人工知能の現状と今後の展望

~社会課題の解決と、持続的な経済成長を支える人工知能~

丸山 雄平

要旨
  • 人工知能(Artificial Intelligence: AI)は、自動運転やロボット、AIスピーカーに搭載されるなど急速に発展・普及しており、今後の日本における人口減少や少子高齢化に伴う人手不足、新型コロナウィルス感染症をきっかけとしたニューノーマルな社会の形成など中長期な視点において、人間のパートナーとしての役割を期待されている。
  • 人工知能の定義は、専門家の中でも意見が分かれており確立された定義がない。そもそも人工知能は、数学(統計学他)、工学、言語学、認知科学、計算機科学、心理学、哲学など多くの学問と関連しており、非常に研究領域の幅が広い。
  • 米調査会社Tracticaは、人工知能のソフトウェアの世界市場予想として、2018年の101億ドルから2025年の1,260億ドルに成長すると予測しており、今後も人工知能の活用の場は広がるものと予想されている。一方、ビジネスにおける人工知能の活用状況について、AI白書2020の調査によると、「既に導入している」と回答した日本のユーザー企業は5%にも満たない。
  • 企業における人工知能の本格的な活用に向けて、人工知能の信頼性向上や、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する議論の進展、説明可能な人工知能の研究が求められている。これは、企業や大学・公的研究機関における人工知能の技術的な進歩・改善だけでなく、政府における政策立案や規制・制度の見直し、国際協調・連携など、国全体で取り組みを推進していく必要がある。
  • 今後、機械学習、深層学習(ディープラーニング)の研究においては、新しい技術が開発される一方で、従来から存在する古典的な手法を見直した技術が再登場するなど、更なる技術の進化と深化が進んでいくことが想定される。コンピュータの計算性能においては、量子コンピュータと人工知能の掛け合わせで今後も技術革新や新たな発見が期待される。また位置情報データやPOSデータなどのビックデータは、集計・公表の頻度の高さから「オルタナティブ(代替)データ」として存在感を増し、人工知能への活用が進んでいくだろう。
  • 人工知能自体はまだ成長期の過程にある。今後も技術の発展に伴い、日本の社会課題を解決し持続的な経済成長を支えるとともに、小売、流通、医療、金融、農業、教育など、ますます多様な分野に進出していくことであろう。
目次

1. はじめに

デジタル技術が日常の消費生活に浸透し、IoT(Internet of Things)機器をはじめとするモノのデジタル化やネットワーク化が急速に拡大している。9月からはデジタル庁が発足し、これまで各省庁に散在していた「ヒト・モノ・カネ」のリソースが一元化されることで行政のデジタル化が進むことが想定される。また、国民の生活やビジネス環境においても、紙、はんこ、FAX、郵送など、これまでアナログやフィジカルで実施していたものが、デジタル技術の使用を前提としたものに変わっていくことが想定される。

デジタル社会の到来にあたって、政府はデジタル革新と多様な人々の創造力の融合によって実現する未来社会のコンセプト「Society 5.0(注1)」を打ち出し、経済界もその推進を後押ししている。Society 5.0を実現する中核技術の一つである人工知能(Artificial Intelligence: AI)は、インターネットや新聞、テレビなどで、言葉を目や耳にしない日はないと言ってよいほど盛り上がりを見せており、自動運転やロボット、AIスピーカーに使用されるなど、急速に発展・普及している。また、今後の日本における人口減少や少子高齢化に伴う人手不足、新型コロナウィルス感染症をきっかけとしたニューノーマルな社会の形成など中長期な視点において、人工知能は人間のパートナーとしての役割を期待されている。

人工知能は日々技術が進化しており、先行きを見通すことは非常に難しいが、本稿では人工知能の現状を述べたうえで、これまでの発展・普及した背景をもとに、今後の展望についてわかりやすく考察してみたい。

2. 人工知能の現状① ~定義と研究分野~

人工知能について、筆者の先のレポート「人工知能の民主化~来たるデジタル社会に向け、我々はどのように備えるか~(2021年2月)」にて、人工知能の歴史や現在の第三次ブームについて述べるとともに、日々想像を絶するスピードで研究が進んでいることを述べた。また人工知能は、専門家の中でも意見が分かれており現在でも確立された定義がなく、このため実体が捉えにくい側面があることについても言及した。

