づいた支払先の選択が担保される必要がある。

また、キャッシュレス決済のアカウントを運営する資金移動業者は銀行のような厳格な規制要件がなく、破綻時や不正利用時の扱い、個人情報の扱いに関する課題などが残っている。企業にとっても給与支払先の追加など事務負荷の増加が想定されているため、政府は制度の厳格化や救済制度の整備、企業への事務効率化の配慮など、バランスの取れた制度設計を行うことが求められる。

図表
図表

丸山 雄平

丸山 雄平

まるやま ゆうへい

総合調査部 マクロ環境調査G 主席研究員(~2021年12月)
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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