ここが知りたい『カーボン・ニュートラルの実現に向けて』

世良 多加紘

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昨今、国内外問わず地球温暖化や気候変動への関心が高まっている。G7でも気候変動・エネルギー問題への対応を中心議題に据えようとする動きが出てきている。また、米国は気候変動の主因といわれている温室効果ガスの削減に取り組むべく、トランプ前政権の下で離脱していたパリ協定への復帰を果たしており、今後も世界的に取組みが加速していくものと思われる。そのような状況の下で、日本においても、2020年10月に、温室効果ガスの排出を2050 年までに全体としてゼロにするというカーボン・ニュートラルの実現を目指すことが宣言された。

本稿では、今後世界的に取組みが進むカーボン・ニュートラルについて、その定義、国内外における取組みの状況、実現に向けて考えられる取組みについて説明する。

カーボン・ニュートラルとは

カーボン・ニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの純増を0にすることである。純増をゼロにするとは、排出量そのものを0にするのではなく、温室効果ガス排出量から、森林等による吸収量や地中への貯留等による除去量を差し引いてゼロ換算を達成することを意味している。温室効果ガスの排出を完全に0にすることはできなくとも、排出量と同等以上の吸収・除去量を確保できれば、カーボン・ニュートラルを達成することができる。 もともと、温室効果ガス排出量の削減努力を行ったうえで、減らしきれなかった排出量を吸収・除去活動を行うことにより埋め合わせる、カーボン・オフセットという考え方がある。カーボン・ニュートラルは、このカーボン・オフセットの取組みをさらに進め、排出量の全量をオフセットすることを指す。

国内外における取組みの状況

現在、世界各国においてカーボン・ニュートラル実現に向けた取組みが行われている。2050年までのカーボン・ニュートラル実現を宣言している国は、2021年1月時点で124カ国・1地域となっている(資料1)。なお、直近に宣言した米国では、2021年4月の気候変動サミットにて、2030年までのCO2排出量の削減目標値を約2倍に引き上げることを発表する等、取組みを加速させている。2050年までのカーボン・ニュートラル実現を宣言している国々のCO2排出量は、2017年の実績ベースで世界全体の37.7%を占め、2060年までの実現を表明している中国も含めると、全世界の約3分の2を占める。このことから、これらの国においてカーボン・ニュートラルが実現できれば、全世界の温室効果ガス排出量削減に相当な影響があると見込まれる。

各国と同じく、日本においてもカーボン・ニュートラルの取組みが推進されている。2020年10月、菅総理が第203回国会(臨時会)において、2050年までにカーボン・ニュートラルの実現を目指すことを宣言した。また、2021年4月の気候変動サミットにおいては、カーボン・ニュートラル実現に向けて、2030年の温室効果ガス削減目標を引き上げる方針を発表した。従来は2013年度比26%減であったところ、新たな目標では同年度比46%減へと引き上げることを表明している。経済界においても、政府の動きに概ね賛同しており、日本経済団体連合会は、各企業の技術開発や国際協調の推進を打ち出す等、カーボン・ニュートラルに前向きな姿勢を示している。

主要国の温室効果ガス排出量の推移から、現在までの取組み状況を確認すると、米国、カナダ、中国では2013年より増加もしくはほぼ横ばいとなっている一方、日本、EUでは減少している(資料2)。2019年の日本の排出量は、算定を開始した1990年以降で最少となっている。

資料1
資料1

資料2
資料2

実現に向けて考えられる取組み

カーボン・ニュートラルの実現に向けて、考えられる取組みは、大きく3つ挙げられる。

1つ目は、製造や物流におけるイノベーションである。たとえば、CO2排出量が多いといわれるセメントやプラスチックの製造において、CO2を原料として製造するカーボン・リサイクル技術の活用が図られている。他にも、水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーで走行する燃料電池車を物流に活用することが検討されている。こういった新たな技術によって、温室効果ガスの排出量が削減できる。

2つ目は、電力システムの脱炭素化である。再生可能エネルギー、バイオマス、水素といったCO2が発生しないエネルギーを電力源に活用し、CO2排出を伴わない新たな電力システムを構築することによって、生産活動や生活のあらゆる場面で温室効果ガス排出量を削減できる。ただし、送電網が整っていない等の理由から、日本における再生可能エネルギーは他国と比べて価格が高いという課題もある。CO2が発生しない電力源の普及に向けては、欧米並みの価格で安定的かつ効率的に電力供給できるよう、電力の広域利用促進等も含め、国や企業が一体となって取り組むことが求められる。

3つ目に、カーボン・プライシングが挙げられる。カーボン・プライシングとは、CO2排出量に基づいて製品・サービス等を価格付けする仕組みである。カーボン・プライシングには、排出量に比例して課税する炭素税、企業ごとに排出量上限を決めて取引する排出量取引、CO2削減価値を証書化して取引するクレジット取引といった種類がある。現状、再生可能エネルギーの発電事業者がCO2削減価値を証書化するグリーン電力証書がすでに実用化されている。こうした温室効果ガス排出量に基づく価格付けを行うことによって、企業や個人は、排出量のより少ない製品を経済合理的に選択できるようになり、排出量削減につながるというメリットがある。一方で、経済界等においては、国際的にみて割高な日本のエネルギーコストのさらなる上昇が企業経営に影響を与えるという懸念も示されている。特に、炭素税や排出量取引については導入に慎重な意見が多く、とりまとめに向けては、規格作りや情報開示の面も含めて、政府のリーダーシップが試される。

日本にとって、カーボン・ニュートラルの実現は、大きな課題であると同時に、成長の好機ともいえる。国や企業が一体となって、環境技術を発展させ、生産プロセス、電力システム等の変革に取り組むことが求められる。今後、これらの取組みの推進を通じて経済社会全体の構造を改め、気候変動問題への対応と両立する、持続的な成長を実現していくことが期待される。

世良 多加紘

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