そもそも、人工知能は、数学(統計学他)、工学、言語学、脳科学、認知科学、計算機科学、心理学、哲学など多くの学問と関連しており、非常に研究領域の幅が広い。科学(サイエンス)という側面では、例えば知能の現象や心、脳との関係について体系的に研究されており、技術(テクノロジー)という側面においては、アルゴリズムやロボット工学などの研究が日々行われている。これは、人工知能における研究分野や関連学会を見ても、その領域の広さを窺い知ることができる(資料1)。

図表
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3. 人工知能の現状② ~企業への導入状況と課題~

現在、急速に発展・普及している人工知能について、米調査会社Tracticaは、人工知能のソフトウェアの世界市場予想として、2018年の101億ドルから2025年には1,260億ドルに成長すると予測しており、今後も人工知能の活用の場は広がるものと予想されている(注2)。

一方、ビジネスにおける人工知能の活用状況について、「既に導入している」と回答した日本のユーザー企業は5%にも満たない(資料2)。また、現在実証実験(PoC)中や利用に向けて検討を進めている企業は15%程度となっており、これから検討をする予定であると回答している企業(6.5%)を含めても、人工知能の活用はまだ手探りの状態であることがわかる。

図表
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4. 人工知能の今後の展望

近年、人工知能が急速に発展・普及した背景には、①機械学習、深層学習(ディープラーニング)の研究の進展、②コンピュータ計算性能の向上、③スマートフォンやセンサー、IoT機器および高速通信網の整備に伴うビックデータの出現があると言われている。今回この3つの背景をもとに、人工知能の今後の展望について考察してみたい。

4-①. 機械学習、深層学習(ディープラーニング)技術の進化と深化

人間や動物の脳神経回路のように、アルゴリズムを多層構造化したニューラルネットワークから成る深層学習は、2012年に画像認識精度が大きく向上しブレークスルーを果たしたが、近年は穴埋め問題のような形式で自己学習を進める自然言語処理の分野が大きく発展している。かつて、IT業界の進歩・進展を、犬やネズミの成長速度のように速いことをドッグ(マウス)イヤーと例えられたが、まさに日進月歩で技術が進歩しており、様々な分野で次々と人間を超える研究結果が発表されている。

例えば、入力画像から「犬」「猫」など自動で分類判定する「画像分類(Image Classification)」においては、既に人間の認識レベルを超えているが、近年では技術の多様化が進んでいる。資料3は、ある画像データセットに関する画像分類モデルの正解率を表すリーダーボードである。縦軸のTop1 Accuracyは、最初の予測に対する正解率を示しており、横軸の時間の経過とともに「state-of-the-art(最先端モデル)」の正解率が90%を超えるまで上昇するとともに、その他でも多くの技術が登場していることがわかる。近年、強力なコンピューティングパワーを背景に精度を向上する新しい技術が開発される一方で、従来から存在する古典的な手法を見直すことにより、軽量で高性能な技術も再登場している。これは、あたかも螺旋階段を上るように、古く懐かしいものが新たな価値を伴い、従来よりも一段高いレベルで復活していることを示している。この傾向は今後も続き、機械学習、深層学習に関する技術の進化(発見、進歩)と深化(追求、改善)が同時に進んでいくことが想定される。

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4-②. コンピュータ処理性能の更なる向上

米国の物理学者であり、インテル社の共同創設者であるゴードン・ムーア氏が提言した「ムーアの法則」は、半導体業界の経験則であり、半導体の集積率は18か月ごとに2倍に増加するという法則である。コンピュータの処理性能はこの集積率に比例しており、実際に現在に至るまで指数関数的な向上を果たしている。資料4はCPU(中央演算処理装置)クロック周波数の遷移を表すグラフであるが、「y=10X」が直線で表されるいわゆる片対数グラフであり、実際には時間の経過とともに「1→2→4→8→16→32」と加速度的に進化してきたことを示している。

近年では半導体の開発ペースが鈍化し始め、ムーアの法則は終わったと囁かれているが、量子力学を使用した夢のコンピュータと言われている「量子コンピュータ」の研究が進み、今後実用化することで、更なる処理性能の向上が期待できる。量子コンピュータは、量子力学の原理をもとにした全く新しいタイプのコンピュータであり、2019年には米国のGoogle社が実証実験に成功し、スーパーコンピュータで1万年かかる計算問題をわずか3分20秒で解いたと報道された。内容や成否について議論があるものの、これまでにない全く次元の違う処理能力を持つとともに、非常に少ない消費電力で処理を行えることから、今後のAI戦略、デジタル改革(Digital Transformation:DX)だけでなく、グリーン成長戦略の観点からもその実用化が待たれている。近い将来、量子コンピュータと人工知能との掛け合わせで、例えば、新素材や新薬の発見、脱炭素化に向けた技術革新、量子暗号通信・技術への活用、宇宙の謎など未知の現象の解明など、気の遠くなるような複雑な計算をもとにした技術革新や新たな発見が期待される。

