DXの視点『テクノロジーがもたらす人々の行動変容』

丸山 雄平

目次

新型コロナウイルス感染症と行動変容

新型コロナウイルス感染症は、巣ごもり消費やリモートワークなど、いやがおうでも人々の行動変容をもたらした。行動変容とは、言葉の通り「人の行動が変化すること」を意味し、以前より健康増進や疾病予防、食生活改善等ヘルスケア分野で多く取り組まれてきた。皆さんの中にも、特定健診・特定保健指導(メタボ検診)や禁煙指導等、産業医や専門機関のサポートを受けて、実際に行動変容に取り組んだ方もいらっしゃるのではないだろうか。

行動経済学用語である「ナッジ(nudge)」は、人々の行動をそっと後押しし、自発的な行動を手助けする手法であるが、最近では、このナッジとテクノロジーを掛け合わせることで人々の心に働きかけ、行動変容を促す手法が進化している。

テクノロジーがもたらす人々の行動変容

人々の行動を変化させ、習慣化させるためには、一人一人の価値観や属性に寄り添った働きかけや、長期間にわたる細やかなサポートが必要である。スマートフォンやスマートウォッチ等のデジタル機器は、データ収集からAIによるデータ解析、パーソナライズしたフィードバックを行うことを得意としており、人々への働きかけや細やかなサポートとの親和性が非常に高い。このため実社会においても、これらのデジタル機器やテクノロジーを用いて、人々の行動変容を後押しする事例が出始めている。

環境省においては、行動に関する潜在的なニーズ(行動インサイト)と先端的技術を融合させた「BI-Tech(Behavioral Insights × Technology)」の取り組みを推進している。過去に行った家庭向けの実証実験においては、IoTデバイスを用いて各家庭の電気使用量の比較を行い、実際に多く使用している家庭に対して「同じ家族構成を持つ家庭の平均値と比べて、xx円の支出増です。」とお知らせすることで、全体で排出するCO2を約2%削減することができた。

また公共交通機関においては、通勤ラッシュ時間帯の混雑緩和を目的に、ピーク時間帯を避けた利用者に対して利用時間帯に応じたポイントを還元するプロジェクトや、リアルタイムの混雑状況をもとにスマートフォンにクーポン等を配布し、密を回避した安全・快適な移動の実現や商業施設への誘客を行う取り組みが行われている。その他、ビックデータ分析を活用して観光地の混雑状況を可視化し観光客の分散化を促す取り組みや、健康になるような行動をとると保険料が安くなる健康増進型保険も人々の行動変容を促す事例である。

テクノロジー×行動変容=持続可能な社会の実現へ

テクノロジーが人々のよい行動変容を促す一方、おとり広告やあおり行為など、ユーザーを騙したり不利な決定に導いたりする、いわゆる「ダークパターン」が世界的に問題となっている。現在、日本では消費者庁を中心にダークパターンを適切に取り締まる法改正が検討されているが、これと合わせて、我々一人一人がITリテラシーを向上させ、テクノロジーに対して正しい認識を持つことも必要である。

テクノロジーを利用した行動変容を正しい方向に活用できれば、生産性向上や効率的な資源利用が進み、経済成長と社会課題の解決を同時に実現することができる。生活者、事業者、地域社会にとって三方良しであり、持続可能な社会の実現に寄与するであろう「テクノロジー×行動変容」について、今後も注目していきたい。

丸山 雄平

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