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4-③. ビックデータの市民権の確立と人工知能への活用

ビッグデータの定義は、「デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、また、スマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ」(平成29年版情報通信白書)とされている(注5)。

これらのビックデータのうち、POSデータは民間の個人消費の予測などで活用され、位置情報データは新型コロナウィルス感染症の感染防止や予防行動の分析などに使われている。またこれらのデータは、政府の統計データや業績データなど伝統的なデータと比較として「オルタナティブ(代替)データ」と呼ばれており、集計・公表の頻度の高さから次第に存在感を増してきている(資料5)。

9月に発足したデジタル庁では、消費や移動などに関する民間データを各府省の政策に生かすことを検討しており、政策立案の基礎となる統計データを多様化し、行政へのニーズに機敏に対応できるようにする予定である。これらのデータは、即時かつ効率的にデータが取得可能になるため、これまで以上に実体経済の動きをタイムリーに政策に活かすことができ、企業にとっても国が集めたデータを事業に活用できる利点がある。

一方、課題としては、個人情報の適切な匿名化などデータ利活用に欠かせないプライバシーへの配慮と情報を保護する体制の構築があげられる。また、データの信頼性、持続可能性は常に課題になる他、データの標準化、定型化なども課題となる。今後に向けては、利用者の同意を得て購買履歴などの個人データを預かり第三者に提供する「情報銀行」や、情報を売買する「データ取引市場」が普及の鍵となるが、政府はこれらのデータの仕様や取り扱いルールをまとめ、教育や医療、インフラ、スマートシティなどを準公共分野として整備する予定であり、今後もビックデータはオルタナティブデータとして市民権を確立し、人工知能への活用が更に進んでいくだろう。

図表
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5. 今後も発展し続ける人工知能と社会実装

これまで人工知能の現状と、急速に発展・普及した3つの背景をもとに、今後の展望について考察を行った。

アメリカの発明家であり、人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルは、2045年に人間の脳と人工知能の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達すると提唱している。現在、人工知能が人間の脳を超えるかについては多くの議論があるが、囲碁や将棋などで見られるように、限られた範囲・ルールの中では人工知能が人間の能力を凌駕していることは周知の通りである。

人工知能自体はまだ成長期の過程にあり、今後も「機械学習、深層学習技術の進化と深化」や「コンピュータ計算性能の更なる向上」、「ビックデータの市民権の確立と人工知能への活用」が進むことで、日本や世界が抱える社会課題を解決し持続的な経済成長を支えるとともに、小売、流通、医療、金融、農業、教育など、ますます多様な分野に進出していくことであろう。

コンピュータの歴史は、まだ100年も経っていない。今後もデジタルを活用した社会が進み、国民の生活やビジネス環境もデジタル技術を前提としたものに変化していく。我々一人ひとりが人工知能をはじめとするテクノロジーについて正しい認識を持ち、社会実装を進めていくことで、各々のニーズに合ったサービスを享受し、人々のWell-being(幸福な状態)を実現する社会を構築していくことができるだろう。

以 上

【注釈】

(注1) 「Society 5.0」について

2016年1月に策定された第5期科学技術基本計画にて提唱されたコンセプトであり、日本が世界に先駆けて新たな社会の実現を目指すもの。経団連では、Society5.0で目指す社会を「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」と定義した。

(注2) 米調査会社Tracticaの調査

https://www.tdworld.com/smart-utility/data-analytics/article/21120143/ai-software-market-to-reach-1260-billion-in-annual-worldwide-revenue-by-2025

(注3) 倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)

新しく研究、開発された技術が社会に及ぼす影響を予見し、倫理的な観点や、法的観点、社会的観点でどのように対処するべきかを考えること。

(注4) AI戦略2021(内閣府)

https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aistrategy2021_honbun.pdf

(注5) ビックデータの定義(平成29年版情報通信白書)

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc121100.html

【参考文献】

・独立行政法人情報処理推進機構「AI白書2020」

・AIの倫理学(M.クーケルバーグ)丸善出版

丸山 雄平

丸山 雄平

まるやま ゆうへい

総合調査部 マクロ環境調査G 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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